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食品安全委員会の20年を振り返る#5 アクリルアミドともやし炒め〜リスク評価のその後は?

食品安全委員会の20年を振り返る#5 アクリルアミドともやし炒め〜リスク評価のその後は? 概要(本文1,508文字)
 
 
1. はじめに
食品安全委員会設立20周年記念企画の一環として、食品安全委員会委員の松永和紀氏は2023年(令和5年)10月6日付けにて、アクリルアミドとそのリスク評価について解説しています。本資料は、この松永氏の解説をもとに筆者が作成したものです。松永氏の原著解説は一次情報からご確認ください。
 
2. 松永氏による主張(原文のまま)
<加熱調理でできる発がん物質アクリルアミド>
■アミノ酸アスパラギンと還元糖(ブドウ糖や果糖など)を含む食材を揚げる、焼くなど120℃以上で加熱調理すると、生成する
■これらはごく一般的な栄養素なので、食材を加熱加工したさまざまな食品にアクリルアミドが含まれる
■食品安全委員会は、遺伝毒性を有する発がん物質と判断
■日本人の平均的な摂取量を調査推定し、2016年にまとめた評価書で「懸念がないとは言えない」と判断
■事業者の低減策が進んでいる
 
3. アミノ酸アスパラギンと糖類からアクリルアミドが生成
「あなたの台所で発がん物質ができていますよ」。この言葉に驚く人も多いでしょう。しかし、アスパラギンと糖類を含む食品を高温で調理すると、アクリルアミドという発がん物質が発生します。
 
4. 遺伝毒性発がん物質であると判断
動物実験やin vitro試験の結果、アクリルアミドは遺伝毒性のある発がん物質であると判断されました。
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/05_akuriruamido.data/fig5_2.jpg
 
5. ばく露マージン(MOE)でリスクを推定
アクリルアミドの摂取量と発がんリスクを推定するために、ばく露マージン(MOE)という手法を用いました。その結果、MOEは708となり、国際的に定められている1000未満であることがわかりました。
ばく露マージン(MOE)=(BMDL 10)÷(ヒトの食品からの摂取量)
BMDL10: 動物試験で、なにも与えていない時に比べてがんを10%増やす投与量の下限値(体重1kg・1日あたり)
ヒトの食品からの摂取量: (体重1kg・1日あたり)
 
6. 発がん性は「懸念がないとは言えない」
疫学研究の結果、アクリルアミドの摂取量と発がんリスクの関連は明確ではありませんでしたが、食品安全委員会は「公衆衛生上の観点から懸念がないとは言えない」と結論づけました。
 
7. 事業者は、低減に取り組んでいる
食品事業者は、原材料の品種や保存方法を変えたり、添加物をうまく使ったり、加熱時間を減らしたりすることで、アクリルアミド濃度の低減に努めています。
 
食品安全委員会は、「日本人のアクリルアミド推定摂取量」を公表しています。これによれば、1日あたりの日本人のアクリルアミド摂取量はおよそ0.240μg/kgとされます。
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/05_akuriruamido.data/fig5_4.jpg
また、アクリルアミドの濃度分布を市販のポテトスナックとフライドポテトを使って例示しています(農林水産省調査)。
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/05_akuriruamido.data/fig5_5.jpg
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/05_akuriruamido.data/fig5_6.jpg
 
8. 家庭でできるレシピも情報提供
農林水産省は、家庭調理においてもアクリルアミドを低減できるように、じゃがいもの貯蔵方法や揚げ方、きんぴらごぼうの作り方など、きめ細かく情報を提供しています。
 
農林水産省公表の、食品中のアクリルアミドに関する情報;
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/
農林水産省リーフレット「安全で健やかな食生活を送るために ~アクリルアミドを減らすために家庭でできること~(詳細版)」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/pdf/aa_syosai.pdf
 
9. もやし炒め研究で、シャキシャキの実態が見えてきた
食品総合研究所(現・農研機構食品研究部門)の吉田充委員は、もやし炒めの調理方法によるアクリルアミド濃度の違いを研究しました。その結果、調理前の水での洗浄、加熱ワット数、炒め時間などの条件によって、アクリルアミド濃度が大きく変化することがわかりました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10286955/
 
今後も引き続き多くのデータを集め、アクリルアミドの健康リスクを正確に評価する必要があり、また、事業者や消費者がアクリルアミド低減に取り組めるように、情報提供や啓発活動を充実させる必要もあるとしています。
 
 
 
<一次情報>
「食品安全委員会の20年を振り返る」
第5回 アクリルアミドともやし炒め〜リスク評価のその後は?
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/05_akuriruamido.html
 
 
<関連情報>
「食品安全委員会の20年を振り返る」
第1回 トランス脂肪酸〜リスク評価の意味を知ってほしい〜
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/01_toransushibosan.html
第2回 薬剤耐性(AMR)のリスク評価に挑む
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/02_amr.html
第3回 カンピロバクターとの長い闘い
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/03_campylobacter.html
第4回 「健康食品」は安全とは限らない〜委員長らが異例の呼びかけ
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/04_kenkosyokuhin.html
第6回 BSE問題前編〜20年前、食品安全委員会設立のきっかけに
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/06_prion_vol1.html
第7回 BSE問題後編〜プリオン病情報を収集し、リスクに備える
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/07_prion_vol2.html
第8回 無機ヒ素の健康影響は?
https://www.fsc.go.jp/iinkai/20shunen/08_mukihiso.html

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