見出し画像

モーツァルトのレクイエムを歌う 7

ゲネプロが終わると、休憩となる。次の集合時間まで小一時間あるので、私は敷地内の美術館のカフェまで自転車を走らせ、そこでコーヒーを頼んでリラックスしながら休憩する。せっかくなら休みのときは一人でできるだけのんびりしたい。今回の合唱団にはソロ参加だったので、知り合いも特にはいない。

5時から本番だが、4時10分に合唱団は集合する。そこで体をほぐした上で軽く声を出し、合唱指揮者による最後のダメ出しを聞く。そしてこの期に及んでまだ練習する。
練習の時から何度も注意され、ゲネプロの時は期せずして(だと思うが)、マエストロが眉をひそめた、ソプラノパートが苦手とする高音かつ音量の小さい箇所では、どうしても音が下がりやすくなる。そこを何箇所か、声を出しながら練習した。果たして本番の一発勝負で上手くいくだろうか?
最後の確認が終わると、また待機場所の舞台で並んで、軍隊みたいにそのまま行進して本番会場袖へ移動する。本番10分前に舞台袖に到着する。いよいよ本番だ。

5時になるとお客さんも概ね入場を終え、開演ベルが鳴って合唱団の入場が始まる。私は全6列のうち、後ろから2列目だったので、割と早めに入場する。だから舞台に上がってからも、しばらく時間があった。客席を見て、お招きしたお客さんがいらしているか確認する。客席の照明もまだ落ちていなかったので、何人かのお客さんのお顔は確認できた。全然緊張しなかったが、歌は人間が楽器なので、緊張しては良い声が出ない。

オケも位置につき、ソリストとマエストロが舞台に上がると、いよいよ本番だ。ゲネプロまでとは空気が違う。しかし、本番に照準を合わせたのが功を奏して、私も気持ちが入って声もよく出る。マエストロも気持ちが入っているのがよくわかり、余韻を残したほうがいいところは、曲と曲の合間なども充分余韻を残し、ゲネプロまでと、ところどころ振り方が変わっている。それを見て、ああ、演奏はうまくいっているんだな、と私は満足した。

割と長い時間をかけて練習してきたのに、本番はあっという間に終わり、終演の時を迎える。ここでようやく合唱指揮者も舞台上に上がって、客席に向かって挨拶する。合唱が本当にお世話になったのは、この合唱指揮者たちだ(実は合唱練習の際のピアノ伴奏者、という、より一層地味なスタッフもいるのだが、さすがにそこまではスポットライトが当たらなかった)。

コロナのさなかには、本番でコロナにかかり、出場できなかった仲間を何人も見てきた。でも今回だって何らかの事情で本番を欠席しなくてはならなかった人もいるのだろう。私は自分がなんとか無事本番を迎えられたことに、拍手を受けながら感謝する。私だって本番3週間前に風邪で喉をやられたのだ。本番に穴を空けるのが他人事とは思えない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?