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ディランの歌詞を超絶意訳してみた 【Blonde on blonde編】

あれほど暑かった夏もいつの間にか過ぎ去り秋ですよ、秋。
季節関係なく一年中音楽を聴いてる私でも、この肌寒い季節に似合う名盤が聴きたいなと思い手に取ったのがコレですよ。

『Highway 61 revisited』と並んでディランの黄金期の作品ですね。本人も「自由に動き回る水銀のようなサウンドで、とにかく黄金に輝いている」と称える通り、この作品は彼のカタログの中でも非常に芳醇なサウンドが全編にわたって染み入ってます。

んで、サウンドを聴くだけじゃやっぱ物足りないということで、今回も彼の難解の歌詞を意訳してみようというわけです。ぜひとも、この記事を手に取りつつ、アルバムを通しで聴いてみては如何でしょうか?

〖注意〗
日本の中高生レベルでも、パッと見で大意を把握できるような分かりやすい文章を目指したため、分かりにくい固有名詞や隠喩を極力排除してます。ディランの良さが薄れる、解釈が違うという箇所も出てくるかと思いますが、そこは承知の上で楽しんで頂ければ幸いです。

1曲目『Rainy day woman #12 35』

難解度:72
名曲度:88
短評:ひとつの単語に多義的な解釈が出来るのがディランの歌詞の真骨頂だが、本作はまさに「ストーンド」の解釈の多彩さが見られる

いい人ぶったら石を投げられる(ストーンド)
お決まりのように投げられる
帰路に着いても投げられる
ぼっちでいても投げられる
でも俺だけってわけじゃない
みんな投げられるしかない

我が道ゆけば石を投げられる
立場を守れば投げられる
地面を這えば投げられる
出口へ逃げれば投げられる
でも俺だけってわけじゃない
だからみんな酔っ払う(ストーンド)しかない

朝飯食べると投げつける
若い奴へ投げつける
稼ぐ奴にも投げつける
投げつけるくせに偽善ぶる
でも俺だけがやられてる訳じゃない
だからみんな現実逃避するしかない

もうやらないって言ったくせに
またまた石を投げつける
車の中にも投げつける
ギターを弾いても投げつける
別に被害は俺だけじゃない
だからみんなハイになるしかない

歩くだけでも投げられる
家に向かえど投げられる
たとえ死のうが投げられる
でも俺だけってわけじゃない
投げられるのは皆同じ

2曲目『Pledging My Time』

難解度:70
名曲度:72
短評:本アルバムは全編にわたってレイドバックした雰囲気があるが、この歌詞はそれを象徴するような諦念やダルさが感じられる。

朝が明けてから
夜がふけるまで
ドラッグのせいで頭が痛い
後の余生はお前に預けたから
なんとか上手くやってくれ

あのならず者はそこそこ上手くいってたが
案の定 地に堕ちた
だって俺の大切なものを奪って
俺まで壊されそうになったもんな
後の時間はお前に預けたから
なんとか上手くやってくれ

俺と一緒に行こうぜ、なあ
好きなところまで連れてやる
それでうまくいかなけりゃ
話はそこまでさ
後の人生はお前に預けたから
なんとか上手くやってくれ

部屋の中が息苦しい
どうやら生きてくのも苦しい
残ったのは俺たちふたり
どうか見捨てないでくれ
時間はお前に預けたんだし
なんとか上手くやってくれ

救急車が向かってくる
あそこで事故が起こったってな
でもどうやら軽症で済んだらしい
まあ、俺はとっくにリタイアしたんで
後はお前がやる番さ

3曲目『Visions Of Johanna』

難解度:93
名曲度:93
短評:ジョハンナを和名に変えてみるという冒涜に近い大胆な試みをしてみた、それに最後のバースがムズすぎる

そんなに押し黙ってるなんて
なにか隠し事でもあるみたい
認めたくないだろうけど
今ぼくたちは行き詰まってここにいる
佳奈だって生活するのに必死で
灯りも不穏にチカチカしてる
暖房が部屋を暖め
ラジオからカントリーが流れてる
俺はここに囚われっぱなし
佳奈は彼氏に夢中だが
俺は美咲の幻影を引きずってるだけ

空き地では女たちがてんやわんや
鬼ごっこでもしてるのかね
夜遊び中の少女らが地下鉄乗ろうと誘ってくる
夜廻してる警備員さえ、善悪の判断がごっちゃになる
佳奈は気さくだけどがっつきすぎだ

