フィンランドの3つの間 -空間・人間・時間-
オンライン化が加速している世の中ですが、 未だにオンラインで伝わらないものもあります。それが五感。
前職でリサーチアシスタントをしていた、五感の体験やその経験から創られるKANSEI(感性)を科学的に検証・可視化する研究チームKansei Project Committeeでは以下のことを軸に実験を設計していました。
「五感と3つの「間」空間、人間、時間」
http://kanseiproject.com/concept
それをフィンランドの現地に来て体感しています。
-時間
フィンランドの夏は5時から23時まで日が出ていますが、冬は10時に日が上り、15時に沈みます。冬はさらに晴れの日が少なく太陽を拝むことができる日も少ないです。
こんなに太陽の登る時間、太陽があることに感謝したことは今までありませんでした。
日本、シンガポールに住んでいた時は日焼けするからと鬱陶しいと思っていたくらいなのに。
太陽がないと人の心も塞ぎ込みがちになります。日の時間が長くなると気持ちが楽になるのかと思ったら、対応しきれずに気持ちが不安定になります。夏になってみて分かったのですが、その時期に友人も心なしか少し不安定になっている子がいました。
-空間と時間軸
『極夜行』で冒険家の角幡さんは4ヶ月間太陽が登らない極夜の体験を綴っています。太陽がない上に月明かりも無くなることを体験して、その中での空間、時間と恐怖についてこう述べています。
「光がないと、ここの平安の源である空間領域におけるリアルな実体把握が不可能となる。周囲の山の様子が見えないと、当然自分が今どこにいるか具体的にわからない。(中略) その結果、具体的な未来の自分の行動が予測不可能となり、明日生きている自分をリアルに想像できなくなる。つまり地図の中で自分の居場所がわからないと、単に空間的な存立基盤を失うだけではなく、自分の将来がどうなるかわからなくなることになり時間的な存立基盤も同時に失うわけだ。つまり闇は人間から未来を奪うのである。闇に死の恐怖が付き纏うのは、この未来の感覚が喪失してしまうからではないだろうか。(中略) その恐怖の本質は闇そのものにあるのではなく、自己の内部で漠然と構築されていた生存予測が闇によって消滅させられてしまうことにあるのだ」『極夜行』角幡 唯介(2018), 文藝春秋
-人間と時間
ここまでの極限状態ではないですが、そんな空間の変化による、体のバイオリズム、心の変化は冬になると感じます。
日が短くなり始める11月頃は私自身、自分がどういう時に落ち込みやすいのか、どのように回復するのかをしっかり把握するようにして、自分の精神を一定に保つように努力しています。
フィンランドの人は自然で過ごす時間をとても大切にします。
これだけ日が登っている時間を楽しめる7、8月はみんな1ヶ月から2ヶ月休みを取る人が多いです。冬に備えているのかなと。
そして自然と共存している人が多いように思います。サウナ、キャンプ、カヌー、森への散歩。自然の厳しさを知っているからこその楽しみ。
自然が近いからこその自然を守ろうとする意識。
自然に人間が逆らえないことを知っているからこそ、さらに都心ヘルシンキからの自然が近いから、今言われているSDGsの考えがすんなり浸透しているのかなと思います。
フィンランドの食料自給率も80%以上、穀物に限っては110%。なかなか作物が育たない中、どれだけ大切かわかっているのです。
自分をサステイナブルでいるために フィンランドではありますが、デンマークのKaospilotに日本人で初めて留学され、現在は株式会社レアの代表の大本綾さんのインタビュー記事で、デンマークが幸せな国である理由についてこう語られていました。
「カオスパイロットに入って1年目のときに放課後に残って勉強をしていたら、こんなことを言われたんです。”それってサスティナブル(持続可能)な生き方じゃないよ”って。訳を聞くと、今エネルギーをたくさん使っていたらストレスで病気になる可能性もあるし、エネルギーが途中で切れてしまうかも知れない。だけど少しずつエネルギーを使っていけば、エネルギーも長持ちして長生きできるはずだ、と言うことなんです。精神と身体のバランスの取り方を初めて学んだ気がします。」真鶴出版, WYP(World Youth Products)
私もフィンランドで、授業が忙しい中ワークショップの企画に勤しんでいる時に、同じようなことを言われたことがあります。
五感に関してはフィンランド語でないと入ってこない考えもあると思います。“Unavoidable Darkness”という授業が12月にあるのでそれを受けてみて少しでもこちらの人の五感に関する考えを知りたいと思います。
五感にまつわる3つの間が異なる環境での生活。自分の五感もフィンランドにきて変わっているように思います。
自然とともに、自分の心とも向き合い、自分を大切にする。
来る冬に備えて考えるこの頃です。