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カラゼンとの対話は、迷う自分との対話〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない13

悪者をぶっ飛ばしたり世界を救ったりしつつ、自分は何者なのか、どう生きるべきかともがくアーサー。大きな転機となるのは巨大怪獣カラゼンとの対話で……。前作『アクアマン』ではとにかく悩みまくる彼、その見事なまでの迷いっぷりにツッコミが止まりません。

前作ではとにかく迷いまくるアーサー

映画『アクアマン』二部作は、主人公アーサーが幾多の困難を乗り越え、名実ともに英雄となって活躍するという内容だ。と同時に、彼が自分の生きる道を探索する物語でもある(海賊退治したり宝探ししたり兄弟ゲンカしたり国を治めたり結婚して子育てしたり魔物を倒したり世界を救ったりしながら)。

特に前作『アクアマン』は、地上と海の双方にルーツを持つがゆえに迷える旅人アーサーが「自分はどこに所属する何者なのか、どの道をたどって生きていくのか」を確信するまでを描いている。

前作でのアーサーはとにかく迷う。最初から最後一歩手前まで迷いまくる。迷うというか、定まらない。まだ決めきれていない。だから自問し続ける。そのたびに変化し成長する。伝説のトライデントを守護する太古の巨大生物、カラゼンとの対話の中で、ついに自分が何者なのか、どう生きるのかを決めるまで。

対照的なのがメインヴィランとして登場するアーサーの弟オームで、(悪役としての)信念にも行動にもとにかく迷いがない。確信がある。もう決めてしまっている。だから自問しない。そしてそこに綻びが生じた結果、彼は全てを失うことになった

今作でもやっぱり迷うアーサー

ちなみに。続編である今作『アクアマン/失われた王国』でアーサーは迷わないかというと、決してそうではない。見つけたと思った居場所に、生き方に、またもや迷いが生まれるような状況に陥る。アーサーは懸命に抗い、闘う。その締めくくりに、地上と海、2つの世界を協調に導く=架け橋になる、という偉業を成し遂げる。

で、最後に自信を取り戻したアーサーにお墨付きを与えるのが、今作では世界を救うため共に闘うことになったオームだったりする。

その観点で本二部作をまとめると、前作はアーサーが自分は何者かを定め、オームが自分が何者かを見失う話、今作は定めた生き方がぐらつきかけたアーサーが再びそれを確信し、自分を失い過去に引きずられるままだったオームが新たな生き方を探り始める話、といっていいかもしれない。

アーサーの人助け、トムとの対話

前作でのアーサーの迷いっぷりを見てみよう。

母アトランナと父トムの出会い、誕生、母との別れ、水族館における覚醒までの幼少期が描かれた後、ジェシーとデイヴィッド親子率いる海賊の潜水艦襲撃シーンでアーサーは華々しく登場する。実にヒーロー映画の主人公らしく派手に海賊たちをなぎ倒し、乗組員を救助。戦闘で身動きが取れなくなり溺死を待つばかりのジェシーをためらいなく見捨てる(正確には、一度は助けたが二度目は助けなかった)。

一見、確信を持った行動のようだが、実はそうではない。直後にトムと会ったときのやりとりから、アーサーの迷い、定まらなさがうかがえる。

ニュースでアーサーの潜水艦救助を知って喜ぶトムに「おれじゃない」と言い、ごまかそうとする。持ち前の正義感に突き動かされて人助けはするが(トムいわく「お前はただ傍観してはいられない」)、それを可能にする自分の能力を受け入れられない感情が彼の中にはある

アーサーの能力はアトランティス人である母アトランナから受け継ぎ、彼女の腹心であったらしいバルコに導かれて開花したものだが、本人はそれにいまひとつ誇りを持てずにいるようなのだ。アーサーにとってアトランティスとはアトランナを処刑した存在である。しかもその原因は彼女が地上人であるトムを愛し自分を産んだこと。罪悪感に苦しむアーサーは、トムがアトランナやアトランティスの話をすることさえ嫌がる。

メラとの対話、アトランティスへの思い

その夜、アーサーはメラと出会う。彼の弟であるアトランティス王オームの地上侵攻を阻止するため、伝説のトライデントを見つけて王になってほしいというメラの依頼をアーサーは拒絶する。「おれは処刑された女王が産んだ地上人の子だぞ」と(これは意訳で、実際にはbastard sonだぞと言っている。彼はその誕生の経緯と血筋について、のちにオームからbastardだのhalf-breedだの差別的な言葉でさんざん蔑まれるのだが、その前に自分から主張しているわけだ)。「もしオームが攻撃してきたら、アトランティスが母にしたのと同じ目に遭わせる。情けはかけない」とも宣言する。

