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英検

1 ウチの道場は、コロナ前後で大きくメンバーが入れ替わった。

 規模だけを見れば、相変わらず小さな町道場に過ぎないが、この1年で外国籍の会員さんが目立って増えている。

 出身国を見ても、北米やヨーロッパ、東アジアに東南アジアと、随分と国際色豊かになったと思う。

 彼ら外国籍の会員さん達に共通しているのは、それが母国語であろうとなかろうと、皆英語を話すという事である。

 日本に定住している時点で、彼らは既に親日家であり、日本語もある程度話せる人がほとんどなのだが、外国籍の会員さん同士でのやり取りは英語で行われている。

 グローバル化の功罪は別にして、やはり英語というのは世界の標準語なのだと、日本に居ながらにして感じさせられる。

2 中学高校時代の私はとにかく英語の勉強が嫌いだった。

 今の日本の英語教育がどのような形で行われているのか知らないが、中学高校における学校教育は、本質的に大学での講義・研究に付いていけるだけの学力を養う事を目的としてなされているため、英語の授業も煎じ詰めれば大学受験のためにあったと言えるだろう。

 私が子供の頃は、今日ほど気軽に誰でも海外旅行に行けたわけでもないし、街で外国人と会う機会もほとんどなかった(私が田舎育ちというのもあるかもしれないが・・・)。

 したがって、当時の私が大学受験に英語の習得が不可欠であることを頭では理解していても、生来暗記作業が苦手なので、大学受験のためだけに英語を学ぶ気になれなかったのも仕方がないと言えよう。

 これまでに何度も書いた話の繰り返しで読者の方には申し訳ないのだが、私がブラジリアン柔術の稽古を始めた当時、「どうすれば柔術が上手くなるのか?」という点について、誰も何も教えてくれなかった。

 誰も何も教えてくれないから、自分で何とかするしかなく、各種教則を視聴するようになったのだが、B・ファリアを始めとする(英語が)ノン・ネィティブの人々の話す英語は、私と同様「カタカタ英語」なので、なんとか意味が通じるが、ジョン・ダナハーに至っては、(彼が)「何を言っているのか?皆目見当が付かない」。

 それでも、視聴を止めなかったのは、「何とかして、柔術が上手くなるための方法論を知りたい」という切実な欲求があったからだろう。

 今では、道場に来る外国籍の会員さんと「カタカナ英語」を駆使して、意思疎通に不自由を感じないレベルにはなった。

 机に向かって200時間以上、ダナハーと無言の対話を続けた価値はあったようである。

 そうした私の体験を踏まえて考えるならば、語学の習得は、やはりそれを必要とする差し迫った動機付け(分かりやすい例としては、留学や海外赴任が挙げられる)がなければ難しいのかもしれない。

3 そういう事を思っていたら、ある日本人の会員さんが「今度英検を受けようと思うのですが、どうしたらいいでしょうか?」と尋ねてきた。

 なんでも、私が外国籍の会員さんと英語でコミュニケーションを取っている(ように見える)のが羨ましいと思ったからだそうである。

 素晴らしい話だと思った。

 アリストテレスの言を引くまでもなく、人間は「社会的動物」である。

 人間が社会を構築する上で、不可欠なのが相互のコミュニケーションであり、そのためのツールが言語である。

 日本社会がいわゆる「日本人」(沖縄やアイヌの人も含む)だけで構成されているならば、日本語さえ話せれば十分だが、今後ますます海外からの人口流入が増えるのは確実なので、彼等と共同で日本社会を構築するためには、彼等とのコミュニケーションを可能にする言語の習得がどうしても必要になってくる。

 海外から日本にやってくる人々に日本語の習得を義務付け、それが出来ない限り受け入れを拒否するという考え方は、日本語習得の難度とそれに要する時間(彼らが日本社会に同化するには、さらにそれ以上の年月が必要になる)を無視した暴論と言っていいだろう。

 彼等と「共同で」日本社会を構築しようと本気で思うならば、彼等と我々が「共通に知っている」英語でのコミュニケーションを図る可能性を考えた方がいい。
 幸いにして、我々の英語力は、高校までのレベルで十分意思疎通が可能であり、後は実践あるのみだ。

 何も日本人全員が「英語」を話せるようになる必要はない。

 あるコミュニティ(=共同体。BJJの道場もそのひとつである)に、日本語しか話せない「日本人」と、日本語が話せない外国籍の人々との間の「コミュニケーション」を橋渡しできる人が一人でもいれば十分である。

 その一人に、たまたま自分がなり、それに続こうという人が現れた経験から、人間が社会を構築する上で、コミュニケーションが不可欠だという事を頭ではなく、身体で実感した、という話を記事にまとめてみた次第である。

 

 

 

 
 
 

 

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