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【日本語学】「エネルギー」と「エナジー」 二重語としての関係

はじめに


外来語が氾濫している!という言説を目にしたことはないだろうか。

 (私も以前、noteでそんな記事を書いた)

取引先の人がカタカナ語ばかり使ってわかりにくい!という話もよく耳にするかもしれない。
エビデンス」「ダイバーシティ」「ソーシャルディスタンス」などなど外来語は日本において近年さらに勢いを増しているように感じる。

カタカナ語(≒外来語)を多用するとして有名になった人物

今回は、そんな外来語の中から「エネルギー」と「エナジー」に着目して深堀りしたい。

外来語とは

外来語とは一般的に、スピードエネルギーといった、西洋の言葉から日本語に流入し、主にカタカナで表記される言葉を指す。

なお、厳密な定義は存在せず、外来語かどうか判断が分かれる語も存在する

今やすっかり生活に溶け込んでいる外来語だが、英語由来のことばばかりではない。

最も有名なのは「アルバイト」だろうか。
ドイツ語で仕事・労働を指す" arbeit "が日本に入り、本業や学業のかたわら収入を得る仕事を指すことばとして定着した。


先ほど例として挙げたエネルギーも、ドイツ語" energie "由来のことばである。
一方で近年、エナジー(英語の" energy "由来)ということばも良く使われる。

個人的には、エネルギーは「エネルギー問題」「位置エネルギー」などを連想し、政治経済や物理などの学問で使われる堅いものというイメージがある。
エナジーは「エナジードリンク」「エナジーソリューション」、ゲームアイテムとしての「エナジー」を連想し、キラキラした先進的な印象を受ける。

今回は「エネルギー」と「エナジー」の関係を考えるに当たって、日本語学や言語学で用いる二重語(doublet)という概念を紹介したい。

エネルギーとエナジーは二重語なのか

二重語・多重語とは

簡単に言うと、

 ①同じ語源を持つ
 ②語形と意味が異なる 
 ③併用されている2つのことば

のことである。 (3つ以上になると多重語と呼ばれる)

例を見るとわかりやすい。

  • 英語が語源
    ・ストライクとストライキ(語源:英語のstrike)
    ・トラックとトロッコ(語源:英語のtruck)

  • 異なる外来語が語源
    ・カルタとカルテとカード(語源:ポルトガル語のcarta / ドイツ語のkarte / 英語のcard)
    ・ロマンとロマンス(語源:フランス語のroman / 英語のromance)

なお、狭義の二重語(・多重語)では、異なる外国語が語源であることばは二重語に含めないことも多い

さて、エネルギーとエナジーは広義の二重語に含まれるだろうか。
一つ一つ上記の定義に当てはめて考える。

①同じ語源を持つ
 →語源はそれぞれドイツ語の" energie "・英語の" energy "
②語形と意味が異なる
 →語形は違う  意味は??
③併用されている2つのことば
 →実際にどちらも使われている

次の章からは②の意味の部分に着目して考える。

エネルギーとエナジーの意味の相違

さっそく辞書でエナジーを開くと、エネルギーの見出しに飛ばされる。

エネルギーの方の見出しを見ると、辞書による表現の差異はあるものの、
「(1)物体が仕事をする能力(2)活力・気力」
という意味となっている。

(1)物体が仕事をする能力

まず、(1)の意味で「エネルギー」が使われている例として、位置エネルギー、運動エネルギー、エネルギー事情、再生可能エネルギー、資源エネルギー庁などが挙げられる。
グーグルの検索結果を上からずーっと見ていっても、特に目立った傾向はなく、様々な使われ方をしているのがわかる。

資源エネルギー庁のロゴ

また、「エナジー」が(1)の意味で使われることもある。
東京電力エナジーパートナー(株)、楽天エナジー(株)、パナソニックエナジー(株)、エナジーサポート(株)などであり、いずれも電気やガスを扱う企業である。

東京電力エナジーパートナーのロゴ

その他にも電気やガスを扱う企業の名前として「エナジー」が用いられていることが非常に多かった。

そこで、openworkの企業名検索を使って「エナジー」「エネルギー」それぞれで検索してみると、

  • エナジー:77企業

  • エネルギー:55企業

となり、企業名としてはエネルギーよりもエナジーの方が使われていることがわかった。

「エナジー」という言葉が持つ先進的なイメージによるものだろうか。

これらは全てエネルギー資源としての意味であり、「位置エネルギー」のような物理学で扱うような使い方で「エナジー」が使われている例は見当たらなかった。

まとめると、

「(1)物体が仕事をする能力」において、エネルギー資源を表す場合に「エネルギー」「エナジー」どちらも使われる。企業名としては「エナジー」が優勢か。
物理学的な意味ではもっぱら「エネルギー」が使われている。

(2)活力・気力

次に、「(2)活力・気力」という意味の時に両者がどのように区別して使われているのかを考える。

X(旧Twitter)からエナジーの用例をいくつか集めた。

・エナジードリンク
・エナジーバンパイア(人からやる気やエネルギーを奪う人)
・ミズノエナジー(高反発ソール素材)
・メロンエナジー味(仮面ライダーグミ)
・エナジー(ゲームのアイテム)

調べていて一番感じたのは、「エナジー」単体で使われることが少ないということだ。
一般的に「エナジー○○」や「○○エナジー」といったコロケーション(語の連結)で使われている。
エナジードリンク・エナジーバンパイアなどの英語圏から新たに入って来たことばや、ミズノエナジー・メロンエナジー味などの商品名に多く使われている。

ミズノエナジー 2020年発売 見た目のインパクトがすごい!
仮面ライダーグミ メロンエナジー味 2014年発売

一方で、ゲームにおいて「エナジー」というアイテムが使われている例も目立つ。
近年の人気作だと、Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)、プロ野球スピリッツいったスマホゲームでアイテムとして登場している。枚挙にいとまがないと言ってよいだろう。

「エネルギー」は、「神社で恋愛のエネルギーをいっぱいもらった」などの使い方が多く、「エナジー」の用法に多く見られたよううな、新たな外来語・商品名・ゲームのアイテム類はほとんど見当たらなかった。
(あえて言うならば、30年前からあるポケモンカードのエネルギーカードくらいだろうか)

まとめると、

「(2)活力・気力」の意味では「エネルギー」「エナジー」どちらも使われる。
新たに作られたことばには、「エネルギー」ではなく「エナジー」を用いる傾向がある。


結論

改めて二重語の定義を確認する。②の「意味が異なるか」という部分が焦点になっていた。

①同じ語源を持つ ②語形と意味が異なる ③併用されている2つのことば

そして、両者の使い分けは次のようになる。

  • エネルギー
    ・「(1)物体が仕事をする能力」の意味で使う場合全般
    ・「(2)活力・気力」のうち、の意味で使う場合全般、特に「エネルギー」単体で用いることが多い。

  • エナジー
    ・「(1)物体が仕事をする能力」のうち、特に電気やガスなどエネルギー資源の意味で使う場合
    ・「(2)活力・気力」のうち、新たな外来語・商品名・ゲームのアイテムなどに使う場合


以上より、エネルギーとエナジーは一定程度の使い分けがなされており、広義の二重語と言ってよいだろう。

次回は将来的にエネルギーとエナジーがどのように使われていくのかを考えたい。
エネルギーが死語となる日もそう遠くない。。?



記事を書いた感想

「エナジー」という言葉が持つ、英語的な生き生きとした響きはやはり強い。
自分がもし商品名やキャッチフレーズをつけるなら「エナジー」を使いたい。

エナジージャパニーズ~生き生きとした日本語~

それっぽいかな?笑








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