
動機付けの新しい形:社会構成主義を活かすコーチング
はじめに
コーチングの場面では、クライアントが自分の目標や価値観に気づき、それを行動に移す力を引き出すことが重要です。私自身、コーチングセッションで対話を重ねる中で、クライアントだけでなく自分のモチベーションも高まる瞬間を多く経験してきました。
コーチングは、単に「目標を達成するための方法」を教えるものではありません。むしろ、対話を通じて新たな視点や可能性を共に見つけ、クライアントが自分自身の動機を再発見するプロセスです。
本記事では、動機付けを深く理解するための三つの構成主義的な視点(社会構成主義、社会的構成主義、心理的構成主義)を踏まえ、それぞれをコーチングでどのように活用できるかを考察してみます。
1. 社会構成主義(Social Constructionism)から見る動機付け
社会構成主義は、現実や知識が人々の間で行われる対話や社会的な相互作用を通じて構築されるという考え方です。この観点から動機付けを考えると、動機は個人の内部に固定的に存在するものではなく、社会的文脈や人間関係によって形作られるものと理解されます。
1-1. 関連性の例
社会的期待: 社会的に構築された「成功」や「満足」の定義が、個人の動機付けに影響を与えます。たとえば、企業文化が「成果主義」を強調する場合、従業員のモチベーションがこの企業文化に影響を受けることがあると考えます。
対話を通じた動機の形成: コーチングやフィードバックのプロセスにおいて、対話を通じてクライアントや従業員が新たなモチベーションを見出すことができます。
意味づけの共有: チーム内で共有される目標や価値観が、個々のメンバーの動機付けを強化したり、弱化する可能性があります。
1-2. コーチングでの応用
クライアントの現実の再構築: クライアントが自身の課題や状況を「固定されたもの」として捉えている場合、それがどのような社会的文脈や対話によって形成されたのかを探る対話を行います。これにより、新たな視点や行動の選択肢を見出せます。
例: 「あなたの目標設定に影響を与えている価値観はどこから来たものでしょうか?」と問いかけ、クライアントが自分の価値観を再定義する機会を提供。
関係性の構築: コーチとクライアントが「共に現実を構築する」という姿勢で対話を進めることで、信頼関係を深め、クライアントの内発的動機を引き出します。
2. 社会的構成主義(Social Constructivism)から見る動機付け
社会的構成主義は、個人が他者との相互作用を通じて知識を構築していくプロセスに焦点を当てます。学習や動機付けは、社会的環境や共同作業を通じて発展するものとされます。
2-1. 関連性の例
学習環境の影響: モチベーションは、個人が所属する社会的環境(職場、コミュニティ)の中で共同作業を通じて促進されます。たとえば、学習者が仲間と協力する中で「達成したい」という動機が生まれます。
動機の共同構築: 例えば職場では、メンバーが上司や他の同僚と対話しながら目標を共有することで、内発的動機が高まる可能性があります。
2-2. コーチングでの応用
共同作業型の目標設定: クライアントとコーチが協力して目標を設定することで、クライアントが自分の目標に対する主体性と責任を感じやすくします。
例: 「この目標を達成することで、どんな影響が他者や組織に及びますか?」と問いかけ、社会的なつながりを意識した目標設定を支援。
学びの共同構築: コーチングセッションを「学びの場」と捉え、クライアントが自分自身の洞察を深めるプロセスを促進します。
3. 心理的構成主義(Psychological Constructivism)から見る動機付け
心理的構成主義は、個人が主観的な経験を通じて知識を構築するプロセスに焦点を当てます。モチベーションに関しても、個々人の内面的な動機や認知的プロセスが重視されます。
3-1. 関連性の例
自己決定理論(Self-Determination Theory, SDT)の観点: 個人が主体的に選択し、自己成長を目指すプロセスにおいて、動機付けが重要な役割を果たします。
内発的動機: 学びや活動そのものを楽しむことに基づく動機は、個人が自分の経験を積極的に再構成する際に生じます。
外発的動機: 報酬や評価など、社会的文脈から生じる動機も、個人の認知的プロセスによって取り込まれます。
メタ認知と動機付け: 自分自身の学習や目標達成プロセスをモニタリングし、調整する中で、動機が強化される可能性があります。
3-2. コーチングでの応用
内発的動機の引き出し: クライアントが持つ「自分が何を求めているか」「何が大切か」を内面的に掘り下げるための質問を行い、自己決定感を高めます。
例: 「あなたが本当にワクワクする瞬間はどんなときですか?」という問いを通じて、内発的動機を明確化。
メタ認知の活用: セッション中にクライアントが自分の考え方や感情に気づけるよう、リフレクションを促進します。

実践に向けたアプローチの統合
これらの理論を実際のコーチングに活用する際には、以下のような統合的なアプローチが効果的だと考えています。
対話を通じた現実の再構築: 個人やチームが抱える問題を、対話を通じて新しい視点で捉え直す。
学習と成長の場の提供: 組織内に、個人やチームが主体的に学び、成長できる機会を設ける。
文化と個人の連動性の強化: 組織カルチャーを個人の目標や価値観と結びつけ、個々のモチベーションを引き出す。
このように、構成主義的な視点を活用することで、コーチングの実践に深みを加え、個人と組織の変革を促進することが可能になるのではないかと考えています。
まだまだ仮説の段階ですので、コーチングの実践の場で試行していき、また発見があったら記事にしたいと思っています。
いいなと思ったら応援しよう!
