経営の根本に宿る存在意義=企業にとってパーパスとは何か探ってみた
「〇〇経営」という言葉が氾濫しています。「ESG経営」「CSV経営」「タイムマシン経営」「パーパス経営」「ウェルビーイング経営」「人的資源経営」などなど…。そして呼応するかのように、経営戦略や経営改革、企業価値の創出などと銘打ったセミナの多いこと! しかも「〇〇流…」やら「〇〇から学ぶ」から果ては「間違いだらけの…」まで、興味をくすぐるタイトルの数々。
どれも素晴らしいのですが、こんな広告を目にするにつけ思いだすのは、本田宗一郎さんの言葉。京セラを創業して2・3年目の若かりし稲盛和夫さんが、初めて本田宗一郎さんと出会った有馬温泉での二泊三日の経営セミナで、講師に招かれた本田宗一郎さんが開口一番言い放ったこと…、
「みなさんは、いったいここへ何しにきたのか。経営の勉強をしにきたらしいが、大体、温泉に入って、浴衣を着て、経営が学べるわけがない。さらに、他人の話が経営のプラスにならない証拠に、私はだれからも経営について教わっていない。そんな男でも会社が経営できるのだから、こんなことにお金と時間を使っている暇があるなら、早く会社に戻って仕事をしなさい」
この言葉だけでも経営者たる真理をついた、強烈だけど温かいメッセージのように感じます。
しかし現実は経営セミナが大はやり。大はやりということは、その分聴講者も多いという事。でもその割に、実際に経営力が向上した企業はどれだけあるのだろう???
まさに前作で書いた、似非世界標準経営(似非アメリカ式経営)に飛びつき、中途半端な導入に走る姿が目に浮かびます。
たとえばパーパスとVMV(ビジョン、ミッション、バリュー)。
パーパス経営が叫ばれるようになった途端、昨日まで「ビジョンだ/バリューだ」と言っていたのに、とってつけたようにVMVの上にパーパスを乗せただけのピラミッドを描いて、急に「これからはパーパス経営だ」なんていう経営者がいます。
そんな折、味の素・執行役の講演を聴く機会がありました。流行り言葉に飛びつくものの長続きしない経営者が少なくない中、信念と自信に満ちた、非常に響くお話でした。特に印象的だったのは、〝個人のパーパスの実践で企業価値を向上させる「Our philosophy」〟について。
一見、先のピラミッドと同じように見えますが、味の素では、
位置付け、パーパスを実現するためには、「多様な自律した個人」と「価値創出する組織」が共に成長しあうことが不可欠だとして、時間をかけて創業の志を全社に浸透し続けているとの事でした。そしてこれこそが人的資本経営推進のためのウェルビーイング経営そのものだとも。
つまり、はやりのキーワードを単にくっつけているのではなく、それぞれを自分なりに解釈して論理を組み立て、理論立てて意思表明していると感じたのです。
(Our philosophy | グループ企業情報 | 味の素グループ もご参照)
ほかにも、
中期経営計画をやめて、FY30(なりたい姿)に向かって今何をすべきかを考えるバックキャスト指向の経営
目標に向かって「Try & Run」の姿勢(※Challengeは〝失敗は許されない〟とのニュアンスがあり高尚とのことで…)
このような実践例に触れると、(前作の繰り返しですが…)あらためて私たち日本人は、本質的な弱点や弊害、愚行を認識し、意識を変えることによって、もう一度自信をもって、独自のアプローチで取り組んで行けるのでは…と考えます。なによりワクワクします。
味の素以外にも素晴らしい「Our philosophy」を掲げている企業はありますが、意識しないと(一生懸命探さないと)出逢うことができません。
もっともっと国内外に向け、声高にPRしてほしいと願います。そして私たちも企業の「Our philosophy」にもっと関心をもってもいいのではないでしょうか❕❢
(おまけ①)
パーパスに触れるにつけ、近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」や、高田郁さんの小説「あきない世傳 金と銀」の五鈴屋の店是「買うての幸い、売っての幸せ」が思い浮かびます。
ほらここにも…。あわてて〝パーパスという言葉〟に飛びつかなくても、昔から日本人の心の根底には、このような精神が宿っているのですよ!!
(おまけ②)
しかし「パーパス=存在意義…何のために存在しているのか」という経営の根本にある理念・価値観だとすると、
ビジョン=目指すべき姿…〝実現することで私たちの存在意義を示す〟
ミッション=果たすべき使命…〝ビジョンに向かいパーパスを示すために私たちがするべきこと〟
バリュー=行動指針…〝行動することで私たちの存在意義を示す〟
と解釈できるので、
単純なピラミッドより、私はこの方がしっくりきますがいかがでしょうか?