「ストレートアンクルロック」と「足締」

1 前稿で「ストレートアンクルロック」の理合について、「折って、捻る」と書いたが、実際に「ストレートアンクルロック」(俗に「アキレス」)と称される技の理合は使い手によってかなりのバリエーションがある。「折って、捻る」以外の掛け方について本稿では簡単に触れて見ようと思う。

2 まず大東流の「足締」と同じ掛け方である。参考までに次の動画の4:12~を見て頂きたい。
 Daito ryu Shouyoukan 大東流合気柔術 逍遙館 初伝三ヶ条 後捕・半座半立 - YouTube
 この型は、相手の足を抱えて、自分の橈骨の固い部分を下図(注1)の「承山」という急所に下から「垂直に」当てて、身体を捻らず真っすぐ後ろに反るようにして倒れる事で、「承山」を押して(=刺激して)極める技である(上の動画では後ろに倒れる代わりに立ち上がる力を利用して「承山」を押している)。
 これは本当に痛い。前師に初めてこの技を掛けられた時はその後二日ほどびっこを引いて歩いていた。ただし、前師が「この技で怪我することはない」と言っていたように、二日後には嘘のように痛みが引いた。

3 次に「カーフスライサー」パターンである。これは「承山」の辺りに橈骨の固い部分を当てる所までは2と同じであるが、そこから真後ろに倒れるのではなく、横に腕を引いて、相手のふくらはぎを切るようにして掛けるやり方である。これは腕を横に引くやり方と身体を横回転させて自重で引くやり方の二つにさらに分かれるが、「カーフスライサー」と書いたようにこのやり方は相手のふくらはぎを文字通り切ってしまう。
 私もこのやり方の「ストレートアンクルロック」をスパー中に喰らってふくらはぎが筋断裂し、足首に血が貯まって一月以上稽古を休むことを余儀なくされた記憶がある。

4 さらに「ヒールフック」パターンがある。これは相手の足を抱えた後で(右手で相手の左足を抱えた場合を例に取ると)右の親指を外側から相手の踵に引っ掛けて、内側に捻り上げるやり方である。ちょっと見ただけでは「ストレートアンクルロック」と区別が付かないが、中身は完全に「ヒールフック」である。捻り上げる動作に要する時間が一瞬なので、こちらが相手の捻る方向に回転して逃げようとしても、逃げるために身体を回転する動作より相手が捻る動作の方が早いため、逃げられないのである。そして、ほぼ確実に喰らった方は足首か膝を傷める。

5 同じ「ストレートアンクルロック」と称していながら、これだけ掛け方にバリエーションがあるわけだが、公式試合では3のやり方は「カーフスライサー」として理屈上は白~紫帯の間は禁止技に該当するし、4はBJJでは(連盟のノーギ・茶黒以外は)完全に禁止技である。
 「ニーバー(膝十字)」や「トゥホールド」等の足関節技が危険だからという理由で白~紫帯では禁止されているのに、「ストレートアンクルロック」と言いながら、審判にバレなければいいと思って「カーフスライサー」や「ヒールフック」と同じ原理で極める抜け道があるのはおかしくないだろうか?「技が危険だから」という理由で足関節を禁止するのであれば、「ストレートアンクルロック」も一律に禁止した方がいい。そうでなければ、いっその事白帯の段階から全ての足関節をリーガルなモノとして許容すべきである。
 そもそも公式試合で足関節がこれだけ多用されるのも、5~10分の短い試合時間の中で、相手をパスしてマウントさらにはバックに移行し、サブミットすることまで辿り着く事が困難である、ないしは、トーナメントを複数試合勝ち上がるためには体力を温存するために短期決着を付ける必要がある、という理由があるためと推察される。
 私は柔術の本質は「セルフディフェンス」「サバイブ」にあると考えているため、公式試合に勝つためだけの技術を習得することには反対である。自分がストリートで喧嘩に巻き込まれた場合を想定して見るといい。自分からアスファルトの上に寝転がって50/50に入れるだろうか、足関節を極める前に相手の踵が上から降って来るだろう。自分が上を取ったらなぜパスして制圧しないのか、運よく上を取れたならば、反撃を受けないために相手をまずは抑え込む(多人数が相手なら逃げる)事が先決だろう。
 ちょっとした想像力を働かせれば、足関節が「セルフディフェンス」「サバイブ」に向いてない事くらい誰でも分かると思う。また、自分も足関節で怪我をさせられた経験から言っても、足関節による怪我は上半身のそれと比べて日常生活に支障をきたすレベルの大きな怪我になりやすい。長く継続して稽古を続けるためには、目先の勝ち負けよりも「相手に怪我をさせない」「自分が怪我をしない」事が大事だと思っているので、あえてそういうリスクを冒してまで足関節を覚える必要はないというのが私の意見である。
 
注1)https://www.renshinkan-kanoya.com/2016/02/%e4%ba%ba%e4%bd%93%e6%80%a5%e6%89%80%e4%bd%8d%e7%bd%ae%e5%9b%b3/から引用させて頂いた。

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藤田 正和
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