アトランナ、バルコとの約束と息子たちへの思い〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない16
図らずもヒーローとヴィランとして出会うこととなったアーサーとオーム兄弟。2人を愛し続ける母アトランナ女王、その忠臣でアーサーを導きオームに仕えたバルコは、どんな思いでいたのだろう?その辺りにもツッコミというか想像が止まりません。
母アトランナの愛は最強
映画『アクアマン』二部作を通して、アトランティスの女王アトランナが息子たちに愛情を傾け、言葉や態度で示し続けるのがとても好き。長男アーサーはヒーローで次男オームはヴィラン(で、兄弟とはいえかなり複雑な関係)なんだけれど、母の愛の前ではそんなものに意味はないのだ。
前作『アクアマン』にてアトランナは2人と生き別れるが、20+α年ぶりに再会しそれぞれと固く抱き合う。アーサーに対しては、誕生の瞬間から変わらず「王を超える存在」としての可能性を信じ続けていることを明らかにする。オームに対しては、あなたは父親に間違いを教えられたと明確に指摘するが、その前にまず心から愛していると言って聞かせる。
今作『アクアマン/失われた王国』では、アトランナは王になったアーサーをその妻メラとともに補佐し、地上では愛する夫トムと初孫アーサー・ジュニアも交えて楽しく暮らしつつ、同盟国の監視下で拘束中のオームに常に心を寄せている。海と地上に危機が訪れ、アーサーがオームの手を借りて立ち向かうと決意したとき、彼女はこう言う。もしオームに会えたなら、伝えて、愛してるって。毎日あなたを思ってるって(アーサーはすっごく優しい顔で、「伝えるよ」と受け止める)。そして2人は共に決戦の地に赴く運びとなり、アトランナは、これをずっと夢見てた。あなたたちが兄弟として心をひとつにすることを。と微笑んで抱きしめ、送り出す。
息子たちもその愛情に応え続け、力を得る。アトランナの意志が、アーサーの生きる道をかたちづくる要素の1つとなった。3人で交わした約束とアーサーの思いが、今作のクライマックスで再び闇に落ちかけたオームを救った。
ハグされる息子たちはなぜかとてもかわいい
そして。アトランナに抱きしめられるアーサーは毎回とてもかわいい。切なげな表情もいい。ワイルドでかすぎヒゲ面40前後*(劇中では30代初め〜半ばの設定)なのにかわいい。まあジェイソンがかわいいのは今に始まったことじゃないですね。オームもアトランナに会うと必ずほっぺぷにっとなるのとてもかわいい。おかおタッチとかハグとかで。眉間に限らずシワの目立ち始めた40代後半*(劇中ではアーサーの4つは歳下の設定)なのにかわいい。中の人たちはそんなに歳が離れていないはず**なのに、ちゃんと親子に見えるのなんでなん?
今作ではシン博士もひたすらかわいいし、おっさん、いや40代男子かわいい天国だと思います。
よく考えるとなかなか切ない母子3人
おっさんかわいい天国は置いておいて。このように2人の息子に分け隔てなく接し、一度は道を誤ったオームにも深い愛情を注ぐアトランナだけれども、前作での彼の変節をどこまで予想できていたろう(「変節」といっても、父オーバックス王の命により母を奪われたとき、オームはまだ10歳にもなっていなかったのですが)。20年ぶりに生還してみたら兄弟で殺し合っているなんて想像しただろうか?(と言いつつも、ある程度アトランナは予見していたと憶測します。後で書きます)
アトランナがオーバックスにより処刑のため海溝に送られて20年。アーサーとオームの兄弟は出会い、闘うことになる。オームの側近にしてかつてはアトランナの腹心であったらしいバルコは、決闘でオームに圧倒されるアーサーを目の当たりにして「彼を守るとアトランナに約束したのに」とつぶやく。
そのアーサーに関して、オームはバルコに向かい「お前は何年もかけて彼を鍛え上げた。わたしの王座を奪わせるために」と断じている。結果的にはその通りになってしまったんだけれど、アトランナは(たぶんバルコも)そんなことにならずに済むよう願っていたろう。彼女のいない間に、オームが立派なヴィランに育っちゃったからね……。
