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好きだから待ってみたい
自分でもアホやなと思う。自分から別れを告げたのに、後になってスキを自覚した。待っていても時間の無駄なだけかもしれないが、好きだから待ってみたい。
小学一年、入学式の日、私は同じクラスのコウ君に恋をした。何がよかったのかは、全く覚えていない。一目惚れだったことだけは覚えているが、アルバムを見返してみても、コウ君は全くもってイケメンではなく、どこをどう見て好意を抱いたのかは未だに謎である。
とにかくずっと好きだった。我が家は教育熱心だったので、中学受験をする予定だったが、コウ君がそのまま地元の中学に行くというので、私は親に難癖をつけて中学受験をやめた。
コウ君は、中学二年のとき、長身の私を追い抜いた。クラスは違ったが、廊下ですれ違い際、「やっとお前より高くなれたわ」と耳元で囁いた声にキュンとした。
もしよかったら二人で帰らへん?と誘ってくれたとき、もしかして私のこと好きなのかなと思ったが、好きと言ってくれることはなく、私も好きだと伝えることはなく、まあでも一緒にいられるならいいかと、曖昧な間柄が続いた。
卒業式の日、最後なのに勇気が出なくて、好きだとも言えなかったし、第二ボタンちょうだいとも言えなかった。
コウ君が何かを言おうとしていた。モジモジしていたから、ついに気持ちを伝えてくれるのかなと思ったら、彼の口から出てきた言葉は、「小一のとき、牛乳こぼしてごめんな」だった。
なんだそれ、と思ってずっこけた。確か、小学校に入って初めての給食の日、隣の席だった彼は、手を滑らせて牛乳瓶をひっくり返し、ほぼ一本まるまるの牛乳が、私のお道具箱に注ぎ込まれ、新品の教科書やらノートやらがデロンデロンになって、私が泣いたのだった。
あのとき、彼は謝ってくれたし、私も許したのだが、彼が言うには、私が落ち込むのを見て、謝り足りないと思い、いつかきちんと謝りたかった、とのことだった。
優しかったのは、好きだったからではなく、牛乳をこぼした故の申し訳なさからだったのか、と九年間の甘酸っぱい青春は、吉本新喜劇みたいに終わっていったのだった。
こんなことなら中学受験すればよかったのに、無駄な時間だった、と言う人もいるかもしれない。でも、コウ君に恋した九年間は、すごく楽しかった。私の人生に、素敵な青春をプレゼントしてくれたと思っている。
高校に入ってからは、とにかく勉強勉強勉強、続く人生も、就職就職就職、仕事仕事仕事で、不器用な私は、恋愛はごめんなさい状態だった。だから、実質今回が人生二度目の恋、なのである。
とは言え、初恋は、いわゆる子どもの恋愛ごっこみたいな感じだったから、大人の恋は、今回が人生で初めてになる。
少女漫画だけはよく読んでいたので、好きな女の子を失いそうになりながらも、男の子が泥臭く追いかけてハッピーエンド、というのに勝手に憧れていたのだが、実際は、別れを告げたら連絡が取れなくなって、人生詰んでいる。
ただ、彼は、私が何度「もうヤだ」と突き放しても、僕は貴方を忘れられない、好きだからと食い下がってくれた。
だから、何か月も連絡が取れないことに困惑している。仕事に来ていないらしいから、私が連絡を取ろうとしていることも、伝わっていないだけなのかもしれないが。
割り切って別の人に目を向けようよと、周囲には促される。多分、正論。ただ、子どもの我儘みたいになるけど、「だって好きなんやもん」としか返せない。
彼がどこかのタイミングで出社して、何かの拍子に連絡をくれれば万々歳だし、連絡が来なくて実らなかったとしても、好きな人を想って待ち続けた時間は、コウ君のときと一緒で、素敵な人生の一頁になるような気がする。
アホ。ほんまにアホ。でも、アホやから真っ直ぐに待てる。ハチ公みたいに待ってみる。好きやから。
どうか連絡来ますようにって、毎日真面目に心で唱えてる。アホやから。
どうか想いが届きますように。