
一度失敗した人間は何もしちゃいけないのか?
好きな漫画のセリフシリーズ。
前回は「天」を紹介させてもらった。
今回は、鋼の錬金術師で有名な荒川弘氏の作品、「銀の匙」より。
簡単に言うと、超進学校の中学校に通っていた男の子が、競争の日々に疲れノイローゼになりかけてたのを見かねて、当時の中学の担任の先生が「全寮制の農業高校」への進学を提案する。
そして進学した先で、農業漬けの青春の日々を送りながら成長していく…というお話。
農業の楽しい部分を学べながらも、同時に農業の厳しさも学べる漫画です。
主人公、八軒(はちけん)の友達の一家が離農(つまり破産)することになり借金を抱えることになってしまうため学校も辞めることになったり、そしてそれを聞いたクラスメイトも「うちも他人事じゃないからな…」と思い悩んだり…
と、決して「キラキラだけじゃない」側面まで教えてくれます。
主人公、八軒は思いを寄せている女の子がいます。御影(みかげ)さん。
一家代々、乳牛を育て、牛乳の生産を仕事にしています。
そんな御影さんは馬が大好き。
子どもの頃から乗馬クラブに通い、高校も馬術部。八軒も御影さんに誘われ馬術部に入ります。
御影さんは、将来は馬に携わる仕事がしたい、と思い続けています。
しかし家族はそんな思いは知らず、「高校を出たらアキ(御影さん)が仕事に入れるから楽になるわ~」「おじいちゃんももう歳だから、高校卒業したら頼んだよ」などと話します。
これが御影さんにとってプレッシャーになり、「家業は継がず馬の仕事がしたい」とは言い出せずにいました。
その様子を見ていた八軒。
離農していった友達に、何も力になってやれませんでした。
そして御影さんも強がって、本当に強がって、言うのです。
「この話はこれで忘れよ、ね!」
御影さんは過去に、何かと世話焼きな八軒にこう言いました。
「手綱、放しなよ。わたし、八軒君にしんどい思いしてほしくない。」
何も出来なかった自分、そして目の前で何かを諦めようとしている友達を見て、
八軒は、御影さんの腕をつかんで叫ぶのです。
「放り出せるかバカ野郎!巻き添え上等だ!
頭だろうが腹だろうが…踏まれてやるよ!」
「や…だからダメだって!関わったってなにもいいことない!」
「んなこと分かってるよ!倒産とかなんとかド重い話聞いてビビってるよ!ヒザ笑ってるよ!」
「無理しちゃダメでしょ!いいこと無いうえに、もうどうにもなんないし!」
「それもわかってる!」
「じゃあなんで!」
「分かろうとする努力はやめたくない。
俺…農業とかは完全部外者だけど…何もできないかもしれないけど…
一緒に悩むことはできるよ。」
こうした八軒の熱い思いを受けて、御影さんは家族に、
「家業を継ぐつもりはない」と勇気を出して伝えることができたのです。
この御影さんの叔父は、競馬場を営んでいます。
御影さんはそこで働きたいといいます。
叔父さんは悩んだあげく、こう言います。
「1つ条件がある。大学を出ること。こちらも経営ギリギリでやっているから、将来どうなるか分からない。倒産して、新たに就職先を探すとき、武器は1つでも多いほうがいい。せめて大学は出ていてほしい。」
こうして御影さんは大学進学を目指すことになります。
御影さん、優等生っぽい雰囲気を帯びているのですが、成績はひどいものでした。
(テストの点数を見た八軒は、漫画上で屈指の「愛されバカ」として描かれる常盤くんを引き合いにだし、「…常盤よりはマシだよ」としかフォロー出来ないレベル)
しかし、勉強といったら八軒。
八軒は、「御影さんを発奮させて気持ちを伝えるように言ったのは自分だから、自分が責任をもって勉強を教える」と伝えます。
こうして、御影さんは大学の進学を目指し、八軒はそのために勉強を教えることになります。
勉強を教えるにあたって、八軒は参考書などなどを取りに、いったん実家に戻ります。
そこで父親と会います。
八軒の父親。
超堅物のサラリーマンです。
「学生の本分は学業」であるといい、農業高校に進学した八軒のことを、最初は「碌でもない」とまで言い放ちました。
基本的に仏頂面、家族との会話をまともにしない仕事人間です。
その父親と鉢合わせ。お母さんの「とりあえずご飯にしましょ」の仲介もあり、一緒にご飯を食べることにします。
お父さんが苦手な八軒。
学校のことを話す中で、八軒は「友達に勉強を教えることになった」と伝えます。
そこでお父さんは言います。
「勉強に脱落した人間が人に勉強を教えるというのか?」
その言葉に八軒は静かに、はっきりと怒るのです。
「失敗した人間は…
一度失敗した人間は何もしちゃいけないのか?
一度の「ダメ」で全部がダメになるのか?
まるで経済動物と一緒じゃないか…
一度の病気
一度のケガ
生産性が下がれば処分場行き…
そんなの経済動物と一緒だ!
いや、経済動物だってちょっとやそっとじゃ処分しない飼い主もいる。
障害馬術の馬だってジャンプに失敗しても二度目を跳ぶチャンスを貰えるんだよ
俺は経済動物以下か?」
このセリフがすごい好きなんです。
「一度失敗した人間は何もしちゃいけないのか?」
そうじゃない。絶対にそうじゃない。
それを否定すると、離農していった友達は、もう何もしてはいけないことになる。
自分のことじゃなくて、周りの誰かをバカにされた気になるんですよね、この言葉。
ちなみに八軒自身は、進路をどうするのか。
八軒はなんと、起業の道を選びます。学生起業です。
(ただ、業務を拡げていくにあたって必要な資格を取得するため、結果的に御影さんと同じ大学に通うことになります)
八軒は農業高校での日々を通して、こう思います。
「俺は、人の夢を否定しない人になりたい。」
八軒という男は、「いいやつ」なんです。でも、優しすぎるあまり、なんでもかんでも引き受けてしまって大事なときに体を壊してしまうような、
「間違った優しさ」も持っていました。
そんな八軒の成長物語です。
ぜひ読んでみてください。
ちなみに八軒のお父さん、紹介した発言からもとても良くない人に映るかもしれませんが、
八軒の成長に伴い、お父さん自身も変わっていきます。
起業をすると決めたとき、八軒も最も頼りにしていたのは父親でした。
「父さんのこと、苦手なんだよ。でも、仕事のパートナーとして信頼できる」と伝えています。
そして、「俺に出資してほしい」と頼み、「会社」と「出資者」という関係になります。
そして八軒はビジネスプランを持っていっては「ボツ!」と突き返され…
何度も何度も突き返され…
その様子を見ていたお母さんは、お父さんにいいます。
「あなた、勇吾(八軒)には厳しいわよね?」
お父さんは言います。
「本気には本気で返す。それだけのことだ。」
最後の巻では、なんと御影さんがお父さんに向かって言います。
御影さんはお父さんと八軒のことを知っていたので、以前にこう言っていました。
「もし私が受かったら、勇吾くんのことを認めてください。」
そして卒業式の日。
八軒と父親のもとに御影さんが現れます。
「私は八軒のおかげで大学に合格出来ました。だからお父さんも、勇吾くんのこと認めてあげてください!」
「もうとっくに認めてるし、一人前だと思ってる。」
そして、
「勇吾、またプランが出来たら持ってきなさい」と八軒に伝え、去っていきます。
そう、お父さんも、いいキャラになっていくんですよ…
あとは校長先生のセリフでもいいのがあって…
と延々と続いてしまうのでここまでで。
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