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化学物質のリスク評価にかかる新たな評価手法(食品安全委員会 海外専門家招へいシンポジウム)概要

化学物質のリスク評価にかかる新たな評価手法(食品安全委員会 海外専門家招へいシンポジウム)概要(本文3,865文字)
 
 
食品安全委員会は、令和6年12月05日に海外専門家招へいシンポジウム「新たな評価手法(NAMs)を活用した 総合的評価(IATA)の概念と海外での実践 ~甲状腺影響、発達神経毒性を例に~」を開催しました。
 
 
<開催趣旨>

昨今、従来の動物試験による化学物質のリスク評価手法について、動物と人との種差による人に対する毒性予測の限界やリスク評価の精緻化等の観点から、“新たな評価手法(New Approach Methodologies、NAMs)”の導入について世界的に活発な議論が行われています。食品安全委員会においても、NAMsや総合的評価(IATA:Integrated Approaches to Testing and Assessment)の最新の海外動向について情報収集し理解を深めるため、今般、米国EPAの上席研究員である Dr. Mary Gilbert、食品安全委員会専門委員である赤堀有美専門委員をお招きして、下記のとおりシンポジウムを開催します。

https://www.fsc.go.jp/koukan/annai/annai_sympo20241205.html

 

<プログラム>
1. 開会挨拶 食品安全委員会委員長 山本茂貴
2. 講演1 「NAMsに関する国際動向」
講演者 赤堀有美 一般財団法人化学物質評価研究機構安全性評価技術研究所研究企画部研究企画課 課長(食品安全委員会専門委員)
3. 講演2 「Thyroid Disruption and Neurodevelopment in an Adverse Outcome Framework Translating NAMs - Filling in Gaps」
講演者 Dr. Mary Gilbert 米国EPA 上席研究員
4. 質疑応答・意見交換 司会進行:青山博昭 一般財団法人残留農薬研究所技術顧問 (元食品安全委員会専門委員)
※使用言語:講演は英語(通訳なし)、質疑応答・意見交換は日英逐次通訳
指定発言者:(50音順)
・赤堀有美 一般財団法人化学物質評価研究機構安全性評価技術研究所研究企画部研究企画課課長(食品安全委員会専門委員)
・小川久美子 国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター病理部主任研究官(食品安全委員会専門委員)
・小野敦 岡山大学学術研究院医歯薬学域薬学系教授(元食品安全委員会専門委員)
・桒形麻樹子 帝京平成大学健康医療スポーツ学部医療スポーツ学科動物医療コース教授(元食品安全委員会専門委員)
・豊田武士 国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター病理部部長(元食品安全委員会専門委員)
・広瀬明彦 一般財団法人化学物質評価研究機構安全性評価技術研究所技術顧問(食品安全委員会専門委員)
5. 閉会挨拶 食品安全委員会委員 浅野哲
 
 
<講演の概要>
1. NAMsに関する国際動向
NAMs(New Approach Methodologies)は、動物実験の代替、削減、軽減を目指した毒性学的手法や曝露データなどの技術を総称するものである。これらの技術は、化学物質の有害性およびリスク評価において重要な役割を果たしている。
NAMsの発展にはいくつかの重要な取り組みがある。米国国家研究会議(NRC)は「21世紀の毒性試験:ビジョンと戦略」を発表し、米国環境保護庁(US-EPA)はToxCastプログラムを開始して次世代リスク評価(NexGen)プログラムを展開した。また、NIH/NTP&NCGCは共同プログラムを開始し、FDAも2010年に参加した。EUは科学的目的で使用される動物の保護に関する指令2010/63/EUを発表し、化粧品における動物試験の使用を禁止した。さらに、ICCVAMは化学物質および医療製品の安全性評価のための新しいアプローチを確立するための戦略ロードマップを公開し、OECDは良好なin vitro方法実践に関するガイダンス文書を公開した。
NAMsは、動物実験を伴わない毒性試験法や計算モデル(QSAR)などを含む広範な技術、方法論、アプローチを指す。これには、統合的試験評価アプローチ(IATA)やデータ解釈のための定義された手法などが含まれる。具体的な技術例としては、QSAR/SAR、トキシコキネティクス、機械学習とAI、リードアクロス、細胞ベースのアッセイ、高スループットスクリーニング(HTS)、レポーター遺伝子アッセイ、ADMEモデル、定量的AOP(モデル)、逆トキシコキネティクス(RTK)、マイクロ生理学的システム(MPS)、オルガンオンチップ/ヒトオンチップなどがある。
国際的な動向として、OECDはDefined Approach(DA)を導入し、皮膚感作性や眼刺激性の予測に使用している。APCRA(Accelerating the Pace of Chemical Risk Assessment)は、法的背景を含め、NAMsの科学応用の現状に関する共通理解を目指し、データ共有能力を高めるためのメカニズムを決定している。PARC(Partnership for the Assessment of Risks from Chemicals)は、ヒト健康と環境を保護するために、次世代リスク評価(NGRA)の開発を目的とするEUのプログラムである。
既存のケーススタディとしては、脂肪肝に対するAOPの開発や、分岐カルボン酸の毒性評価がある。これらの研究は、細胞ベースのアッセイやトランスクリプトミクスを使用し、化学物質のリスク評価に有用なデータを提供している。
総じて、NAMsは動物実験の代替手法として、化学物質の有害性評価において重要な役割を果たしている。今後も国際的な取り組みが進展し、NAMsの利用が拡大することが期待される。これにより、環境保護や人々の健康維持に大きく貢献することが期待される。
 