俺は表情が顔にでやすいから
フラれた日にゃすぐに気づかれる
きっと彼女も心の中で思い出が電気のように光ってるだろう
思い出の中の美咲の姿が
幻影となって俺の脳内に焼き付いた

どうやら迷える青年は
シリアスに物事を考えがち
惨めな境遇を訴える割に
危険な生き方をしたいらしい
とうとう彼女の話をし始めて
さよならのキスのことをつらつら語る
たいした度胸だ
よくもこんなマヌケでいられる
せっかくコンサート開くってのに
本番直前にノイローゼ
ほんと、どうしてこうなっちゃったんだろ
じっと耐えるしかないのかね
いつまでも幻影が付きまとい
朝まで俺を眠らせない

美術館は過去から未来まで展示してるけど
駄作はあっという間に捨てられる
最後の審判の後は、じきにこうなるのか
そんな不安が聞こえてくる
あのモナリザだって微笑みの裏に憂いが見える
頼りない女が風邪をひき、一匹狼も寒がってる
いい歳したおっさんも、膝がガクガク震えてる
そして豚共が真珠を身につければ
痛々しい幻影にしか見えない

伯爵は露天商が好きらしい
「他人にすがらない人がいるのなら、俺はその人にすがらせてもらうよ」
って言ってたけど、どうせ上辺だけでしか物事見れないんでしょ?
佳奈はそう指摘したけど、みんな同じようなもんだろ
いわゆるマリア様ってのも現れず
僕らは時が過去を腐らせるのをこの目で見た
かつてはマントをひらひらさせてたというのに

バイオリニストだって、古いお下がりは全部売っぱらったらしい
そう、落書きに書いてあった
もはやモラルやコンプラなんてどうでもよくなってきて
ハーモニカでやせ細ったメロディーを吹き始めた
雨音と幻影だけを残して

4曲目『One of us must know』

難解度:95
名曲度:83
〖短評〗ただの失恋ソングだが、侮ってはならない。不自然にならないよう意味を繋ぎ合わせるのが1番しんどかった、でも苦労した分なんだか愛着も湧いた。

ひどいことをしてしまったね
別に悪気はなかったんだ
悲しませるつもりはなかった
たまたま君が居合わせただけ
きみがサヨナラを告げた時
友達に言うように笑顔だったものだから
どうせまたもどってくるって
思い込んでた
あれが永遠のサヨナラだなんて

でもいいさ、どのみち僕らのどちらかは気づく
君が単に期待に応えてただけだと
そのうち僕らのどちらかは知る
僕が本気で向き合おうとしたと

君の気持ちが掴めない
いつも本音が出ぬよう誤魔化す素振り
君がなぜ僕の気持ちがわかるのか不思議だったけど
少なくとも僕の理解者だったはず
でも結局、君がヤキモチを妬いたもんだから、
少し拍子抜けしてしまったよ
君だって若い女の子だったんだね

でもいいさ、どのみちどちらかは悟る
君は当然のように振舞っただけだと
そのうち必ずどちらかは知る
僕が本気で君を愛そうとしたと

気づけば雪が降っていた
君の声に気を取られすぎて
どこへ進んでいるかも分からなかったけど
君の言うがままに付いていった
なのにいざ僕が詫びた時、
所詮は火遊びの果て、あなたをからかっただけよ なんて言ったよね
それでも僕は眼をえぐられる思いで言葉を絞り出すしかなかった
君を傷つけるつもりなど毛頭無かった、って

遅かれ早かれ、どちらかは知るべきだった
君は期待に応えてただけだと
きっとどちらかは知るべきだった
僕が本気で君に近づこうとしたことを

5曲目『I want you』

難解度:91
名曲度:88
〖短評〗i want youだけでここまで多様な解釈が出来るのがディランの凄さ。

優柔不断の死神がため息ついて
神父様も孤独をこじらせ
高貴な婦人も少女を罵り
壊れたベルと錆び付いたラッパが
軽蔑の音色を鳴らす
だからって、俺は譲らないぜ
君のいない人生なんてありえないよ
I want you  I want you
君が欲しくてたまらない
嗚呼、君がほしい

