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リアルスーパーヒーロー、トム・カリー〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない11

スーパーヒーロー「アクアマン」である息子のアーサーに「本物のスーパーヒーロー」とたたえられる父、灯台守にしてアトランティス女王の生涯の恋人、トム・カリー。その器のデカさと愛情深さに、やっぱりツッコミが止められません。

映画『アクアマン』二部作を通して個人的に最も感動したのは、今作『アクアマン/失われた王国』でトムとアーサー親子が「ヒーローであること」について語り合うところ。

アーサーはトムを静かにたたえる。ひとりきりでおれを育てた父さんこそスーパーヒーローだと。トムは、ジュニアの世話をしながら王として困難に立ち向かっているアーサーを励ます。全てを救うことはできない、でも子育てのようにただ毎日やり続けること、あきらめないことが、ときとして人をヒーローにすると。

本二部作では、主人公アーサーとオームの母であるアトランナは言うまでもなくキーパーソンなのだけれど、兄弟の2人の父(と、2組の父子の関係)もなかなか重要な意味を持っている。というわけで父たちについても記録したくなってしまった。まずはアーサーの父親、この上なく寛容で愛情深いトムについて。

オームの父親について↓

アトランナについて↓

器デカすぎ、トム

嵐の夜、海岸の岩場で倒れていたアトランナとトムが運命的に出会ったことから、この物語は(前作である映画『アクアマン』も)始まる。

トムの寛容さと器のデカさはのっけから際立っている。助けた謎の女性に「アトランナ、アトランティスの女王」と名乗られて、(一瞬固まって「えーっと……」みたいな表情はするものの)「ワーオ、おれはトム!」って明るく返すのすごすぎん?

DCの映画はバットマンとかスーパーマンが普通にいる世界、と聞いたことがあるけれど、この二部作ではそういう描写ないし、後にアクアマン(アーサー)がちょくちょく人助けして目撃されても半信半疑みたいなニュースになっている。つまりはこの世界でも、いきなりアトランティスの女王とか言われたらなんのこっちゃなわけで、そんな状況でこの反応は、トム、器デカすぎ

そもそもその前に、敵と勘違いされて首をつかまれ宙吊りにされて刺されかけているし、飼っていた金魚を水槽から手づかみで踊り食いされている。それでもヒッとかならないで「犬は食べないでね?」とか大物すぎん?

読書家&アーサーに歴史の手ほどきをするトム

トムはどうやら読書家であるようだ。アトランナと紅茶を飲むシーンではテーブルの上に5冊ほど本が置いてあり、うち1冊はタイトルが見える。『The Dunwich Horror』(ダンウィッチの怪)。H. P. ラヴクラフト!いい趣味してる!

今作で、ジュニアに海賊退治を夢中で実演して見せていたアーサーが、悪者に蹴りを入れるところでうっかりトムの座るソファを蹴飛ばしちゃったときも、タイトルは分からないが本を読んでいる。

そしておそらく歴史好きでもあり、そのことが前作でのアーサーの旅を助ける。

伝説のトライデントを探すため、アーサーとメラはアトランの遺したメッセージに従って、シチリアの海を見渡す高台にやってくる。立ち並ぶ彫像が誰のものか次々と言い当て(王政ローマの建国者ロムルス、共和政ローマの政治家スキピオなど)、謎を解いて行き先を導き出したアーサーにメラは驚く。アーサーは父のおかげだと言い、「おれが自分の歴史を理解するよう導いてくれた」と続ける。

歴史ってたぶん、アーサー王の来歴ってことですよね?古代ローマの王とか政治家と、中世のアーサー王伝説ってそんなに関係あるかなと思うけれど、アーサー王は物語の中でローマ皇帝を倒すんだっけ?まあともかく、トムは「アーサー、お前は王なんだからこの辺の本も読んでおけよ!」とか明るく言ったのかもしれない

そのほかにも、超人(メタヒューマン)であるアーサーを飲み負かすことができる(トムによれば「おれのスーパーパワー」)、アーサーのタトゥー(マオリの「タ・モコ」)はトムが彫ってる?など、さまざまなことが劇中からうかがえる。

トム、義理の息子にも包容力を発揮

トムは器もデカいけれど、なんというか包容力もすごい。津波で間接的にだけど自分を殺しかけたオームのことも、アーサーがいつものごとくクソヤローとか言ってるのに、同調しないし全く悪く言わない。ちゃんと名前で呼んで、きょうだいはケンカするものだけれど、家族なんだ、助けになってくれると思った方がいいと言う*。実際そうなるんだけど(今作でオームはアーサーを助けて闘う)、なんかトムは本質を見ている感じがする。もともとすごく愛情深い人なんだろうな。もちろん愛するアトランナの愛する息子だからっていうのはあるだろうけど。

ネレウスがアーサーに「家族かもしれないが、オームが何をしたかを忘れるな、決して信用するな」としつこく言うのと対照的。まあネレウスは特にこの件では微妙すぎるので……。

*後にトムがマンタに襲われ刺されてしまったとき、オームは初めてトムに会う(というかその姿を目にする)。わりと誠意ある口調で「衛生兵の処置で容態が安定した、もう大丈夫だ」とか(解説要員として)説明しているけれど、まさか自分のことをそんなふうに言ってくれていたとは夢にも思わないだろう

ジュニアにも弟か妹が必要だなと言うし、アーサーがひとりだったことを悔やんでいると言うし、もしかしたらトムには仲のいいきょうだいがいたのかもしれない。劇中ではアーサーの亡くなったおじいちゃん(トムのお父さん)への言及があるのみだけれど。

