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青いギヤマンの祈り〜海に眠るダイヤモンド〜 続編- 短編小説


鉄平の意志を継ぐ旅人

怜央はツアーコンダクターとして日本各地を回る日々を送っていた。鉄平に憧れたあの日から数年が過ぎ、彼は日本の観光地を案内する中で、怜央が訪れる観光地の周辺では、次々と人工物が建設され、美しい海岸線が埋め立てられていく現状を目の当たりにしていた。

特に印象に残っているのは、瀬戸内海のとある島の風景だ。訪れるたびに広がっていた松林は徐々に切り開かれ、モダンなホテルや観光施設が並び始めた。観光客は増えたものの、その風景に何かが欠けているように感じられた。

ある日、怜央は観光客たちに話しかけた。
「皆さん、この島の自然がどんどん変わっていることにお気づきですか? ここにはかつて、もっと深い緑の林と、どこまでも続く砂浜があったんです。」

怜央の言葉を聞いたツアー客たちは驚いた表情を見せた。「そんな昔のこと、知らなかったわ」とつぶやく声もあった。

この経験をきっかけに、怜央は文化だけではなく、自然を守る大切さに気づき、ただのツアーガイドとしてではなく、「自然を守る旅人」として行動する決意をした。彼は観光地で署名を集める活動を始め、開発計画の見直しや森林伐採、海面や湿地埋め立ての抑制を求めた。そして各地の伝統や自然の大切さを伝える講演も行い、共感を広げていった。

数年後、怜央の努力はついに実を結ぶ。彼の活動を支持する声が高まり、自然環境を守る法律が新たに制定されたのだ。それはいづみの意志を引き継ぐ怜央にとって、大きな達成だった。いづみとの約束を果たした今、彼は満面の笑みで青い海を見つめた。

鉄平の遺したもの

怜央が活動を続ける中で、鉄平の生き方も再び注目されるようになった。鉄平が生前、各地の炭鉱で働きながら困難に直面した人々に寄り添い続けたエピソードは、全国に伝えられた。彼が住んでいた施設は、今や訪問者が後を絶たない場所となっていた。

「鉄平さんのおかげで人生をやり直せました。」
「彼と話して救われました。」

そう語る人々が施設を訪れるたびに、鉄平の存在の大きさを感じた怜央。さらに、地元住民たちの要望で、野母崎には「鉄平神社」が建てられることとなる。その神社は、訪れる人々に「人との絆」や「恋愛のご縁」を結ぶご利益をもたらすとして広まり、観光地としても人気を博した。

怜央は神社を訪れるたび、鉄平の温かな笑顔を思い描いていた。彼が今も誰かの心を照らし続けていることに感謝の気持ちがあふれていた。


ブルーのギアマン

怜央はある日、軍艦島の鉄平の部屋に置かれているというギアマンの話を思い出した。それは、鉄平が朝子(いづみ)へプロポーズする時のために密かに作っていたものだ。彼は最新の技術を駆使して、その宝石を取り出す計画を立てた。軍艦島の廃墟は人の手では入ることが困難だったが、怜央はドローンを使って鉄平の部屋からギアマンを回収することに成功した。

いづみは、手渡された瞬間、涙を流してそれを抱きしめた。まるで鉄平と朝子の想いを繋ぐダイヤモンドのようにまぶしい。やっと一緒になれたねと祝福しているような輝きだった。それは、端島の青い海と同じ色をしていた。

いづみと怜央は、鉄平神社で手を合わせた。
「鉄平さん、あなたは本当に人を守る使命を持っていたんですね。」

怜央の言葉に、いづみは微笑みながら頷いた。
深く刻まれた目尻のシワが、懐かしさと優しさをにじませている。運命の波に翻弄されながらも、人生のすべてを受け入れてきた豊かな心の証のようだった。彼女はふと、隣に立つ怜央の横顔を見つめた。

「私が初めて怜央に会った頃、あなたはまるで抜け殻のようだった。だけど、鉄平の人生を知り、その温かな心に触れる中で、少しずつ変わっていったのね。」

いづみの声は穏やかに続ける。
「あなたがわたしの意志を継いで、日本の自然を守ろうと活動している姿を見ていると、本当に立派な大人になったんだなって、心から誇らしく思うの。」

怜央はその言葉に少し照れくさそうに笑みを浮かべながら、青い空を見上げた。

彼は実際に、鉄平の顔を見たことはなかった。しかし、その優しさや生き様を、日記や人々の言葉から思い描いていた。どんな笑顔で人々に接していたのか、どんな言葉で彼らと語っていたのかを想像しながら、彼自身の道を歩んできたのだ。

「鉄平さんのように、僕も誰かを助けることができたらいいなって、ずっと思ってきた。でもまだまだだなー。」

鉄平の存在が怜央を通して未来へと受け継がれたことに、いづみの心は静かな感謝で満たされていた。


未来への希望

それから100年後—地球はどうなっただろうか。

空を飛ぶドローンの視点から見えるのは、深い山々を自由自在に飛び交う朱鷺(トキ)たち。小さな小川には、絶滅していた日本カワウソの姿もある。そこには人工物の影は一切なく、人々の姿も見当たらない。自然は豊かに息づき、沢山の生き物が生息する地球本来の姿を取り戻しているようだった。

突然、山の洞窟から円盤型UFOに似た飛行物体が現れる。家族らしき老若男女を乗せたその乗り物は、地球の上空を悠々と飛んでいる。彼らは地下で暮らしながら、地球の自然環境を守る選択をしたのだ。

飛行物体の窓から見えるのは、大地と海が一体になったキャンバスの中に、キラキラとしたライトブルーの海に広がる美しい珊瑚礁もあった。
微笑みながら見つめるその瞳には、あのブルーのギヤマンと同じ輝きがあった。彼らの心には、鉄平やいづみ、怜央が残した想いが、静かに息づいているのだった。

未来に向けた祈りと希望が、地球に安堵と幸せを吹き込んでいた。

終わり




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スキをいただいてありがとうございました」


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ありがとうございます😊

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じゅんじゅん
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