酔っ払った議員が通りで乱痴気騒ぎ
それを見た母親たちが泣いている
ぼくは救世主を待っている
でも救世主ですらぐっすり寝ながら君を待つ
そうやって腐ってないで
ドアの前で君を待とうと言ってくるので
I want you I want you
希望が欲しくてたまらない
嗚呼、希望がほしい

かつてのリーダーもすっかり意気消沈
愛は地球を救わない
そこで暮らす子供達こそ
僕をバカにするだろうね
考えること自体無駄だから

今度、女王様の元へ伺って
メイドとでも話してみよう
率直な僕の態度を
女王様はいたく気に入ってくれてる
彼女は全てお見通し
僕が何を望むかも知ってる
というかそんな事より
I want you I want you
自由が欲しくてたまらない
嗚呼、自由がほしい

チャイニーズの野郎が君の事を謳うから
思わず奴の笛を奪ってやった
正直俺は性悪だが
嘘をつくヤツも悪いだろ
君を利用して、詭弁を並べる
時代とたまたま合致しただけ
それに、何度も言うけど
I want you I want you
理想が欲しくてたまらない
嗚呼、理想がほしい

6曲目『Stuck Inside of mobile with the Memphis Blues again』

難解度:92
名曲度:85
短評 無駄に時間がかかるがdesolation rowの下位互換な感じがする

鉄クズを集めに街を巡回
行ったり来たりで暮らすそいつに
声をかけても口を聞かない
世話焼きの女が渡してきた
記憶を録ったカセットテープ
俺だって分かってるよ
ここから抜け出せないってことは
なあお袋、俺はここで死ぬのか?
モービルの港町だってのに
メンフィスブルースが流れてくる

シェイクスピアですらホームレス
革靴履いて、カフスをはめて
フレンチガールと話してる
その子は俺が今どんな身なりか知ってるので
手紙を送って
外の状況を知りたいんだが
あいにく郵便局は潰れていて
文通すら出来やしない
なあお袋、これが一巻の終わりってやつ?
モービルの港町から抜け出せず
またメンフィスブルースを耳にする

街の線路には近づくな
そう、彼女が俺に警告してきた
駅員がたかってきて
俺の血を吸い尽くすらしい
そりゃ知らなかった
確かに奴らの1人は、俺の視界を奪い
タバコを吸う暇さえ与えなかった
なあお袋、これじゃあ一巻の終わりだよ
モービルの港町に囚われながら、
メンフィスブルースを聴いている

爺さんが先週死んだ
そのままコンクリに埋められた
近所の人がしきりに噂するが
俺に言わせりゃ、どうってことない
だって爺さんは気が触れて
表通りで火を焚いて
怒りの炎を乱射した
なあお袋、ここで俺は果てるのか
モービルの港町を抜け出せず
またもメンフィスブルースか

上院議員様のお通りだ
みんなに銃をひけらかし
息子の婚礼式のチケットすら
タダで配って人脈集め
でもチケットを貰えない俺は
捕まるかどうかの瀬戸際で
自らの運命を嘆き
いつか変わり果てた姿で発見される
なあお袋、これで一巻の終わりか
モービルの港町から出られずに
メンフィスブルースを聴くしかない

どうしてニュースの見出しなんかを
アクセサリーの代わりにするの
俺がそう問いかけると
牧師さんも答えに困る
おまけに証拠を見せたら逆ギレだ
どんな偉いやつでも結局は人間
いくらあんたでも見え透いちゃったね
そう、小声でボソッと呟いてやったよ
なあお袋、ここで一巻の終わりかよ
モービルの港町に囚われて
またまたメンフィスブルースか

シャーマンが2つも処方箋をくれて
俺に飲むのを勧めてきた
こっちは恵み豊かなテキサスの薬草で
こっちは鉄の匂いがする薬用のジン
馬鹿な俺は2つを混ぜちまって
そのせいで心臓が締めつけられた
周りの人間が醜く見える
今が何時かも分からない
なあお袋、ここで一巻の終わりかよ
モービルの港町に囚われて
メンフィスブルースも聞き飽きた

向こうの南のラグーンにいるから
会いに来てよとあの娘が誘ってくる
月が見下ろす熱帯夜に
お代いらずで踊るって
「冗談よせよ、知ってるだろ、俺には彼女がいるんだ」
「その子はあんたの要求にただ従うだけ、ほんとに欲しいものを教えてあげる」
嗚呼、ここで一巻の終わりかよ
モービルの港町を抜けられず
メンフィスブルースにはうんざりだ