このようにメラとのやりとりからも、アーサーが母を殺したアトランティスとの関わりを極力避けようとしていること、アトランティス側も自分を受け入れないだろうと考えていることが分かる。

けれどその直後、オームの起こした津波に巻き込まれ、トムが溺れかける(メラの尽力で命拾いする)。愛する父の危機を目の当たりにしたアーサーは、気は進まないながらも「戦争を止めるのを手伝う」ためにアトランティスに向かうことを決意する。

再びメラとの対話、挫折を知ったアーサーの心の内

アトランティスに到着したアーサーはしかしオームに捕えられ、自分を負かせば地上侵攻は即時中止するという言葉に乗って決闘するが惨敗。とどめを刺されそうになったところをメラに救われ2人は逃亡する。伝説のトライデントの手掛かりを追うも、今度はアーサーを父の仇と狙うデイヴィッドが、オームから装備を与えられ「ブラックマンタ」と名乗って襲撃してくる。負傷しつつもマンタを退けたアーサーだが、度重なる苦境にすっかり自信を失ってしまう。

次なる地へと小船を操りながら、アーサーはメラに心情を吐露し始める。マンタの父を助けることもできたのに、そうはせず見殺しにした。敵を作った結果、メラの身に危険が及んだらそれは自分の責任だと。淡々とした口調ながら深い後悔が見て取れる。

向かっているトレンチの海域の危険性を知って「引き返そう」と言う。トライデント探しもオームへの対抗もあきらめて。驚くメラにアーサーは語る。幼い頃から弱さを見せず、何事も怒りと拳で解決してきた。でもこの旅ではずっとやられっぱなしだ。おれは指導者でも王でもない、他人とうまくやっていくことすらできない。王でない者を無理に王にしようとして君が死ぬ、そんなことはさせられないと。

父を守るため地上を守るため、一度は拒否したメラの手を取って立ち上がったものの、想定外の事態が続き気力が挫けてしまったのだ。同時に、一匹狼だった彼がメラに好意を抱き、さまざまな経験をしたことで考えを変え始めていることが分かる。大切に思う存在が増えるほど責任も増え、恨みを買うこと、危険を冒すことには慎重にならざるを得なくなるものだから。

メラの洞察、そして問いかけ

このときのセリフからも劇中のほかの描写からもうかがえるのは、アーサーが地上人の間にいながら、アトランティスの血を引く生まれと並外れた能力ゆえになじめず、幼少期から強い疎外感を覚えていたこと。そのアトランティスには自分を産んだという理由で母を処刑され、深い悲しみと罪悪感を抱えている。

地上で人助けをしても、そこに確信はない。アトランティス由来の能力にも誇りを持てない。彼は陸にも海にも自分の居場所がないように感じているのだ。

じっと耳を傾けていたメラは、アーサーの思いと迷いを見抜き、静かにこう伝える。あなたは自分が2つの世界の存在だから、人を導くに値しないと思っている、でもそうじゃない。だからこそ王にふさわしいのだと。あなたは陸と海との架け橋、今のわたしにはそれが分かる。そしてこう問うのだ。あなたには分かる?と。

アトランナとの再会、カラゼンとの邂逅

答えは出ないままトレンチの海域を突破し、目的地である「隠された海」にたどり着いたアーサーとメラは、処刑されたはずのアトランナと再会。伝説のアトランのトライデントはこの地にあり、手に入れるにも脱出して元の世界に戻るにも、アーサーがその守護者カラゼンと対決し、自らが真の王だと示す必要があると知る。

恐れる気持ちを隠さないアーサーに、アトランナは「それでいい」と言い、その恐怖と迷いを肯定してカラゼンの元に送り出す

同時にアーサーはアトランナとメラから、今のアトランティスに必要なのは「王を超えた存在」だと聞かされる。それは「英雄」。「王は自分の国のためだけに戦う。あなたは全ての人のために戦いなさい」とアトランナは告げる。

これまでのアーサーは、王には興味ないしなりたくないの一点張りで、王の器ではないとか(メラも初めは同意する)地上人の子が王として受け入れられるわけがないとか主張していた(オームやオーム派のアトランティスの民にはそりゃもういろいろけなされる)。しかしここに来て示された「王を超えた存在」は、血筋に縛られない行動で定義されるものだった(メラが述べた「陸と海との架け橋」にも通じる)。何よりも、「全ての人のために戦う英雄であれ」というアトランナの思いが、アーサーの心にひとすじの光を届けたのだ。

