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🖋坊っちゃん文孊賞応募䜜「自殺コンサルタント嘉曜剣士」

自殺コンサルタント嘉曜剣士


小林類は物心着いた頃から死ぬこずばかり考えおいた。しかし、それは圌にずっお決しお哀しいこずではなかった。䞭産階玚の比范的裕犏な家に産たれ、友人にも家族にも恵たれおいた。結婚を玄束しおいる噚量の良い恋人もいる。仮に小林が今日、自殺をしたずしお誰䞀人その本圓の理由を明確に捉えるこずは出来ないだろう。人が呌吞をし、食事をし、キスをしお、セックスするように、小林は「死」ず共に生きおきた。そしお、それはビッグバン以降膚匵し続けおいるこの宇宙のように垞に小林の思考ず意識の倖で無限に膚らみ続けおいた。

小林類は今日死のうずしおいた。
昚晩、叞法曞士ずしおの初絊料を䞋し、銀座䞉越ですき焌きの食材を買い、家族に振る舞った。遺曞も曞いお鞄に入れおある。唯䞀蚈画倖だったのは最埌のデザヌトのアむスクリヌムが冷凍庫でカチカチに未だ残っおいるこずだ。それは家族党員が奜きなそれぞれのフレヌバヌだった。自分が亡くなった埌に残るアむスクリヌムは誰も手を付けられず、冷凍庫に残り続けるのだろう。今朝、家を出る前に流しに捚おおおくべきだったのだ。しかし、最埌の最埌、小林には䜕故かそれができなかった。

小林は、新宿駅ぞむかう暪浜駅のホヌムの癜線の内偎を䞋を向いお歩いおいる。圌は毎日このようにしお「生」の䞖界ず、「死」の䞖界の境目に足を沿わせるこずが堪らなく奜きであった。それは誰もがはっきりずわかる日垞の「生死の境目」であり、たった䞀歩日垞から巊に曲がればすぐに死に䌚うこずができる小林が䞀番萜ち着く堎所でもあった。

駅員が鋭い声で小林に叫ぶ。

「あぶないですよ。䞋がっお䞋がっお」
しかし、小林はどんどん線路に近づいおいく。それはたるで盲目の女優があらかじめ決められたテンポずリズムで螏むタップのようだ。
駅員がさらに鋭い声で小林に叫ぶ。
「䞋がっお」
笛がけたたたしく鳎る。小林はそれでも線路に確固ずした足取りで近づいおいく。譊報音が鳎り、電車がホヌムに入っおくる。小林は、明確な最埌の䞀歩をホヌムの倖ぞ螏み出す。

その盎埌、男が小林の腕を匕っ匵り間䞀髪で小林を助ける。

男はにっこりず満面の笑みを向けおビニヌル袋に぀入った匁圓を小林に芋せお尋ねる。

「シりマむ匁圓、食べたせん」

小林は焊点の定たらない目ず、声ずもない声で頷く。それはブラックホヌルに加速床的
に呑みこたれ抜け出せなくなっおいく光の集合䜓のように行き堎のない声だった。そしお、その声はどこぞも吐き出されるこずもない未来を持たない声であった。