NYの大通りに
積み上げられたレンガを登る
ネオンに光る気狂い達
みんな一緒に崩れ去る
しかも絶好のタイミングで
俺はここで辛抱強く
答えが出るのを待っている
いつまで同じこと繰り返してる
金払ってでも歴史を学べ
嗚呼、これで一巻の終わりかよ
モービルの港町に囚われて
メンフィスブルースを口ずさむ

7曲目『Leopard-Skin Pill-Box Hat』

難解度:75
名曲度:88
短評:ボブ・ディランが寝取られモノを書くとこうなるのか

新品のピルボックス帽を買ったのか
ピカピカの豹皮製だね
聞かせてくれよ
そいつの被り心地はどうだ
まっさらなピルボックス帽

可愛すぎる、その帽子
跳びかかりたくなってくる
いや、確かめたいんだよ
そいつが真に高価なやつか
やっぱり君にピッタリのようだ
ワインボトルのようにスリムで
シーツのように柔らかな
そのまっさらなピルボックス帽

とっておきの場所で
朝日が昇るのを見に行こう
2人で座って眺めるんだ
俺はずっとオシャレにキメるから
もちろん君も被ってよ
そのまっさらなピルボックス帽

医者から止められたけど
それでも君に会いに来た
そしたらなんでアイツがいるんだよ?
影で逢い引き、そりゃかまわんが
アイツに被って欲しくはなかった
きみのピルボックス帽

新品の彼氏ができたか
今まで見た事ない奴だ
そいつが君を抱いてるところ見せてもらった
ガレージのドアが開きっぱだったもんでな
別に金欲しさって訳じゃないだろ?
だってアイツが君を愛する理由も
そのまっさらなピルボックス帽

8曲目『Just like a woman』

難解度:85
名曲度:97
短評:たまにこうゆうメロディアスなの書くからディランに沼る人は多いんだろうな
痛みも何もかも感じない
今夜の僕は雨の中
洒落た服を買い出したのは知ってる
でも巻き毛に結んでいたリボン
近頃どうも見かけない
口づけする時は大人のようで
そう、交わる時も、辛い時も
大人のように振る舞うのに
1度壊れればただの少女

女王様とは仲良しらしい
きっとこれからも会いに行く
でもそれじゃあ幸せになれないなんて
誰の目にも明らかなのに
いつになったら分かるんだろう
病んだり、依存したり、着飾ったりだって
みんな経験してるのに
口づけする時は大人のようで
そう、交わる時も、疼く時も
大人のように振る舞うのに
結局中身はいつもの少女

ずっと雨が降ってるのに
心はいつまでも渇いたままで
だから会いにきたというのに
恨み辛みをぶつけに来る
泣きっ面に蜂で
とてもここにはいられない
どうみたって、そうだろう?

やっぱり僕には合わないよ
きみとはどうやらここまで見たい
次会う時は、ただの友達
今までの関係は秘密にしてよ
最後にギクシャクしたことも内緒だ
君の世界に飢えてただけ

結局、関係を偽る時も大人のようで
交わる時も、疼く時も
君は全部大人のように振舞ってたのに
いざ壊れたら、ただの少女

9曲目『Most likely you go your way』

難解度:60
名曲度:60
短評:またまた皮肉たっぷり未練たっぷりの失恋ソング、フィクションなのか実話なのか分からないくらいの繊細な心理描写

僕を愛しているとか
僕のためを考えてるとかいうけれど
いつもそんな気分になるわけじゃないよね
僕のことを抱き留めたいというけれど
そんな力が無いってことは自覚してるよね
以前のようには僕はやれない
こっちから願い下げさ
好きに行きなよ、止めないから
僕は後で何とかするから
時が来ればわかるだろう
どちらが落ちぶれ、どちらが生き残ったか
君が君の、僕が僕の道をゆく時

僕の邪魔になるだとか
僕に値しないとか自分を嫌悪する割に
時々 嘘ついてまで構ってもらおうとするよね
体が震える
胸が痛い、といいながら
そうやって演技ばかりしてる
いい加減にしてくれよ
いつもそんなじゃ、僕は困る
止めないからさ、お好きにどうぞ
僕はゆっくりついてくから
時が来れば分かるだろう
どっちが落ちぶれ、どっちが生き残ったか
君が君の、僕が僕の道をゆく時

