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読むのはストーリーだけじゃない


只今をもって「万華鏡」第2回の投稿を締め切ります。

次回予告は、明日18:00に投稿する「あとがき」にて。

どうも、高倉大希です。




最後の1行で衝撃を受ける。このような触れ込みを目にするたびに、なんで先に言っちゃうんだよと思います。どうせ裏切ってくるんでしょ。そう思いながら対峙する裏切りは、もはや裏切りではありません。

そんな期待を、超える自信があるんだよ。きっと、そう言いたいのだと思います。そう言いたいのだとは思うのですが、どうしても期待より不安が上回ってしまいます。そうやって煽らないと、読んでもらえないような作品なのか?


大学生のころ、恩師から「かえるくんはなぜ、かたつむりくんに手紙を託したのか」と問われたことがあります。アーノルド・ローベルの『ふたりはともだち』に収録されている「お手紙」という作品についての発問です。

アーノルド・ローベル(1972)「お手紙」文化出版局

生まれてこの方お手紙をもらったことがない。そう嘆くがまくんに、かえるくんがお手紙をしたためます。そんなお手紙を、挿絵にもあるとおり、かたつむりくんに託すのです。当然、待てど暮らせどお手紙は届きません。かたつむりくんががまくんのところに到着したのは、配達を引き受けてから4日後のことでした。


「お手紙」は、このようなお話です。かえるくんはなぜ、かたつむりくんに手紙を託したのか。そんなもの、たまたまそこにかたつむりくんがいたからじゃないのか。はじめは、そう思っていました。

しかし恩師は、首を縦に振りません。一体、何を問われているんだ。2日、3日、うんうんと頭を抱えていた記憶があります。たった一匹のかたつむりのせいで、どうしてこんなにも悩まなければならないんだ。


その意味がわかったのは、「もし手紙をわたしたのがチーターくんだったとしたら」というヒントをもらったときのことでした。チーターくんだったとしたら、一瞬でお手紙を届けられるはずです。4日も待たせる必要はありません。

言い換えるならば、4日というお手紙を待つ時間が、この物語には重要だったということです。この待ち時間をつくり出すために、作者は、かえるくんがかたつむりくんにお手紙を託すように仕向けたのです。

「ああ、」がまくんがいいました。
「とてもいいてがみだ。」
それからふたりはげんかんにでて、てがみがくるのをまっていました。
ふたりとも、とてもしあわせなきもちでそこにすわっていました。

アーノルド・ローベル(1972)「お手紙」文化出版局

改めて読み返してみると、この4日の間に、かえるくんはお手紙の内容をすべてがまくんに喋っています。要するに、お手紙の内容なんてべつになんでもいいわけです。この物語においてもっとも重要なのは、ふたりで玄関先に座ってお手紙を待つ時間そのものだったのです。


いま思い返せば、自分の中の読むことの意味が変わったのは、このときだったように思います。かたつむりくんががまくんにお手紙を届けるストーリー。大の大人が「おもしろい!」と唸るような展開ではありません。

ところが、読むことの意味が変われば、とんでもなくおもしろい作品に姿を変えたわけです。なんだ、自分の読み方の問題なんじゃないか。


最後の1行で衝撃を受ける。このような触れ込みを目にするたびに、なんで先に言っちゃうんだよと思います。どうせ裏切ってくるんでしょ。そう思いながら対峙する裏切りは、もはや裏切りではありません。

いや、もしかするとこれもまた、自分が読み方を知らないというだけなのかもしれません。読むのはストーリーだけじゃない。あっと驚くようなストーリーじゃなくたって、物語はおもしろいはずなのです。






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高倉大希
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