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ネクストパラサイト!?
年末に突然“ネクストパラサイト”という言葉をニュースで耳にしたので、新たな生活形態の寄生虫が現れたのかと思いびっくりしましたが、どうやらアニサキスに次ぐ寄生虫が原因の食中毒が増えているとのことでした。原因は、魚介類の生食が大好きな日本人と冷蔵技術の発達と言ったところですが、生物のことをちゃんと理解すれば、問題ないかと思われます。(今回の記事に関連する寄生虫や魚の写真がなかったので、表紙はヒラメに寄生していた単生類の写真です。)
アニサキス症の原因と危険な点
まずは、アニサキス症について簡単にお話します。アニサキスは線形動物、いわゆるセンチュウの仲間です。クジラやイルカの腸管内に寄生して卵を産みます。この卵は海水中に放出されてオキアミなどのプランクトンに取り込まれたのち、プランクトン→イカ(サバなどの魚類)→クジラ類と食物連鎖を経てイルカやクジラ類の腸管内に戻ります。本来、クジラ類の消化器官内に戻る予定のところを、イカなどの生食によってヒトの体内に入ってしまうと、ヒトの体の中で暴れまわり、腹痛や嘔吐の原因となります。
What’s ネクストパラサイト?
アニサキスと同様に食中毒を引き起こす原因として取り上げられているのは、コリノソーマ(Corynosoma sp.)です。鉤頭虫とよばれる動物群の動物で、マダイの腸管に寄生しているクビナガコウトウチュウが一番身近な鉤頭虫でしょうか?詳しくは、過去の記事を見ていただけると幸いですが、頭部にかえしのようになった鉤が多数存在し、これを宿主の腸管の壁に突き刺して寄生しています。
このコリノソーマも、アニサキスと同じく海の哺乳類であるトドやアシカの腸管内に寄生する寄生虫で、腸管内で産んだ卵を海に放出し、プランクトン→魚類(ニシンやタラ)→トドやアシカと食物連鎖を経て宿主を変えます。ヒトも同じ哺乳類であることから寄生されてしまいます。
アニサキスとの共通点
アニサキスもコリノソーマも最終的に海洋哺乳類に寄生することが共通点になります。地球上には数多の寄生虫がいますが、それぞれ宿主の動物の種類に応じて体の特徴を変えています。つまり、魚に寄生する寄生虫は、魚の消化液や免疫細胞から身を守るための仕組みができています。なので、魚の体内にいても平気ですが、鳥類の体内に入るとあっというまに消化液で溶かされるか、免疫細胞に殺されていまします。しかし、アニサキスやコリノソーマは哺乳類の寄生虫です。同じ哺乳類のヒトの体に入ってすぐはなんともないのですが、そのうち合わないことに気づくと、ヒトの体に悪さをはじめます。
アニサキスとの違い
その1
寄生場所がそれぞれ異なります。アニサキスは、イカやサバの筋肉中に寄生しているので、刺身で食べた時に感染します。一方、コリノソーマはニシンやタラの腸管内にいるので、はらわたを傷つけずに取り出せば感染しません。そのため、アニサキスの予防として、アニサキスが寄生している可能性のある魚類を日本では−20℃で24時間以上の冷凍することが義務付けられています。
その2
間違えてヒトに寄生したことに気づくまでの時間が異なります。アニサキスは、感染後数時間くらいで症状があらわれます。言ってみれば、すぐに間違えて寄生してしまったことに気づくわけです。一方、コリノソーマは時間がかかるようです。藤田ら(2016)によると、70代の男性の腸管から摘出したコリノソーマ(雌)の体内に卵があったことから、寄生したのち成長し、交尾?するまでの間寄生していたということです。
症状も時にアレルギー反応を示すアニサキスとひどい時には腸閉塞を引き起こすコリノソーマと異なることはまだあります。ただ、寄生虫研究の結果をもとに予防法などが法律で定められていますので、水産業者や医療関係者の方の指示を守って調理してください。
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私の出番
私の出番はありません。正確には、寄生虫の分類の研究の出番についてです。佐々木ら(2019)によると、コリノソーマはヒトへの寄生報告はあるものの、「感染源の魚種」「日本近海の魚で寄生している確率」「何種類いるか」が不明になっています。つまり、「どの魚が安全かは分からないし、感染してもどの種類のコチノソーマに感染したのかはわかりません。」ということです。
そこで、分類学者に求められることは、アザラシやトドの体内に寄生している成虫(卵を産むことのできる)のコリノソーマの標本を作り、体の特徴をもとに種類を分け、DNAを調べることです。なぜ、DNAを調べるのかというと、私たちヒトが寄生虫など何かに感染するときは、卵か幼虫がまざった食べ物を食べることで感染します。卵や幼虫は構造が単純なので、見た目では種類を分けることができませんが、DNAは体の一部さえあれば調べることができるので、構造が単純な卵や幼虫でも種類を調べることができます。
DNAバーコーディング
20世紀の終わりぐらいは、分類学の手法が、標本をつくり、僅かな違いを見つけて種類を分けるという職人的要素があることから、「分類学は学問ではない」と言われていたようです。現在の分類学者は、従来通りの職人的手法にDNA解析を加えて研究を進めています。それによって、体一部からDNAを取り出すことで種類を特定できるようにしようとしています。これをDNAバーコーディングといいます。
ちなみに、コリノソーマですが日本(正確には北海道)には、ゼニガタアザラシやスナメリに寄生するCorynosoma strumosum,ゴマアザラシに寄生するC. semerme,トドに寄生するC. villosumの3種がいることがわかっています。また、ヒトに寄生しているのはC. villosumであることもDNA解析から判明しています。どの魚にどれくらい寄生しているのかはまだ研究途上のようです。
参考文献
Fujita, T., Waga, E., Kitaoka, K., Imagawa, T., Komatsu, Y., Takanashi, K., ... & Katahira, H. (2016). Human infection by acanthocephalan parasites belonging to the genus Corynosoma found from small bowel endoscopy. Parasitology international, 65(5), 491-493.
Sasaki, M., Katahira, H., Kobayashi, M., Kuramochi, T., Matsubara, H., & Nakao, M. (2019). Infection status of commercial fish with cystacanth larvae of the genus Corynosoma (Acanthocephala: Polymorphidae) in Hokkaido, Japan. International journal of food microbiology, 305, 108256.