白黒はっきりつけるため
裁判官が君を呼び出す
でも私情を持ち込んでくる彼は
竹馬で歩くようによろけてて
いずれ君のもとへ倒れ込む

後悔してると何度も言うなら
まあ言い訳として受け止めておくよ
どうせ何股かしてるんだろ?
きっとそうだろう
キスが俺より上手いから?
まあいちいちワケは聞かないけどさ
だからもう止めないよ、お好きにどうぞ
今は別に最下位でもいいよ
時が来れば分かるだろう
どっちが落ちぶれ、どっちが生き残ったか
君が君の、僕が僕の道をゆく時

10曲目『Temporary Like achilles』

難解度:75
名曲度:65
〖短評〗この主人公は鈍感なストーカーなのか?

君の窓辺にたっている
そうだ、ここには前にも来た
迷惑だっていう自覚も無く
心の奥にある扉を見つめる
どうして僕を無視するんだい
愛を求めている僕を
どうして固く遮るんだ

君の内側で跪くことで
しばらくここにいさせてもらうよ
君の顔色、読み取ろうとしたところで
結局無力で、金があっても満たされない
どうして他人に頼ってまで
僕を拒絶するんだ
愛を求めているだけなのに
どうしてそんなに辛くするんだ

こんなにバカをさらけ出してる僕の
足音は聞こえてるだろ
君の心が石のように冷たろうが
家の中へ駆け込んで
絹のドアにもたれとく
ずっと警戒しながらパニクってるけど
そんなにまでして、何を守っているんだよ?
愛を求めている僕に
どうしてそんなに頑ななんだ

とうとうアキレスを護衛につけて
僕に出てけと、心の路地で怒鳴り散らす
天を指さし、脅してくるが
実は腹を空かしたオカマだろ?
こんなやつ、よくも護衛に雇ったな
僕は愛が欲しいだけ
どうしてそんなに固くさえぎる

11曲目『Absolutely Sweet Marie』

難解度:92
名曲度:90
短評: バフィー・セント=マリーと袂を分かつ羽目になったことについて歌ってるらしい。語り手が刑務所にいる設定は精神的なものなのだろうか、それともほんとうに刑務所にいるのだろうか…

君の改札口を、どうにも乗り越えられなくて
時々あんまりきつくなって
ここに座って、トランペットでリズムを鳴らす
君が残した約束を一緒にたたきつけている
今夜はどこにいるんだ、麗しのマリー

ボロボロになっても君を待った
憎まれながらも君を待った
凍りついた通りで、君を待った
俺にだって用事はあるけど
今夜はどこにいるんだ、麗しのマリー

俺みたいな男はいくらでもいるが
君みたいな子はなかなかいない

君と待ち望んだ六頭の白馬が
ようやくムショに送られてきた
法の外で自由に生きるためには、正直さだけは忘れちゃいけないって
そう諌めても、その場しのぎで頷いてたっけ
今夜はどこにいるんだ、麗しのマリー

内容は別に分からないが
水夫が僕らの運命を知っているって
それ以外は、君も含めて
みな、ただ見守る他は無い

ポケットの下がやけに蒸し熱い
迷い込んだ輩ばかりが俺に絡んでくる
君の家まで連れていこうか、
いや鍵は開けられないんだった
俺に鍵を渡さずに君は出てったから
今夜はどこだ、麗しのマリーはどこにいる

そういや、ムショの手紙で知ったんだが
悪いツレに住所を知られてしまったのか
今俺は、廃墟になった君のバルコニーから
陽に照らされた線路をながめてる
そして思う、今夜はどこだ、麗しのマリー

12曲目『Fourth time around』

短評:ジョン・レノンへの皮肉という噂もある曲
シュールな描写なので意図を汲み取るのにめちゃくちゃ苦戦
難解度 98
名曲度:89

「無駄口叩かないで、どうせウソよ」
というもんだから
耳でも聞こえねえのか!?と泣き叫んだら
目が潰れるほど顔を嬲られ
「次はどこが残ってることやら」と脅された
俺がスクッと立って出てこうとすると
後ろから愚痴をぶつけてきた
「何か貰ったらお返しするのが当然なのよ」