リアルスーパーヒーロー、トム

そして、冒頭でちょっと触れたシーン!メラと2人でも子育てに手を焼いているアーサーが、ジュニアをなんとか寝かしつけた後、ビールを飲みつつトムと語り合うところ。

アーサーは言う。どうやってやり遂げたのか分からないよ、父さんはひとりでおれの世話をし、育て上げ……。本物のスーパーヒーロー(the real superhero)だと(架空のスーパーヒーローであるアーサーがトムを「現実の」スーパーヒーローだとたたえる、というなかなか興味深い内容になっている)。

彼は王としての責務の困難さに悩んでいる陸と海をひとつにするのは容易なことではなく、信じてくれた亡きバルコの期待に応えられていないという思いが「自分は王としてまるでだめだ」とまで言わせる。

そんなアーサーにトムは言う。どうやってひとりでお前を育てたか知りたいか?ただやり続けた。勝てば喜び、負ければ嘆く。次の日目覚めてまた取り組む。決してあきらめないことが、ときとして人をヒーローにすると。

ここ、先ほど書いたように二部作全体でいちばん感動してしまったところ。本気でうるっときた(ちなみに2番目に感動したのは、前作でのアーサーとオームの動機が合わさって今作で1つの主題を形作り、兄弟のシーンで使われていること。←内容じゃなく音楽の話かい)。

トムの愛情がアトランナとアーサーを救う

トムは前作で、彼とアーサーを守るため海に帰らざるを得なかったアトランナの分も、アーサーを愛情込めて育てた。そして一途にアトランナを待ち続けた。朝には必ず桟橋の突端に立って。「いつか平和が訪れたなら、必ずあなたのもとに戻る。ここに、日の出の時刻に」と言った彼女の言葉を信じて。トムがそのような愛情あふれる人物であったこと、彼の愛を信じられたことが、20年間ひとりで生き抜いたアトランナにとってどれだけ大きな救いであったかは想像に難くない。

アトランナの血を継いだアーサーは、地上人にない力を持っていた。おそらく9歳の時の水族館での出来事(魚とコミュニケーションして驚かれる)から周囲との違いを意識し始め、次第に疎外感を覚えるようになったのだろう。バルコに出会い、導かれてその力を伸ばすが、自分を産んだことで母が処刑されたと聞かされた後は罪悪感に苦しむようになる。それらを含めた少年時代のことを、本人は「まだ幼い頃に、弱さを見せないことを覚えた。何かが起これば怒りと拳で解決するのがおれのやり方で、ひどくうまくいっていた」のようにメラに打ち明けている。

そんなアーサーにトムは寄り添い続ける。息子を信じ、この子は特別だと言ったアトランナを信じる。常にアーサーを見守り、ときに励まし、自分のせいで母さんは殺されたと言うアーサーを、いつかは自分を責めるのをやめなくてはな、と静かに諭す。

アーサーの、家族への特筆すべき愛情深さも、トムに育てられトムから引き継いだものなのではないだろうか。

トムから引き継いだ愛情が物語を動かす

その愛情の深さが、アーサーの行動と物語を左右する。一般人を無慈悲に殺害する凶悪な海賊だったマンタとジェシーのことも、親子と知って一度は助けている

アトランナが海に帰って産んだオーバックス王の子、オームの存在を知った後、アーサーはほかの何を差し置いても弟に会いたいと願うようになる。その理由がすごくて、弟にこう伝えたかったから。お前はひとりじゃない、おれがいる。何があってもおれたちは一緒だと。

ちょっとピュアすぎる気もするけれど(本人も後からオームに、こんなクソヤローだって知ってたらそんなこと思わなかったのに、みたいに言ってるし)、おそらくまだ少年の頃のことだからというのもあるだろう。母を失った悲嘆と苦しみの中、同じ境遇にあるだろう見知らぬ幼い弟をそこまで思いやれるなんて、並外れた愛情深さだなあと感じてしまう。オームの方は母の処刑以来、アーサーを憎むことを覚えたというのに(彼は彼で、愛する母を殺した父をなんとか正当化しないことには幼い身で精神の均衡を保てなかったはずで、そのためにも見知らぬ兄を憎まれ役にするしかなかったのだろうけれど)。

そしてアーサーの思いが、最後にはオームを救うことになる。

今作でアーサーは、脱獄させたオームを手放しで信頼する。オームが要所要所できちんと律儀に助けてくれるからとはいえ、そこまで無防備でいいの?この間まで本気で殺し合ってたのに?と言いたくなるほど信じ切っている。

物語終盤、コーダックスに憑依されたオームが再び自分に敵意を向けたときも、アーサーはその奥底の弟の心を信じ続ける(一瞬自分もコーダックスに侵入されてヘンなこと口走るけど)。ただ一心に弟を助けようとし、少年の頃伝えられなかったその思いを伝える。自分を思う兄(と母)の存在を強く実感したオームは、闇と過去の呪縛を振り払い、本来の自分を取り戻すことができた*

特に二部作を通して見ると、アーサーの愛情深さ、性格、行動は、少なからずトムの影響を受けているとしか思えない。そもそもトムがトムでなければ、「大海原で2つの舟が引き寄せ合うように」アトランナと出会うこともなかったし、アクアマンというヒーローが誕生することもなかったわけだしね*

トム父さん、器のデカすぎる男、リアルスーパーヒーロー。やっぱすごいっす!!

*ちょっとだけ内容を追加しました(6/4)

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