家でもできるDNA解析!その1
先日、私の教え子の某国立大学の薬学部の学生と飲みに行きました。少し遅めの時間を指定されたので理由を聞いたところ、実習があったとのことでした。ゲノム解析?の実習の1回目とのことで、すぐに済んだらしいのですが、早く済ませられた理由が「先生の授業でやったもん!」とのことでした。決して、私の授業がハイレベルであるわけでも、最先端の設備のある学校にいるわけでもありません。彼が高校の時分にDNA解析を経験できたのは、情報技術の進歩で大学や研究機関で行っていることが、インターネットを活用すれば誰もができるようになったためです。ここでは、分子生物学の基礎を説明しながら、家でもできるDNA解析を紹介していこうと思います。
DNAと遺伝子
本題に入る前に、高校生がよく勘違いしている「DNAと遺伝子」の違いを説明します。2つの違いは一言で言うと、本(紙&文字)と本の内容です。私たちの体をつくる細胞の1つ1つに核があり、その中にDNAとよばれる物質が入っています。このDNAは、アデニン(A)、チミン(T),グアニン(G)、シトシン(C)の4つの塩基(正確には、4種の塩基を含むヌクレオチド)が集まってできています。この4種類の物質は特有の順番で一列にならんでおり、この特有の並びが生物の特徴のもとになっています。この塩基の並びは塩基配列と呼ばれ、生物種によって並んでいる塩基配列の数は異なります。ヒトは30億個、マイコプラズマ(世界最小の細菌)は58万個です、当然塩基配列が長ければ長いほど、生物としての機能は増えます。
この塩基は1000個ほどで1組のグループをつくっています。このグループがタンパク質の設計図になっているのですが、この1グループを遺伝子とよびます。例えば、「癌を発生させる遺伝子」と言うものがあるとすれば、癌の原因となるタンパク質の設計図となる1000個程度の塩基配列があるということです。
一言でDNA解析と言っても、DNAの塩基配列を調べる(どのような文字が書かれているか調べる)のと、遺伝子の働きを調べる(文章の意味を解読する)のとに分かれます。私がいつもやっているのは、前者のDNAの配列を調べて、多様な種類の生物と比較します。また、今回紹介することも前者になります。
ここからは、DNA解析で使用するサイトとその使い方の説明です。インターネットに接続すれば、自宅でも世界中で行われた研究の結果(塩基配列情報)を、ダウンロードして使うことができることを知るきっかけにしていただければ幸いです。
DNA版検索サイト
ちなみに、彼が1回目の実習で行ったことは、教官からある生物の塩基配列を渡されて、その塩基配列がどの生物のものかを調べるというものだったそうです。これだけ聞くととても専門的に聞こえますが、検索サイトでわからない言葉を検索するのと一緒です。塩基配列の検索サイトであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を利用するだけです。
塩基配列を用意する
自宅で行う場合、塩基配列を用意することが一番難しいかと思います。大学や設備のそろったところでは、特定の生物からDNAを抽出して、PCRでDNAを増やして、塩基配列を解読することで、自前で塩基配列を用意することができます。しかし、自宅が研究所でもなければ塩基配列を用意するのは無理なので、データバンクから拝借することにします。
検索結果は、私の持っているある寄生虫のBLAST結果です。Microcotyle sebasitisというのが、もっとも塩基配列の似ている寄生虫という結果が出ました。"Max Score"と”Per. Ident"の値を参考にしています。”Per. Ident"は、自分の検索した生物の塩基配列とMicrocotyle sebasitisがどれくらい似ているかを表したものです。一方、Max Scoreは検索した生物の塩基配列とMicrocotyle sebasitisの塩基配列を比較したとき、同じ塩基があるごとに入った点数です。今回は、800個の塩基配列を比較していますが、これが300個で比較した場合、Per. Identが100%にも関わらず、Scoreが600ということがあります。
最後に、検索結果で一番上にあるからといって、その生物であるとは限りません。今回の場合だと、私が検索した寄生虫は、「Microcotyle sebastisとすごい似ている」だけです。もし、Per. Identが100%でScoreが2000を越えていれば、同種と考えてもよいのです。
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