鼻歌でも歌って受け流し
「どうしてさ」と不満を零してみる
するとアンタはブーツを締めて スーツを整え
「なによ、可愛子ぶって」と反発するんで
呆れ返った俺はポケットの中を
親指でまさぐって
アンタに礼儀で渡した
チューインガムの最後の1枚

ホテルから放り出されたおれは
泥だらけの路上を歩く
そして気づいた
身に纏うシャツを忘れた
戻って部屋の玄関をノックし
取りに行ってもらう間に
ロビーで1人、物思いにふける
立てかけてあった絵に目をやれば
アンタが車椅子に乗っている姿
これはどういう意味だろう

アンタがやっと出てきたもんだから
ジャマイカのラム酒で1杯誘ったら
またゴニョゴニョ言ってきやがった
ガム噛んでないで、はっきり喋れと指摘したら
アンタは絶叫して、気を失ったので
覆いをそっとかぶせ、アンタの引き出しにシャツがないか探しに行った

一通り済んで靴の中に詰め込んで
ついでにアンタの分まで詰め込んで
君の所に持ち寄った
君はそのまま部屋に通し愛してくれた
無駄な時間なんて過ごしてない
別に大して何も望んでないしね

俺は何も貰わずここまで来たんだから
アンタだって俺の杖を欲しがんなよ

13曲目『Obviosly five believers』

難解度:30
名曲度:50
短評:恐らく深い意図はなく、言葉遊びの一環であると考えられる。「信者」という表現と5の数字が若干キリスト教とユダヤ教を想起させるが、特段意味は無いだろう。

朝早くから
朝早くから
お前を呼ぶ
お前を呼ぶ
どうか家に戻ってきてくれ
お前なしにも生きられるかと
思ったけどさ、あまりに寂しい

がっかりさせるな
落ち込ませるな
お前のことは
落ち込ませんから
約束するさ
お前にできるなら、俺にもできる
なあ、どうか落ち込ませないでくれよ

俺の犬が吠えている
俺の犬が吠えている
たしかに吠えている
たしかに吠えてるとも
庭の外だ
なんと言ってる?
聞き耳立てても混乱するだけさ

お前の母さん働いてる
お前の母さん呻いてる
泣いているよ
もがいているよ
家に帰ってあげな
お母さんが何を望んでるか教えてあげたいが
どう教えればいいのだろう

芸人たちが15人
芸人たちが15人
俺の信者が5人
俺の信者が5人
みんな男に扮装済み
言ってやれよ
母さん心配しないで ただの友達だよ、って

朝早くから
朝早くから
お前を呼ぶ
お前を呼ぶ
どうか家に戻ってきてくれ
お前なしにも生きられるかと
思ったけどさ、あまりに寂しい

14曲目『Sad-eyed lady of the Lowlands』

難解度:98
名曲度:92
短評:本アルバムのラスボス的存在である。ディランがガチのラブソングを描いたらこうなるという好例。多くの異国の翻訳者を困らせ、万華鏡のように彩り豊かな歌詞は、今までで最も難解でナンセンスですらある。
だが、この記事の趣旨がある以上、この最凶の詩を私は汲み取らなければならないのだ。『Obviosly five believers』とは違い、単なる言葉遊びで終わらない比喩表現を1つずつ取り除かねばならない辛さたるや。
ちなみに、私はずっとディランの妻であったサラについて歌ってるものだと思ってたのだが、ジョーン・バエズの母親について歌ってるという解釈もなされてるようだ。


融通が効かないこんな時代の中で
その話し方はのびのびと大らかで
その瞳は今にも淡く消え入りそうで
その祈りは安らぎのもたらす昔唄
その首飾りは銀の十字架、その声色は鐘の音
そんな貴女をいったい誰なら弔えるのでしょう?
手元に置くことでようやく充たされ
草の上に路面電車の幻影を遺す
絹のように柔らかく、ガラスのように脆い
そんな貴女を誰が墓まで運ぼうとするのでしょう?
嗚呼、悲しい眼をした谷底の奥様
悲しい眼をした預言者が言う通り
誰一人 谷底へは訪れない
僕が収めた記憶とこの活気は
そこに置き去っていくべきでしょうか?
それとも貴女の答えを待つべきでしょうか?

