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分類学の注目株!Microcotyle caudata

ここでは、私がこれまでに見つけた動物を気まぐれで紹介していきます。今回は自分がずっと関わってきた生物です。興味を持ってくれると嬉しいです。

和名:コガタツカミムシ(属名)
学名:Microcotyle caudata Goto, 1894
分類:扁形動物門 単生綱
生息:エラに寄生(宿主:アカメバル,シロメバル,クロメバル,カサゴ,ムラソイ,クロソイ,キジハタ)
解説:メバル属魚類をはじめとした沿岸に生息する魚類のエラに寄生している単生類です。宿主の魚類に悪影響を与えることはほとんどありません。しかし、養殖場などでは大量発生することがあります。コガタツカミムシ属単生類はエラから魚類の血液を吸って食べていることから、ミクロコチレ症という宿主にひどい貧血を引き起こす病気の原因となります(福田 1999)。魚病学的には有名な寄生虫の1種ですが、釣り好きの人でもこの寄生虫に気づく人は少ないと思います。

シロメバルのエラに寄生していたMicrocotyle caudata。精巣数は14なので、従来はMicrocotyle sebastisciでしたが、現在はMicrocotyle caudataとなっています。

分類学上の課題

この単生類は長らく動物分類学上の課題となっていました。Microcotyle caudata(以下本種)は、1894年に愛媛県松山市のメバルに寄生しているのを、五島淸太郎によって初めて報告されました。その後、1958年に兵庫県神戸市のメバルにMicrocotyle sebastisciが寄生しているのを山口左仲が報告しました。Microcotyle sebastisciは学名をみればわかるように、本種と同じコガタツカミムシ属単生類です。形態がよく似ているのは当然なのですが、違いは精巣数だけでした(本種20〜26 vs Microcotyle sebastisci 8〜20)。しかも、重複しているところもあることから、分類学的な課題となっていました。この課題は、目黒寄生虫館東京大学総合博物館に収蔵されているホロタイプの形態を検査や、塩基配列を比較することで明らかになりました。本種とMicrocotyle sebastisciの違いは、精巣数以外に特になく、精巣数に関わらず塩基配列はおなじでした。これらのことにより、Microcotyle sebastisciは本種のシノニムとなりました。

東京大学総合博物館に収蔵されていたMicrocotyle caudataのタイプ標本。ホロタイプが指定されていなかったため、正確にはレクトタイプになります。

現在の課題

単生類は、基本的に宿主特異性が高いと言われています。つまり、特定の魚種にしか寄生しないということです。本種はもともとメバルにしか寄生しないとされていましたが、Microcotyle sebastisciがシノニムとなったことから、本種の宿主魚類は2科3属7種と大変宿主範囲の広い単生類となりました。また、ミクロコチレ症の原因はMicrocotyle sebastisciとされていたことから、本種がこの病気の原因である可能性がでてきました。しかし、ミクロコチレ症は養殖されているカサゴに見られる病気ですが、カサゴにはMicrocotyle kasagoという別種が寄生しています。ミクロコチレ症の病原は本種とMicrocotyle kasagoのどちらであるかはこれからの研究課題となります。

少し赤色(ピンク)になっているのが、魚の血液。食事中の本種を摘出してしまったみたいです。

【参考文献】

Fukuda, Y. (1999). Diseases of Marine Fishes and Shellfishes Cultured in Oita Prefecture Diagnosed from 1980 to 1997. Bulletin of Oita Institute of Marine and Fisheries Science, 2, 41–73 (In Japanese).
Goto, S. (1894). Studies on the ectoparasitic trematodes of Japan. Journal of the College of Sciences, 8, 1–173.
Ono, N., Matsumoto, R., Nitta, M. and Kamio, Y. 2020. Taxonomic revision of Microcotyle caudata Goto, 1894 parasitic on gills of sebastids (Scorpaeniformes: Sebastidae), with a description of Microcotyle kasago n. sp. (Monogenea: Microcotylidae) from off Japan. Systematic Parasitology 97: 501–516.
Yamaguti, S. (1958). Studies on the helminth fauna of Japan. Part 53. Trematodes of fishes, VII. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 7, 53–88.

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