「アトランナ+愛する息子たち」の観点から振り返ると、前作のあれこれがなかなか切なく感じられてしまう。このオームのセリフもそうだし、幕切れのアーサーの語り「2人の愛が世界を救った」も。アトランナとトムが愛し合って生まれたアーサーが世界を救ったという意味なんだけれど、具体的にはアーサーがアトランナのもう1人の息子、アトランティス王オームの地上侵攻を止めるため、彼を倒したことを指している。そんなの本来彼女の望むところではなかったはず、なんて思うのだ。今作でそれに対応するセリフ「お前の暗喩が世界(the world’s ass ←しつこくてごめんなさい)を救ったのかもしれない」は、フォローのようにオームのものだけれど。
というわけで前置き長すぎましたが(ほんとに長いね)、海溝に送られるとき、アトランナはどこまで想定してバルコに何と言い残したのか?言い残されたバルコはどう考え、どう動いたのか?そして20年後に生還を果たしたとき、状況を知った彼女は何を思ったのか?について、勝手に想像してみます。
アトランナのいない20年に起こったこと
勝手に想像とはいっても、劇中にある程度の手掛かりがある。たとえば、
これらからいくつかのことが推測できる。
オームとメラの子ども時代、アトランナが2人を教育していたこと、おそらくその内容は地上との共存を説くものであったこと。
海溝に送られる前、アトランナはバルコにアーサーを守ってほしいと言い残したらしいこと、つまりはアトランティスによってアーサーに危害が加えられる可能性があると考えていたのだろうこと。彼女と約束したバルコはアーサーの前に姿を現し、アトランティス人としての能力を伸ばす手助けをしつつ、おそらくは王としての資質を測っていたこと。
時は流れてアトランナの処刑から20年後、アーサーは戦争を止めるため、初めてアトランティスへの介入を決める。が、その何年も前からバルコに、アトランティスに来て(オームを廃して)王になってほしいと言われ続けてきたらしいこと。そのたびに拒否してきたこと。そもそもアトランナのトライデントで訓練を開始した*アーサー16歳の時点で、バルコはすでに彼を王に育てるつもりであっただろうこと。
生還してオームの変節を知ったとき、アトランナはその原因がオーバックスのゆがんだ教育にあったと悟ったのだろうこと。
アトランナとバルコとの約束
上記の推測を基に、さらに想像を働かせてみると。アトランナは、嫉妬から自分の処刑を決めたオーバックスを警戒し、トムとの息子アーサーに危険が及ぶことを恐れた。同時に、オームが排他主義や地上への差別意識を継がされること、自分の教えた共存の考えを上書きされてしまうことも予想しただろう。愛する母を殺した者を憎むことも許されず、ただ従うしかなかったオームの苦しみ、彼がどのように自分を守らざるを得なかったか(←全て個人の見解です)までは思いが及ばなかったかもしれないけれど。
息子たちが王座をめぐって殺し合いにまで至る可能性は?それも頭をよぎったのではないだろうか。オームの言動からは、決闘で王を決めるってアトランティスではわりとあることのような印象を受けるので。
愛する2人の息子を案じながら、アトランナはバルコにアーサーを守ることを求めた。具体的にどこまで約束したのか、それ以外に何を言い残していったのかは分からない。オームが道を誤らないように導いて、とは言ったか?言ったかもしれない、分からない。
でも。2人が争うことになったときアーサーが死なないようにして、とは言わなかったろうし、言えなかったろう。いや単なる想像なんですけれど。
(最大12歳の)オームの変節とバルコの憂慮
アトランナがいなくなった後の20年、バルコは兄弟それぞれの成長の過程をつぶさに見ていた。おそらくはそうならないよう願いながらも、最終的にはオームが断じた通り、アーサーを鍛えて彼の王座を奪わせる結果となった。
16歳のアーサーにアトランナのトライデントを渡したとき、バルコはすでに将来オームが地上に害をなすかもしれないと考えていたことになる。はや!だってまだ最大で12歳の計算だよ?どれだけヴィランの才能豊かなの!オーバックスがせっせとアーサーへの敵意を植え付け、返り討ちにできるよう常に備えさせていたとはいえ。オームの方も生きるために心を殺して父の教えを全肯定し、母の教えを全否定していた(←個人の見解です)とはいえ。
