飛んできた種とお隣の魔女の日。
2023.3.17
思いがけない《贈りもの》。
それは、庭に、
ときどき、やってくる。
例えば、昨年の4月。
まだ、父が病院にいて
すこしでも、カラダの機能が
回復してほしい、と願っていた頃、
庭で、植えた覚えの無い、
ちいさな白い花に出会った。
なんの花かしら?
と、Twitterで呟いてみると、
翁草の白、では?
と教えてくださる方がいた。
さらに、これは、
賢治(宮沢)さんの《オキナグサ》ですよ
と、言ってくださる方も。
わあ、これが、
賢治さんの、うずのしゅげ?
と、わたしはとても嬉しくなり、
ようこそ、庭へ、
どうやってここに来たの?
飛んできたの?
と、その白い花の種の旅に
ひととき、思いを馳せた。
あとから、
写真などを見比べて
調べてみると、
庭に来てくれたのは
日本オキナグサではなく、
《白花西洋オキナグサ》である
と、わかった。
『たぶん、
賢治さんのうずのしゅげは
日本オキナグサさんね、
でも、わたしは、あなたを
しゅげさん、と呼ぶことにするわ
いいかしら?』
そう話しかけてみると、
しゅげさんは、繊細な《髭》を
ふる、と震わせて、
うなずいてくれた気が、した。
さて、今年も、
しゅげさんは咲いてくれた。
しかも、15センチくらい
はなれたところに、種を飛ばし
もうひとり、仲間を増やした。
しゅげさん、と一才違いの
若いしゅげさん。
ちいさな蕾をつけている。
わたしは、再び、
『ようこそ』と言った。
🌿
思いがけない贈りものは、
今年の春にも来た。
兆しに気づいたのは、去年の初冬。
新しく土を耕し、
植えたジギタリスと
もともとあった秋明菊の間に、
菊に似た葉を持つ、
ちいさな苗を見つけ、
あれ?なんだろう?
こんなところに何か植えたっけ?
と、訝しみなら、
抜かずにいた。
すると、春。
それは、こんもりと育ち、
わたしに、
『あなたは、蓬さん、ね』
と、言わせる、
かたちと匂いを持って
にこにこしていた。
さっそく、愛読書の
ベニシアさんの本をひらき、
蓬、について、調べる。
そうか、蓬も薬草(ハーブ)なんだ
と、改めて認識する。
あたりまえすぎるほど
身近にある雑草のように思っていた。
わたしは、蓬というと、
源氏物語の末摘花の巻を思い出す。
誰も訪ねて来ない、
朝日も夕日も遮る《蓬葎》の
末摘花の住まい。
平安のころから、蓬は
《あたりまえに生えて》いた。
そして、今なお
草餅や蓬茶、蓬風呂や足湯など
わたしたちは、あたりまえに
いろや香り、血行促進などの
その薬効にも親しんでいる。
そういえば、お灸のモグサも
蓬、だ。
わたしは嬉しくなった。
🌿
お隣のマダムが、
庭仕事をしに、
表へ出てこられたので、
蓬のことを伝えてみた。
わあ、見せてくださる?
と、マダムは
わたしの荒れ果てた庭に来て
ひと目、見て、
『蓬よ』と太鼓判を押してくださった。
それから、マダムは庭を見渡し、
一度、ご自分の庭へ戻ってから、
ハーブ菫など、宿根草を籠に入れ、
届けてくださった。
うれしくて飛びあがる。
(マダムは薔薇を
60種も育て、その一方で
蓬や明日葉、蕗の薹、茗荷、紫蘇、
ハーブいろいろ、を
豊かに育てている。
そんな魔女のような方が、
お隣にいる不思議よ)
雨が降りそうな空模様のなか、
さっそく、ハーブ菫を植えてみた。
それから、青い星型の花が咲く
ハナニラも、他のふたつの苗も植えた。
(マダムは、わたしの庭から
こぼれ種から育った矢車草を、
みっつ、もらってくださった。
こういうのがうれしい。
たくさんあるものを分け合う
って、これからの社会では
ふたたび、大切なことになる、と
感じるから。
誰かが持ちすぎたり、
誰かが奪われすぎたり、
しない世を、わたしは望んでいるから)
🌿
午後からは、予報通り
雨となった。
マダムからの苗をすべて
植え終えたあとだったので
恵みの雨、だ。
蓬の下葉が
雨で濡れた土で
汚れないうちに摘んで、
朝、晴れているうちに
剪定したローズマリーと
一緒に袋に入れて
お風呂に浮かべた。
雨の音を聴きながら
日暮れ、ゆっくりと
54年休みなく生きてきたカラダを
湯に沈める。
マダムに、
『庭のこと、
わからないことだらけで
独りだし…』
と、打ち明けると
『大丈夫よ、
一生懸命にしたことは
かならず、
応えてくれるから』
と、力強く言ってくださった。
亡くなったご主人が
植えられた花や
買ってくださった鉢を
大切にたいせつに
されているマダム。
励まされる。
明日も庭しごとをしよう。
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