見出し画像

見えないものを見ようとして

最近、ホタルイカの水揚げの話題が出てくるようになりました。私の知人に納豆とホタルイカは許せないというものがおります。前世は、旋尾線虫にでも親を殺されたのでしょうか?旋尾線虫の紹介もしたいのですが、今回は私が以前に見つけたことのある光る生物の話をしようと思います。

サムネイルの写真のワツナギソウと同じです。

光る海藻

植物(海藻)はあまり詳しくないのですが、この光る海藻の名前は“ヒラワツナギソウ”といいます。私は仕事の関係で、毎年夏に兵庫県の佐津海岸にいって、生物採集をしています。写真のワツナギソウは、2022年の採集の時にみせてもらいました。日本海では自生している個体が多いようで、ダイビングやスノーケリングで見どころの1つになっているようです。ただ、この海藻は自ら光を発する“発光”をしているわけではありません。海藻に当たった光が届折して干渉作用を起こし、青や紫に光って見えるだけです。シャボン玉やCDが光って見えるのと同じ原理です。そのため、海から出して光の当たる角度が変わると光って見えません。光っていない時の色は、ワツナギソウは紅藻と呼ばれる種類の海藻なので、こい茶色といったとろでしょうか?
この海藻がなぜ光って見えるようになったのかはわかりません。藻食魚類に対する牽制を示唆する専門家もいますが、生物の特徴に何にでも意味があるわけではありません。

反射A'と反射Bがかぶっていますが、この2種類の光が重複することで干渉作用で光って見えます。

光る生物

地球上には自ら光る生物がいます。私がこれまで実際に見たことのある発光生物は、ウミホタルです。ウミホタルは、海底の砂の中に住んでいる貝虫類と呼ばれる甲殻類の一種です。魚の死骸を餌としているので、ちくわを瓶に入れ、蓋の部分に穴をあけたトラップで簡単に採集することができます。ウミホタルが光るのはルシフェリンという物質が酸化して、状態が一時的に変化することで光ります。この時、ルシフェラーゼという酵素が必須で、酸化を手助けします。

ウミホタル以外にも発光する生物は、ヤコウチュウホタルクラゲキノコなどたくさん地球上に存在します。これらの生物の発光の基本的な原理は先述したウミホタルと同じですが、ルシフェラーゼの構造が異なる、ルシフェリン以外のタンパク質が作用するなどの違いがあります。中でも、ウミホタルのルシフェリンは、ルシフェラーゼと水だけで発光します。そのため、近くの海岸で採集したウミホタルをしっかりと乾燥させ、乳鉢でつぶし、水をかけると生物特有の発光をみることができます。

採集したビンの中で発光するウミホタル。ウミホタルはルシフェリンとルシフェラーゼを含む体液を体から分泌して光ります。ヒトに例えて言えば、唾を吐き出したら、唾が光みたいなかんじです。ちなみに、発光する目的は不明です。

生物発光を研究する理由(ホタル編)

生物の発光は古代から知られており、その原理を解明すべく多くの科学者が研究を続けていました。不思議なことを解明したいという好奇心もあったとは思いますが、やはり人類の生活をよりよくするためという理由もあるのでしょう。
光る生物の代表例といってもいいホタルですが、ホタルのルシフェリンを酸化させるためにはエネルギーが必要です。少し余談になるのですが、生物は生きていく上でエネルギーは必須です。エネルギーを使って、動物であれば、体を動かしたり、熱を作って体温を維持したり、植物であれば色んな物質を合成したりします。これらのエネルギー源として、生物の体内ではATPと呼ばれる物質が作られて貯蔵されています。これは地球上の全生物共通の特徴となっています。つまり、ホタルが発光するためにはATPが必要ということです。
この性質を用いた細菌の検出法があります。まず、水の入った試験管にホタルのルシフェリンとルシフェラーゼを入れておきます。次に、特殊な綿棒で細菌が繁殖しているかもしれない調理道具などをこすって、ルシフェリンの入った試験管に綿棒をつけます。もし、調理道具に細菌が繁殖していたら、綿棒に細菌の死骸がついています。当然、細菌の体内にあるATPもついているので、試験管の水が光り始めます。このように、ホタルの光を使って見えないものを見えるようにできます

ホタルの発光のしくみと細菌の検出方を図示しました。下手な図と字ですいません。

生物発光を研究する理由(クラゲ編)

光るクラゲといえば、ノーベル賞を受賞した下村脩博士の発見したGFP(緑色蛍光タンパク質)が有名です。この物質の研究が評価されたのも、光らせることで見えないものが見えるようになったからです。例えば、はたらきのわからないタンパク質があったとします。遺伝子導入などの仕組みは割愛しますが、GFPの設計図に該当する遺伝子を目的のタンパク質の遺伝子の隣になるようにします。すると、目的のタンパク質と一緒にGFPも作られるので、細胞に光を当てることでそのタンパク質が作られて、働いている場所(細胞)がわかります。同様のことは、ホタルのルシフェリンでも行うことができるようで、目で見ることのできない細胞や細胞内で作られるタンパク質に印をつけることができます。これによって、がん細胞が体の中にどのように広がっていく様子や、がん細胞の細胞内で作られる物質を知ることができます(動物実験です)。

GFPの活用の仕方を簡単に図にしました。

【参考文献】

近江谷克裕. (2016). 発光生物の光る仕組みとその利用. 化学と教育, 64(8), 372-375.
FUKUI NATURE GUIDE ナチュラリスト Vol. 17 (2) 2006

Twitterもよろしくお願いいたします。


いいなと思ったら応援しよう!