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22【硬派純情編】 スタート

中学校の入学式、新しい環境に胸を高鳴らせ、と言いたいところだが、
お母さんに髪をジャキジャキに切られた後だったので憂鬱で、
とてもそんな気になれなかった。

式が終わり、新しいクラスに入る。
私は少し緊張しながら廊下側の窓際の席に着いた。

このクラスの担任は、結城美沙恵という新任の先生。

先の方にパーマがかかった長い髪と、八重歯が印象的な可愛らしい感じの先生。


先生が話をしていると、突然、私のすぐそばの窓がガチャガチャと音を立てた。

「外れへんかったっけ、ここ」

「外れる、外れる」と声が聞こえる。

数人の人影が窓越しに見えた。

どうやら廊下側から窓の鍵を外して開けようとしているようだ。


半円形の金具がガチャガチャ音をたてながら徐々に動いてきた。

「外れそう、外れそう」

みんなが窓に注目していると、あっという間に鍵が外れた。

バーンと窓が開くと、そこにいたのは怖そうなお姉さんたちだった。

「タカチョンの妹どこー」と大きな声が教室に響いた。


「あんたら何してんの!」と先生が入り口の戸の鍵を開け、廊下お姉さんたちに近づいた。

その瞬間、先生がバチコーンって叩かれた。

「うっさい! 黙っとけ!」

驚愕の光景に教室中が凍り付いた。

驚きに固まっている先生を尻目に、お姉さんたちが開いた入口からゾロゾロと入ってくる。

「なー、タカチョンの妹どこー」


私のことだ……。

うちの二番目のお兄ちゃんが「タカチョン」と呼ばれていたし、怖いヤンキーのお姉さんたちの中に見覚えのある人がいる。


私は「どうする、もう言うしかないやんな」と思い、
下を向きながらそうっと手を挙げた。

「おいでおいで」

呼ばれたので、仕方なく教壇のところに行った。


「この子、私らの妹分やし、よろしく」
(いや違う違う)



入学式のその日のうちに、私は校長室に呼ばれた。

いきなり何だろう思いながら行くと、校長先生に言われたのは、
「三年間おとなしく生活するように」ということだった。


全然そんなつもりはなかったのだけれど。

「そうか、そっちに行かないといけないんやな」と、その時に思った。

それがスタートだった。


それから半年、ほとんどの人が私と口を聞いてくれなかった。
関わりたくないと思ったのだろう。
まああれを見たらそう思うだろう。


そんな私と喋ってくれたのが祥子とサオとイッコ。


祥子は、人見知りでボソボソと喋る感じで、根暗そうなやつだなと思ったが仲良くなると面白い子。
頭が良くて字も綺麗で、あだち充の漫画に出てきそうな髪型(長い方の)で顔は内田有紀っぽい感じだが、いつも怒りを内に秘めている。

かーくんというあだ名の佳苗は、スッゴイ頭は良くてとにかく「好奇心のかたまり」という感じ。
とにかく楽しいことが大好き、楽しいことなら何でもするみたいな、何でもかじってみたいっていうような子。

イッコは小学校のときからちょっと知っていて、小学校のときは悪い軍団に居たみたいな子だったが、彼女はたまにヤンキーにいじめられたりしたので私と一緒に居た。


あの三年生の怖いヤンキーのお姉さんたちは、お兄ちゃんの友達とか後輩の妹たちで、ちょうど同じ学年に揃っていたようだ。

彼女たちに目をかけられるようになって、面白くなかったのが一個上のの先輩たち。

その人たちは一生懸命積み上げて、そのお姉さんたちに気に入られようとしてずっと頑張ってきたのに、なんかスッ飛ばして私をかわいがり始めたから、一個上のお姉さんたちに睨まれてそれはそれは大変だった。

そして、それについていこうと思っていた同い年のヤンキーの人たちにも睨まれた。

その後、そんな関係を見て先生たちが考えた対策は、
同い年のヤンキーたちは絶対に私と同じクラスにしないで廊下の端と端に置き、
トイレを一つずつ与えるというものだった。

なぜだろう、この年代はどうしてトイレに溜まるのだろう。
(まあタバコを吸うっていうのはあったけど)


入学式の日のあの出来事がなかったなら、もう少し人生が違ったのかなと思う。

もうレールがバーンと敷かれてしまった感じだった。


その当時の私の愛読書は、本宮ひろ志の「硬派銀次郎」だった。

銀ちゃんが大好きで、もう大好きすぎて、だから硬派で行くことにした。

(武器は使ってはいけない、ステゴロだっつって)
※ステゴロ 素手で喧嘩すること


つづく

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