そのシーツからは鉄クズの臭い、
そのつけてるベルトはまるで脆く
勝つための手札すら欠いている
着る服も薄汚く、顔も虚ろ
そんな貴女にいったい誰が食ってかかるのでしょう?
陽がうすらげば、貴女の輪郭が余計際立つ
瞳に映る月光が揺らめきながら
マッチ棒1つ分の持ち歌と、ジプシーの賛美歌を奏でる
そんな貴女にいったい誰が興味を引かせられるのでしょう?
嗚呼、悲しい眼をした奈落の奥様
悲しい眼をした預言者の言う通り
だれ一人、奈落へは訪れない
僕の秘めた記憶と好奇心は
そのまましまいこんでおくべきでしょうか
いやむしろお支えしましょうか?

権威を振りかざしてた王たちが
つぎつぎと貴女の前で列をなす
そのゼラニウムのキス欲しさに
誰がこんな展開を予想できたでしょう
でも、誰がキスだけで終わるというのでしょう?
真夜中、絨毯に寝転んで在りし日の情熱を思い起こす
スペイン由来のお行儀と母上様の手厚い保護
門限が早くとも、お転婆で
貴女の魅力に誰が耐えられたのでしょう?
嗚呼、悲しい眼をした底なし沼の奥様
悲しい眼をした預言者の言う通り、
だれも底なし沼なんか訪れない
僕の整った見方とアラビアのリズムに酔いしれる姿を
貴女の前で示すべきでしょうか?
それともお時間が必要でしょうか?

田舎者も都会人もやっと覚悟を決めた
天使がとっくに死んだことを知らせようと
そもそもなぜ彼らは貴女を勘違いしたのでしょう?
よりによって、貴女が誤解されるとは
放ったらかしの農園の処理を押し付けられて
海辺で育った自由な足取りも
それが杞憂だと知ってたのに
なんなら泥を投げられるシングルマザーである
そんな貴女を彼らはなぜ説得したのでしょう?
悲しい眼をした片田舎の奥様よ
悲しい眼をした預言者は言う通り
誰もそこへはを訪れない
僕が心に抱いた思い出とこの高揚感は
貴女に贈るべきでしょうか、
それともただ寄り添うべきでしょうか

缶詰め通りから持ってきた鉄クズの臭いがするシーツのせいで
写真家の旦那も突然家を去ってしまっても
溢れるほどの温和な気品を備えている
そんな貴女をいったい誰が活かせるでしょう?
貴女は怪盗に心を盗まれ、歌詞に護られて生きてゆく
神聖な首飾りに指をからませ
聖なる光と霊的な恵みをもたらす
そんな貴女をいったい誰が供養できるでしょう?
嗚呼、悲しい眼をしたロウランズの奥様
悲しい眼をした預言者が言う通り
この地を訪れる者はない
僕のこの窮屈な視野と異国への憧れは
そのまま捨て去るべきでしょうか?
それとも持ち続けるべきでしょうか?

【編集後記】

ディランの凄さを紹介する際に私がよく挙げるのは「ラブソングが10割を占めてた時代に反戦歌を書いた」というものである。
だがディランがストレートなプロテストソング中心に活動してたのは1963~64年のたった2年の出来事であり、その後の作風は作品ごとにめまぐるしく変わる。
本作のコンセプトをまとめるならば「反戦歌も書けるしロックもやれるこの俺様が真面目にラブソングを書いてみたらどうなるのか」なのかもしれない。『Stuck Inside of mobile with the Memphis Blues again』以外はラブソングであり、そのどれもが別々のテクニックを使って仕上げている。それも基礎的なリフレインから象徴詩までありとあらゆる技法だ。
いわばゲームクリア後にやり込み要素をひたすらこなしてる感じだろうか。恐るべき24歳。

前の記事でも書いた通り、ディランをこうゆう見方で語る人は少ないのかもしれない。
ロイヤル・アルバート・ホールでの一悶着だったり、ビートルズとの相互の影響だったりと強烈なエピソードのせいで、彼自身の魅力を理解出来ず、なんとなく教養としてしか知らない人は少なくないだろう。
実際、私もこうやってディランの歌詞を意訳する上で、何度もその詩のシュールさに疑問符で塗れたし、未だに彼の本質にたどりつけてないと思う。だが、こういう意訳をして彼の素性か少しでも理解していくうちに、他のディラン信奉者に対して「俺の方がディラン分かってるぜ」と失礼ながら優越感を得がちになる。
それこそ正にディランが強烈なカリスマ性を持つ証拠なのだろう。

では、また。


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