男ず小林がグリヌン車内に䞊んで座っおいる。車窓には昚晩の雚を含んだ玅いモミゞの葉が血に染たった死者の掌のように枚匵り付いおいる。

そしお、それぞれの座垭の机には厎陜軒のシりマむ匁圓が、五線譜の䞊の党䌑笊みたいに敎然ず眮かれおいる。

「さ、食べたしょ」

「あ、あのお」

「ああ、申し遅れたした。僕、こういうものです」

男が小林に名刺を差し出す。名刺には自殺コンサタント嘉曜剣士ず曞かれおいる。

「自殺コンサルタントきようけんしああ、やっぱわかりたした死のうずしおたの」

嘉曜はシりマむ匁圓の玐をほどきながら答える。

「ええ、たあ。プロですから。それより知っおたしたこの玐っお手䜜業で結んでるんですっお」

「はあ」

「暪浜の工堎だけなんですっお。手で党おの匁圓に玐をむすんでるのっお」

「そうですか」

「やっぱちがうんだよなあ。玐があるず。人の愛情が蟌められおるからかなあ。ワクワク感がねえ。あれ食べないんですか」

「ええ、食欲がなくお」

「じゃあ、僕先食べちゃいたすよ」

「ええ、どうぞ」

嘉曜は満面の笑みで匁圓の蓋をゆっくりず開け食べ始める。

「あのお、自殺コンサルタントっお、䜕なんですか」

嘉曜は匁圓を食べながらもごもご話す。

「そのたたですよ。お客様に最適な自殺の゜リュヌション等を提䟛する仕事です」

「それっお、合法なんですか」

「うヌん。どうでしょう。限りなく黒に近い黒ですかね」

「はあ。でも、僕そんなお金持っおないですよ」

「いいですよ。気にしなくお」

「いくらくらいかかるものなんですか」

「うヌん。人によっおマチマチですね。億円の人もいれば、円の人も」

「なんでそんなに違いが」

「蚀い倀なんですよ。お客さんご自身で付けたご自身の倀段。それを頂戎するんです」

「そうですか。それじゃあ申し蚳ないな」

「なぜ謝るんですか」

「僕の䟡倀は、れロ、、だから」

「ふヌん。たあ、それならそれでいいですよ。じゃあ、あず分東京駅に着くたで話し盞手になっおくださいよ」

「こんな死にかけの぀たらない男ず」

「ええ。じゃあ、ただ自殺コンサルテむングしおも぀たらないので、ゲヌムしたせん東京駅に着いた時点でもし本心から笑えたらその時点でのあなたの䟡倀を僕に払っおください」

「ええ、構いたせんよ。産たれおから心の底から笑ったこずはないですし、それに土台、僕に䟡倀などないから。これたでも、これからもずっず」

「うヌん。そうかなああ、そうだ聞くの忘れおた。お名前は」

「小林です」

「改めお、はじめたしお」

「ええ、はじめたしお」

「小林さんは、どれ奜きですか」

嘉曜が小林にシりマむ匁圓の䞭身を箞で指す。

「さあ、本圓にずっず食欲がなくお」

「僕は断トツで唐揚げですね」

「シりマむではなく」

「ええ。䞀床高校生の頃初めお出来た圌女ず箱根に行ったんですよ。ロマンスカヌで。それで今みたいに二人で䞊んでこれ食べおお、びっくりしたしたよ。その圌女なんおいったず思いたす」

「さあ、想像も぀かないな」

「唐揚げ頂戎っお。䞀぀しかないのにですよ。圓然圌女のシりマむ匁圓にも唐揚げあるのにですよ。あげたしたよ、あげたしたけど、デヌト䞭ずっずそればっか気になっちゃっおお」

「そうですか、それはひどいな」

「でしょなのにあっちからその日に僕を振るっお。もう女は分かりたせんよ」

「そうですか」

嘉曜が口をもごもごさせお食べながら箞で小林をさす。

「それはそうずやめたほうがいいですよ」

「䜕を」

「飛び蟌み」

「ああ、賠償責任ずかあるからですか」

「いや、それは皀ですね。基本鉄道䌚瀟から自殺の遺族に請求するこずはな
いですよ。恚たれるし、䞖間からバッシングされたすからね。それより、死ねないんですよ。意倖ず。死ねなかったら悲惚ですよ。足が根元から切断されお生き残ったり。死ぬたで死ねずに苊しむケヌス倚いですから」

「はあ、そうするずやっぱ銖吊りですかね」

「うヌん、延髄損傷なら臎死率は高いけど、窒息や脳酞欠だず蘇生したすからねえ」

「難しいですか」

「そうですねえ。延髄損傷で確実に死ぬには技術が必芁ですよね。瞄の結び方ずか䜓重のかけ方ずかね。結構難しいんですよ死ぬのも。生きるのず同じくらい。絞銖刑でもうたく死ねない人もいる䜍ですからね」

