「メリットしかない」という言葉
「全てのことにメリットとデメリットがある」
「何かを得れば何かを失う」という言葉があるように、この世に「メリットしかない」ものは存在しないと私は考えています。かつて仕事でプロジェクトマネジメントを担当していた際、プロジェクトの振り返りの場で、チームメンバーに「それぞれの案のメリットとデメリットを挙げてみてほしい」と提案したことがありました。この取り組みの目的は、業務改善について意見交換を行うだけでなく、メンバーが先を見据えて考える力を養う機会にしてもらいたかったからです。
想定力の重要性
仕事を進める中で、進行方法に不満を口にするメンバーがいることがありました。ただ、その発言が、他の案を採用した場合にどのような結果になるかまで想定した上でのものなのか、疑問に思うことがよくありました。「どうしてその案を採用しなかったのか?」という質問の裏にある背景や、その案を採用した際のデメリットまで考慮した議論がされていないように感じたからです。
特に数ヶ月単位で進行するプロジェクトでは、進め方を間違えると大きな時間のロスにつながります。そのため、締め切りが迫る中でも的確な判断を下すためには、想定力が欠かせません。
例えば、A案とB案という選択肢があったとします。ある人が「A案にはメリットしかない」と言った場合、その発言は行き当たりばったりの印象を受けます。実際には、どちらの案にも必ずメリットとデメリットが存在します。損益分岐点じゃないですが、その時々の状況やプロジェクトの目的を考慮し、デメリットを最小化しつつ、メリットを最大化する方を選ぶ必要があるのです。
仮説をもとにセルフチェックを行う
私自身、重大な物事を判断する際には「全てのことにメリットとデメリットがある」という仮説を立てています。そして、自分の想定をセルフチェックする際には、両方を具体的に挙げられない場合、まだ想定が甘いと判断します。
例えば、高層ビルの建設を考えてみましょう。高層ビルが建てば、たくさんの人が住めるようになるというメリットがあります。しかし一方で、周囲の住宅には影ができ、日当たりが悪くなることや、近隣の八百屋がビルからの反射光で商品を傷めるリスクが生じることも考えられます。「メリットしかない」と断言するのは、こうした影響を見逃している証拠です。
変わる意味合い
ただし、世の中の出来事は一見したメリットやデメリットとは異なる結果をもたらすこともあります。万事塞翁が馬という言葉があるように、メリットだと思っていたことがデメリットに転じたり、デメリットだと感じていたことが思わぬメリットを生むことも珍しくありません。出来事そのものは単なる現象でしかなく、本来そこにメリットやデメリットは存在しないと思います。結局のところ、メリット、デメリットというのは、私たちの立場や都合などによって生まれるものだと思います。
リスクを想定度合いをチェックする
少し話が脱線しましたが、「メリットしかない」と断言するのは、リスクに対する想定が甘い気がします。「メリットしかない」という言葉はリスクの想定が甘いサインかもしれません。