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さらばミナミの魔窟・味園ビル

金龍ラーメンから日本橋の駅へ向かう途中、その怪しげなビルの前で僕は足を止めた。そしてビルの中へと吸い込まれていった。

味園(みその)ビルをご存知だろうか?

大阪ミナミは千日前の裏通りにあるレジャービルである。いかにも昭和の遺産といった雰囲気を醸し出しており、素人にはちょっと近寄りがたい。

味園ビル1955年に建設された。ビル内にキャバレー、スナック、ダンスホール、宴会場、サウナなどが入居した。たび重なる改築と業態のマイナーチェンジを経ている。当時としては派手なネオンサインとモダンで高級感のある外観が評判を呼び、高度経済成長期の好景気も手伝って連日の大繁盛をおさめた。1970年代より、インパクトの強いテレビCMを放映した結果、関西圏で知名度を高めた。

Wikipediaより

しかしバブル崩壊後は2階のテナントがに大量に空き物件が出た。そのため21世紀に入り若いオーナー向けに「敷金、礼金、保証金無し!」という破格の条件で誘致したところ個性的な店が続々と増え、大阪のサブカル、アングラの発信地となったのであった。まるで新宿ゴールデン街のようだ。

スロープで2階に上がり、そのバーを目指す。それにして、相変わらず怪しげな店が多い。

ファミコンバー、深夜喫茶、フィギュアで埋め尽くされたスナック、死神の鎌が入り口にあるバー、オカルトバー、ライブシアターまである。この昭和感漂う退廃的な雰囲気がたまらない。

僕はちょうど20年前、2006年頃からここの2階でよく飲んでいた。変わった店で、変わった人たちと楽しく杯を重ねたものだ。

しかし建物の老朽化のため、今年いっぱいで全ての店は立ち退くことになったらしい。つい先日、そのことを知った。

だから、この思い出がある場所に来たかったのだ。

そして僕は懐かしい店を見つけた。

外からは店の中は全く見えない。そんな店によく客が来るよなあ、と思いつつ僕は重いドアを開けた。

中に入ると「いらっしゃい」と、レザーのテンガロンハットを被り、長く白い顎髭をたくわえたマスターが出迎えてくれ、一瞬「おやっ?」という顔をした。

「お久しぶりです」

「ああ、あんたか!」

マスターは僕のことを思い出したらしく、笑顔でカウンターの端っこの席をすすめてくれた。

そう、そこに僕は座りたかったのだ。

そこに、今夜僕が来た理由であるものが飾ってあった。

(to be continued)




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