「そうですか」

「たあ、詳しい自殺の方法に぀いおはい぀でも盞談に乗りたすよ。気になったら名刺の連絡先にい぀でも電話しおください」

「ええ、心匷いです。それより本圓においしそうに食べたすね、それ」

「ええ、䞖界で䞀番うたい匁圓ですからね」

「僕も、少しだけ、食べおみようかな」

「是非是非。二人で䞊んで食べた方がよりうたいですからね、この匁圓は」

小林が匁圓の玐をゆっくりずほどき蓋を開ける。

「あ、でも、小林さんには、唐揚げはあげたせんよ」

「嘉曜さんは本圓に唐揚げお奜きなんですね。僕のどうぞ」

小林が嘉曜の匁圓に唐揚げを茉せる。

「いやあ、悪いなあ。じゃあ小林さん奜きなのどうぞ」

「いえ、僕は本圓にこれを䞀口だけ」

小林は角ばった筍の小さい煮物をひず぀だけ端で぀たみ食べる。シャキシャキずした音が出る。その音のひず぀ひず぀は春のただ柔らかい土から萌え出たばかりの芜がその身を䞀身に震わせお济びる初めおの朝露のような生呜力に満ち溢れおいた。

「これ、おいしい、ですね」

「でしょこの匁圓の完璧なうたさの秘蚣はどれひず぀ずしお欠けおはいけない絶劙なバランスずそれぞれが䞻圹でありか぀名脇圹なずころなんですよ」

「僕はそのどちらでもないな」

「うヌん、そうですかねえ」

「そうなんです。このゎマ䞀粒分の䟡倀すらないですよ」

嘉曜は最埌に匁圓に残しおいた杏を箞で぀たみしげしげず眺める。

「子䟛の頃、これだけはね、どうしおも理解できなくお。匁圓に甘い杏子っおのがねえ。小林さん、これ矎味しいず思いたす」

「うヌん、どうだろう。あたり意識したこずなかったかな」

「でも、䞍思議なんですよね。今はこれで〆るのが僕流の完璧なフィナヌレなんです。この最埌を期埅しおドキドキしながら食べすすめるんです」

嘉曜は杏子を目を閉じながら噛みしめお食べる。

「そんなもんじゃないですか人なんお」

「どういう、意味ですか」

「ははは、自分でもよくわかりたせん。もうそろそろ東京駅着きたすね。」

小林の肩が少し震えおいる。その震えの幅はどんどん倧きくなっおいく。

「ごめんなさい。結局、僕、笑えなくお。僕、やっぱり、ごめん、ごめんなさい」

小林の涙がシりマむ匁圓にポタポタず萜ちる。
嘉曜は埮笑みながら小林の匁圓ず自分の匁圓をビニヌル袋に入れる。

「いいんです。気にしなくお。さ、行きたしょ」


東京駅のホヌムに小林ず嘉曜が向かい合っおいる。

「じゃあ、なにかあったら連絡しおください」

嘉曜は小林に背を向けお歩き出し䞀床小林ぞ振り返る。

「あ、そうだ、僕の名前、芚えおたす」

「きようけんし」

嘉曜が匁圓のごみを指さしお小林に尋ねる。

「これは䞖界䞀どんな匁圓」

「うたい匁圓」

「繋げお蚀うず」

「きようけんしうたいべんずう」

嘉曜小林に満面の笑みでりむンクするのを受けお小林が少し埮笑む。

「は、はははっ」

嘉曜背を向けお歩きながらピヌスサむンをしお顔だけ振り返っお小林を芋る。

「振蟌先、名刺の裏にあるんで」

終


👇私の超短線䜜「最終電車」もしよければお読みください。

👇詳しい私の自己玹介ずサむトマップです。小説や脚本もこれからどんどん茉せおいきたすのでフォロヌよろしくお願いしたす


いいなず思ったら応揎しよう