映画『恋のいばら』:覗き見をシェアする楽しみ

(以下には、作品の内容に関する記載が含まれます。鑑賞がまだの方はご注意下さい。)

「SNS」、「特定」、「リベンジポルノ」、「同性愛」・・・と、今風なキーワードが並ぶこの作品。
でも、そういう要素はあくまで飾りで、二人の女の子がコソコソなんかやってる様子を覗き見るような感覚が、この作品の面白さだと思う。
ハラハラ、ドキドキ、ヒヤヒヤしながら、なんだか自分も一緒にいばらの道を歩んでいるような気になっていく。
そんな、刺激的で、魅力的で、変則的な恋愛エンターテイメントだ。

図書館に勤務する桃(松本穂香)は、最近別れたカメラマンの健太朗(渡邊圭祐)のインスタを通して、今カノでダンサーの莉子(玉城ティナ)の存在を知る。
リベンジポルノを防ぎたいから協力して欲しいと誘う桃を、初めは拒む莉子だったが、徐々に心を動かされ、やがて2人は健太朗の部屋に潜入し、データを削除する作戦を実行していく。
そして最後には、実はリベンジポルノは口実で、莉子のことが気になったが故に近付こうとしたという、桃の本当の気持ちが明かされる・・・。

登場人物は主にこの3人で、桃の卑近な人間関係と行動範囲の中で話は進んでいく。
何も特別なことは起こらないし、特別な所にも行かない。
全ては桃の日常と地続きになった世界での、ちょっとした出来事だ。
だからだろう、なんだか覗き見をしているような感覚になるのだ。
桃の日常の小さな世界を。

映画を誰と見たいか、いや、誰もいらなくて1人で見たいか、というのは作品によると思うけれども、この作品は間違いなく1人で見たい映画だ。
だって、覗き見なんだから。
暗闇の中スクリーンで覗き見するのはゾクゾクする体験である一方、1人、部屋で、毛布にでもくるまって、手の平の上のスマホでコソコソ見るのもまた一興だろう。
きっと、2人のコソコソに自分もシンクロして、極上の覗き見になる。

3人のキャラクターはそれぞれの職業のステレオタイプそのもので、その分かりやす過ぎる感じには批判もあるかもしれない。
が、図書館で働いていて地味な桃が1番大胆で力強く、華やかな世界にいる莉子を巻き込んでいき、健太朗に一泡吹かせる様は痛快だ。
松本穂香を筆頭に、玉城ティナと渡邊圭祐も、それぞれのキャラクター・ステレオタイプと絶妙にマッチしているが故だろう。
3人みんな、ハマり役だ。

最後に、私は男性なので、あくまで男性目線でこの物語を見てしまっていることに触れておきたい。
私はこの作品を大いに楽しませてもらったのだけれども、見終わって1番に浮かんだ感想が、「女性が見るとどう感じるだろう?」というものだった。
いや、きっと「女性」とひとくくりにするのは乱暴で、性格やポジションが桃に近いか莉子に近いかでも、感想は全然違うことだろう。
だから、1人で楽しむ映画とは書いたが、見終わった後には誰かと集まり、互いの覗き見の感想をシェアし合うと、また新たな楽しみのレイヤーが生まれるに違いない。
『恋のいばら』は、そんな豊かな映画体験を与えてくれる稀有な作品に仕上がっている。

山下 港(やました みなと) YAMASHITA Minato


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