穏やかでないから面白い
穏やかに一日が終わることはまずない。
事務室の電話が鳴り、受話器をとる。
相手は入院中の利用者さんだった。
退屈なんだと思う。頻繁にかけて来られる。
任意入院され、数ヶ月。すでに落ち着いておられる状態。退院しても、数ヶ月すると落ち着きがなくなって、自ら入院される。ずっと入退院を繰り返されている。
今は、同居するきょうだいが、自分の仕事を理由に退院を先伸ばしにされているのかもしれない。
不安がピークになると、救急車を自分で呼ばれる。自宅でも、事業所内で軽作業をしている時でもお構いなし。目に見えない不安が彼を飲み込まないように、見守っていたところだったが、今回も結局入院になった。入院すると一旦は安心して眠れ、居心地が良いらしい。
「明日は診察。退院できるか、先生と相談するね。退院したら、また行くねー。」
大体いつも同じ内容。声はいつも明るい。人懐っこい笑顔を思い出す。
こちらも気さくに話しかける。お話が楽しい方なのだ。
突然、「庭さんのことがすきだ。」と言い出されて、え?となった。
あっけにとられていると「電話番号教えてー。」と聞かれた。
気を取り直して「用がある時は事務室にかけてね。いつでもお話聞くから。」と返事する。
相手の声音が思い詰めた感じで、少し怖かったが、それは一瞬のことだった。
利用者さんはあっけらかんと「ダンナさんいるもんね。そりゃダメだよね。」と言い、電話が途中で切れてしまった。
隣席のスタッフに事情を話す。
再度電話がかかってきて、隣席のスタッフに出てもらった。この人は淡々と返事されるので、「はい、はい」と何度か返事したあと、電話は終わってしまった。
特に用もないようだった。
私が再度出ていたら、状況はややこしくなっていたかも?一体どんな気持ちで告白してくれたんだろう。勢いかなー?
嫌じゃないけど、これから、いろいろ気をつけないとなー、と思った。
勤めはじめた頃、時間関係なく話したい時にかけてこられる方もいるから、個人電話は教えない方がいいよ、と他のスタッフから教えてもらった。
実際、気軽に番号を教えたスタッフは、睡眠中であろうと休日であろうと関係なくかかってくるそうだ。
親身になって最初は応対出来ても、私の場合、長続きはしないだろう。
電話に出てあげたい気持ちと、なんでこんな時にかけてくるんだ!、という怒りの狭間で苦悩しそうだ。
だったら、最初から教えない強固な態度でいきたい。なんかキツイ人だな、って思われても。
今度、あの利用者さんから電話がかかってきても、普段通り明るく応対しよう。
隣のスタッフを見習って、だらだら話すのはしばらく封印。
穏やかに一日が終わらない。面白い仕事だなぁと思う。