2. Thyroid Disruption and Neurodevelopment in an Adverse Outcome Framework Translating NAMs - Filling in Gaps(甲状腺機能障害と神経発達における有害結果フレームワーク:NAMsの翻訳とギャップの補完)
この講演では、甲状腺ホルモン(TH)が体内の様々なプロセス、特に神経系の発達において果たす重要な役割について説明する。成人におけるTHの影響は可逆的であるが、胎児、新生児、子供における影響は永続的である。これは、THが代謝率や熱産生を調節し、体重増加、気分、認知に影響を与えるためである。特に神経系の発達においては、THの不足が永久的な影響を及ぼす。
THは神経系の発達において「マスタタイマー」として機能し、複数のプロセスが独立したタイムラインで進行する。THが欠如してもプロセスは進行するが、適切なタイミングで起こらないため、発達に問題が生じる。多くの化学物質が甲状腺システムの複数のターゲットに作用し、血清THや脳内THを減少させる。これにより、発達神経毒性(DNT)や発達プログラムの変更が引き起こされる。
従来の試験は遅く高価であり、動物実験の使用を減らすためにNAMsが必要とされる。NAMsは、甲状腺システムの複数のターゲットに作用する化学物質をスクリーニングするためのin vitro試験を含む。NAMsの信頼性を確立するためには、生物学的ターゲットの理解、データの透明性、技術的特性、人間の生物学との関連性などが重要である。
TH輸送の障害、末梢脱ヨウ素化、TR受容体結合など、複数のターゲットに対するNAMsが存在するが、いくつかのターゲットはまだ欠如している。血清THの測定は多くのガイドライン研究に含まれており、臨床的に関連性があるが、適切なタイミングで測定されないことが多い。DNTの保護のためには、脳内THの測定が重要である。
TH依存性の神経発達の中間マーカーを特定することが重要である。これには、異所性ニューロンのクラスターやパルブアルブミン陽性細胞の減少などが含まれる。PTUモデルでは、妊娠中の低用量PTU曝露が異所性ニューロンの形成を引き起こし、これが成人期まで持続することが示されている。妊娠中の母体および胎児の血清T4が減少し、胎児の脳内T4も減少する。胎児は母体よりも感受性が高い。妊娠中の低用量PTU曝露でも異所性ニューロンの形成が確認され、そのサイズは用量依存的に増加する。異所性ニューロンは成人期まで持続する。
ClO4曝露により母体の血清THが減少し、小さな異所性ニューロンが形成されるが、PTUと異なり、子供の血清および脳内THは回復する。PTUは胎児および子供の血清および脳内THを減少させ、異所性ニューロンの形成が確認されるが、ClO4は胎児の血清および脳内THを減少させるものの、子供の血清および脳内THは回復する。
THの不足による脳の構造変化は、特定の甲状腺作用機序に限定されず、ClO4のような化学物質がID条件下で投与されると、構造的、機能的、行動的障害が大幅に悪化する。人間は胎児期における脳の発達期間が長いため、これらの障害に対してより敏感である可能性がある。
今後の展望として、THの不足が神経発達に与える影響を理解するために、より精密な評価手法が求められる。NAMsの導入により、動物実験に依存せずに化学物質のリスク評価が可能となり、特に胎児や新生児の脳発達への影響を早期に検出できるようになる。さらに、異所性ニューロンの形成やパルブアルブミン陽性細胞の減少などの中間マーカーを特定することで、詳細なメカニズムの解明が進む。これにより、環境中の化学物質が人間の健康に与えるリスクを低減し、より安全な環境を実現するための政策立案に貢献することが期待される。
 
 
<まとめ>
NAMs(New Approach Methodologies)は、動物実験の代替として、化学物質の有害性評価において重要な役割を果たしている。国際的な取り組みとして、米国やEUを中心に様々なプログラムが展開され、NAMsの技術や方法論が進化している。特に、甲状腺ホルモン(TH)の不足が神経発達に与える影響を評価するためのNAMsは、従来の動物実験に代わる有効な手段として期待されている。これにより、化学物質のリスク評価がより迅速かつ正確に行われ、環境保護や人々の健康維持に大きく貢献することが期待される。今後もNAMsの利用が拡大し、より安全な環境の実現に向けた政策立案に寄与することが求められる。
今後の展望として、NAMsの技術と方法論のさらなる進化が期待される。特に、甲状腺ホルモンの不足が神経発達に与える影響を評価するための新しい手法の開発が重要である。これにより、動物実験に依存せずに化学物質のリスク評価が可能となり、環境保護や人々の健康維持に大きく貢献することが期待される。さらに、国際的な協力を通じて、NAMsの利用が広がり、より安全な環境の実現に向けた政策立案が進むことが望まれる。
 
 
<配布資料>
プログラム
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20241205ik1&fileId=010
講演1 NAMsに関する国際動向(赤堀専門委員講演資料:英日交互に掲載)
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20241205ik1&fileId=110
講演2 Thyroid Disruption and Neurodevelopment in an Adverse Outcome Framework:Translating NAMs - Filling in Gaps(Dr. Gilbert M 講演資料)
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20241205ik1&fileId=210
 
 
 
<一次情報>
食品安全委員会 海外専門家招へいシンポジウムのオンライン傍聴・会場参加の募集について
https://www.fsc.go.jp/koukan/annai/annai_sympo20241205.html
新たな評価手法(NAMs)を活用した 総合的評価(IATA)の概念と海外での実践 ~甲状腺影響、発達神経毒性を例に~
https://www.fsc.go.jp/koukan/annai/annai_sympo20241205.data/program20241205symposium.pdf
会議資料詳細
https://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20241205ik1
 
 

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