最大12歳のオームはもう、バルコが不安視するほど悪い子になっていた(そして前作では見事に悪い王様。今作である意味洗脳が解けたら、素直で天然でいじらしいくらいなのに)。バルコとメラはなんとかオームをまともに戻そうとしたのではと思うけれど、試みて、試みて、バルコは失望し続け、アーサーに希望をつないでいたのかもしれないね。
オーバックスを継いで王になったオームは、バルコの懸念通り地上にとって危険な存在となった。直接のきっかけは不明ながら、ある時点からバルコはアーサーに、オームを廃して王になってほしいと本気で要請し始める。何年もそれを拒み続け、アトランティスと関わることすら避けていたアーサーだが、オームの起こした津波にトムが巻き込まれたことから心を決め、彼の地上侵攻を阻止すべくその地を訪れる。そしてついに兄弟は出会った。
アトランナの帰還
「隠された海」にて生き延びていたアトランナは、オームを倒すため伝説のトライデントを探すアーサーと再会する。
最初にメラを見つけて救助した彼女は、幼い頃教え導いたオームの婚約者のことがすぐに分かったはず。そこにオームではなく地上の息子アーサーがくっついてきて、一瞬どう思ったろう(3歳で生き別れたアーサーとは約30年ぶりに会ったのだけれど、オームじゃないのはさすがに見た目で分かるかと……)。カラゼンがトライデントを守護するこの地に現れるのは、やはり特別な存在であるアーサーだと納得したのだろうか。
「王を超える存在」「いつの日か陸と海をひとつにする」とアトランナが信じたアーサーは、試練の末カラゼンを従え、伝説のアトランのトライデントを継承する。
アトランナはアーサーとメラの2人から、状況とオームの変節を聞いただろう。しかし驚愕はしなかったのではないか。恐れていた通りのことが起こったと考えたのではないか。
地上への憎しみを抱いて侵攻を企図し、兄アーサーとも敵対したオームの行為。それを知ったアトランナの思いは、再会を果たしたときの彼への言葉に凝縮されている。先ほども挙げたこれ。
「あなたは誤った方向へ導かれた。父親はあなたに2つの世界があると教えたけれど、彼は間違っていた。陸と海は、ひとつなの」
そして彼女は同時に、「あなたを心から愛している」とオームを抱きしめるのだ。
果たされた約束、波間に消えたオーム
アトランナと息子たちは、生きて再び会うことができた。アーサーを守るとアトランナに誓ったバルコの約束は果たされた。彼女が危惧したように道を誤った弟オームを、バルコに導かれたアーサーが倒すという形であったにせよ。
「アトランナ+オーム」親子に焦点を絞ると、前作の結末はやはり切ない。王座を奪われたオームは囚われて波間に沈んでいく。涙を見せていたアトランナ含め、バルコもメラもついでにオームのほぼ共犯のゼベル王ネレウスも、オームが海に片付くとみんなにこにこでアーサーを讃える。コロシアムであれほど熱狂的にオームを支持していた国民も、雪崩のようにアーサーに傾く(兵しかいなくない?と思うけれど、バルコのセリフ「国民が証言します」からするとそういうことなんだろう)。先述した「2人の愛が世界を救った」の一連のセリフで大団円となる。
英雄アーサーの新生アトランティス王国に平和をもたらすため、オームは過去の王国の暗部を全て抱えて海の底に消えていったのだと思った。アトランナもそれを了解し、それゆえ最後にはなむけのように救いを与えたのだと。
そして、4年後にだいぶ救われたオーム
だから彼の再登場は予想外だったし、アトランナの愛してる、毎日思ってる、のくだりで最初「あ、そうだったんだ……」と軽く驚いたのはないしょです(誰に?)。
今作のオーム、初めのうちはキャラ崩壊させられて無理やりアーサー側につかされたように見え、ヒーローの対極とか改心した元ヴィランとかギャグ担当とか、いくらなんでも便利に使いすぎじゃないかと感じてしまった(で、あれこれ考えて自分を納得させることになった)。
だけどアトランナにはめっちゃ愛されてるしアーサーにもなんだかんだで愛されてるみたいだし、4年前の問いには答えてもらえるし最後には笑い合って認め合うし、彼の動機を含む兄弟の主題がそこここで使われるし、絞り出すように口にした2つの願いも成就するし、前作に比べればだいぶ救われていてなんだかほっとするのでした。