そしてアーサーはカラゼンとの邂逅を果たし、大きな転機が訪れる。

カラゼンとの対話、アーサーの結論

深海の奥に位置する「隠された海」、その内部の滝をくぐり、滝壺の下へさらに深く深く潜った最奥部で、アーサーはカラゼンと相対する。アトランの遺体とトライデントを守護するカラゼンは、アーサーを全く近づけようとしない。その巨大な触手一本のみで彼を圧倒し、あれこれと嘲り蔑んでくる(ジュリー・アンドリュース様の声で)。いわく、「お前ほどふさわしくない者はこの千年で初めて」「汚れた雑種の血でアトランティスの至宝を求めるなどおこがましいにも程がある」「いるだけでこの地への侮辱だ」。いずれもこれまでのアーサーが、自らが王たり得ない理由としていた内容そのものだ。

しかし時ここに至り、アーサーは決然とこれを受けて立つ。

確かにおれは雑種の半海底人だ、だけど自分がふさわしいと思ったから来たわけじゃない、とアーサーは切り返す。アトラン以後初めて現れた、自分とコミュニケーションできる人間にカラゼンは問う。お前は一体何者だ?と。アーサーは噛み締めるように、自分に言い聞かせるようにこう述べる。何者でもない、ここに来たのは他に方法がなかったからだ。故郷を守るために、愛する人々を守るために。トライデントが彼らのただひとつの希望だから。

器量も血筋も王も関係なく、陸も海も自分の居場所も区別なく、全ての人のために戦う決意を固めたのだ。彼らの希望を一身に背負って。

カラゼンとの対話は、もう1人の自分との対話

個人的には、カラゼンと対話していたとき、アーサーは迷う自分自身と対話していたのだと感じる。もちろんカラゼンが想像の産物だと言っているわけではなく、後からアーサーとともに大暴れし、アトランティス・ゼベル・魚人王国連合軍の戦艦やら何やらを破壊しまくるので、劇中で実在していることは明らかなのだけれど。

もう1人の自分*でもあるカラゼンが、気にしていたあれやこれやをけっこうな言い草で突いてくるのに対して、今の思いを言葉にして明確化し、ネガティブな意識を克服し、迷いの末の結論を提示した。それはアーサーのこれまでの人生、メラとの旅で得たもの、アトランナとの再会から与えられた力などなどのこの時点での総括だった。

そんな目で見てみると、深海の奥の世界にある滝壺をさらに潜った先という場所は、人の心の暗喩に思える。アーサーは自らの心の深淵を旅し、カラゼンとも自分自身とも向き合い、決意と力を手に帰還したのかもしれない。

*アトランティスではポピュラーらしいカラゼンの伝説を最初にアーサーに話したのはオームだったが、彼は彼で深淵に潜むカラゼンを自分自身(と、地上への復活の時をうかがうアトランティス)になぞらえているのはちょっと興味深い

自分の生きる道を確信したアーサー

ついに心を決めたアーサーを、阻めるものはもうなかった。彼はアトランの手から伝説のトライデントを継承し、カラゼンを従えて四王国の戦争の只中に現れ、(ついまたメラに「もし勝てなかったら?」とかこぼしてしまうが、彼女のアドバイス勇気づけを得て)再びオームに挑んで圧勝する。戦争は終わる。アトランティスは新王に歓喜する(ネレウスも)。

最後にひとつ、アーサーが自分の道を確信したことを象徴していると感じた出来事があった。それは倒したオームを殺さなかったこと。

敗北したオームは、自分を殺して全てにケリをつけろと強く迫るが、アーサーは拒否する。物語冒頭でためらいなくジェシーを見捨て、オームに対しても「攻撃してきたら母と同じ目に遭わせる(=殺す)、情けはかけない」と言っていたアーサーが、「情けはわれわれの流儀ではない」から殺せとなおも迫るオームに、「おれはお前たちとは違う」と告げ、トライデントを引く

カラゼンとの対話の中で決めた自分の生きる道を、アーサーはオームに勝利することでさらに確信したのだと思える。その道に従った結果、オームを殺さなかった*のだと。

*ではこの劇中での成長がなければオームを殺していたのか?というと、実際に顔を合わせてふと互いの本心が交差した瞬間もあった弟を、アーサーが殺すことはなかっただろうけれど。アトランナも生きていたしね!(母の前で弟に手をかけるなんて、アーサーはしないよね)

「自分は変わった、今なら誰も見殺しになどしない。全ての人に手を差し伸べる」と行動で語っているように感じる。「これが自分の流儀だ。これからはオームの流儀ではなく、自分の流儀でやる」と言っているようにも。そして事実、今作でのアーサーは、自分を執拗に狙い家族を傷つけるマンタをも見捨てず、手を差し伸べるのだ。

さて、迷いまくるアーサーとは対照的に、迷わない(そして心から笑わない)けどぽきんと折れるオームについても、あらためてツッコミを入れたいと思います!

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