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吉池に行ってみた【その9】
3月の最後から4月の最初の週に時間があったため、以前から気になっていた“吉池”に行ってみました。吉池は、食料品を中心に、日用品や衣料品などの幅広い商品を扱っているスーパーマーケットです。また、レストランやカフェ、お土産屋さんなども併設されており、食品から雑貨まで一度に揃えることができます。しかも、JR御徒町駅前にあることから、アメ横や上野公園などの観光スポットがあり、観光客からの人気もあるようです。
どんな魚が売られていたの?
貴重な休みを利用しての調査で、東京のど真ん中にある吉池を選んだのは、連日お店の公式Twitterで紹介されている鮮魚の種類の多さに惹かれたためです。実際に訪れたときにも、西は長崎、東は北海道まで幅広い地域の魚がありました。いつも瀬戸内海と日本海の魚類を見ていたので、ハッカク(和名:トクビレ)やヤナギノマイなど北海道の魚は見ているだけでも面白かったです。(知人からは、だったら北海道に行けと言われましたが。)
購入した魚
イサキ
長崎産のものを買いました。購入した理由は、珍しい寄生虫の報告が昔あったためで、これまでも同じ理由で購入しています。
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タヌキメバル
商品名は“真ぞい”となっていましたが、和名はタヌキメバルかと。出雲産のものを購入しました。選んだ理由は、ソイの仲間には私が得意にしている単生類がよく寄生しているからです。
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ヤナギノマイ
函館産のものです。この魚はメバル属の魚類で、最も近縁な種類の魚にエゾメバルがいます。今年の初めにエゾメバルに寄生していた単生類の論文を投稿したので、もしかしたら同種の単生類が寄生しているかもしれないと考えたためです。もし、単生類が寄生していれば新発見です。
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トクビレ
八角という商品名で売られていました。単純に見た目が面白かったので購入しました。ただ、体表のトゲをどうすればよいのかよくわからず、ちょっと困りましたが…。
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結果の前に
結果を紹介する前に注意しておきます。私は、決して購入した魚を検査して “危険だ”と言いたいのではありません。私たちの体には数えきれないくらいの細菌がいるのと同じように、海の中で自由に生きている魚には何かしらの寄生虫がいます。それらの寄生虫は、食べてしまっても問題ありませんし、調理すれば死んでしまいます。吉池さんの店内でも、魚をさばいて提供してくれるようですので、刺身で味わいたいときはお願いすればよいかと思います。むしろ、魚の寄生虫は魚が死んでから一定時間がたつと見つけられなくなるので、ヒトや魚に被害をもたらさない寄生虫が見つかることは、水揚げされてから生きた状態に近いままで現在に至る、ということになります。
検査の結果
上記の魚を2匹ずつ購入したのですが、寄生虫を見つけられたのは、タヌキメバル1匹とヤナギノマイ1匹からだけでした。時間の関係で、エラと体腔以外はじっくりと調べることができなかったので、消化器官の中に寄生しているかどうかはよくわかりません。筋肉については、検査はしませんでしたが、美味しくいただきました。
タヌキメバルからは、2種類の単生類を発見しました。単生類は魚類のエラもしくは体表に寄生する寄生虫で、魚の血液や体表の粘液を食べますが、害があるわけではありません。今回は、2種類ともエラに寄生していたのですが、タヌキメバルから単生類が見つかった記録はこれまでありません。単生類は一般的に宿主特異性(単生類Aはメバルaにしか寄生しないというように、寄生虫が宿主の魚をえり好みすること)が高いと言われています。そのため、まだ見つかっていない、新種の単生類?という期待が持てるのですが、あくまでも期待です。これから、染色標本作製とDNA解析を行って、ちゃんと調べて行きます。
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ヤナギノマイからは線虫を4匹発見しました。この線虫については、Twitter経由で種類を検査していただけると言う話を頂き、DNA解析をしてもらいました。結果は、不明種1種とHysterothylacium fabriとAnisakis simplexでした。Hysterothylacium fabriとAnisakis simplexは、共にアニサキス科の線虫です。“あのアニサキス”になるのですが、これらの線虫は解剖する前に体表をチェックしていたときに、肛門からはい出してきたものでした。アニサキスが問題になるのは、筋肉中に寄生しているアニサキスを食べてしまうことなので、今回のアニサキスは肛門から出てきている(筋肉にはいない)ので問題はないと思います。
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後片付け&
正直に言いますと、調理場所がなかったため、今回購入した魚の大半は自分で食べることができていません。検査した魚のほとんどを知人に譲り、料理の写真と味の感想をもらいました。好評価をもらったものの、検査するために長時間常温においていたこともあり、刺身で食べられなかったことが残念でした(いつもは、エラと内臓を取り除いたら、すぐに調理していたので)。
東京のど真ん中で地方の魚を検査することには不安がありました。理由は、水揚げされてから、店頭に並ぶまでに時間がかかり、その間に魚の鮮度が落ちて、寄生虫もいなくなっている可能性が高いためです。しかし、今回検査をしてみて杞憂であることがわかりました。顕微鏡で観察したエラや内臓の一部は、いつも検査している漁港で水揚げしたばかりの魚とあまりかわりはありませんでした。吉池さんの魚は、かなり丁寧に保存・輸送されていると感じました。いつも購入している漁港の即売所に比べればけっこう高額でしたが、都心でこれだけの鮮度を保っているとなると頷けます。次は、時間をちゃんと確保して併設されているレストランで美味しい魚を頂こうと思います。なかなか行けるところではないんだけど。
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