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2022 年間ベストソング
コロナの猛威もまだ止まることないのような状況。安倍元首相の暗殺事件もニュースを聞いて衝撃が走りました。どちらかというと暗い年だったような1年ですね。ベスト10は相変わらずジャンルレスな感じです。
Mitski / Should've Been Me
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ニューヨークを拠点に活動している日系アメリカ人シンガーソングライター6作目のアルバムからのランクイン。インディー界隈では活躍されているみたいで、何度か名前は聞いてましたが今回初めて作品に触れました。リナ・サワヤマ等もですが、やはり日本にルーツを持つアーティストが頑張ってるのは嬉しいですね。前作がPitchforkとかの音楽誌でアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得したようでしっかり評価されているアーティストみたいです。アメリカというよりはフランスっぽい小粋さというかおしゃれさも感じる楽曲。いい意味でインディーらしさはありつつも、閉鎖的な感じもなくどちらかというと解放感がある。80年代ポップスのようなグッドメロディーに、印象深く耳に残るキャッチーなシンセ音。ギラついたギターも途中出てくるも、一貫してポップ。古き良き時代のメロディセンスが根底にあるので、抜群に聴きやすい。よく聴いてると王道な心地よいリズムがツボを押さえている。
The Weeknd / Out of Time
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かれこれ10年は続けているこのベスト10で最多選出は間違いないThe Weeknd(全くもって本人にとってはどうでもいい)。アメフトのハーフタイムショーでも圧巻のステージを披露し、着実にスーパースターへと駆け上がっていきましたね。結構ありがたいペースで新作をリリースしてくれますが、今作で5枚目になります。まだ実現してないのですが、ダフトパンク(もう叶わないですが)についで、いつかライブを見たいと切望するアーティスト。ランクインしたのは日本のシティポップブームを受けての、楽曲サンプリングに亜蘭知子の「midnight pretenders」を使用して話題になったこの曲。ちょっとマイナーなところのチョイスがいいセンスしてますね。亜蘭さん、、もちろん知りませんでした。煌びやかなイントロと絹に包まれるようなメロディ。こんなとろけるようなトラックに、この人の歌声は驚くほどマッチします。いつも思うのですが、耳に一番聴き心地のいい周波数というか無理に力が入ってないし、入っていてもスルりと入ってくるこの声は何なのでしょうか。そんなボーカルを一番引き立てるサウンドが「Out of Time」のような曲調であると改めて実感。
中村佳穂 / さよならクレール
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「竜とそばかすの姫」の主人公ベル役、劇中歌に抜擢され、いつの間にか一流アーティスト入りを果たされた京都を拠点に活動する女性ミュージシャン。特にプロに愛される歌手というイメージで、J-POPという範疇には収まらないソウル、ジャズなどの要素を天才肌の音楽センスと自由奔放で表情豊かな歌唱力が魅力。前作のアルバム『AINOU』が異常なほど、音楽好き界隈では盛り上がってましたが、新作でもそんなプレッシャーを余裕で跳ねのけるぐらいの仕上がりになってます。
今回選曲したこの曲ですが、恐ろしいぐらいの自由すぎる展開力と音のこだわりが満ち溢れてて正直なんじゃこりゃという驚き。スペーシーでうねるビート、ジャズやHIPHOPで刻まれるような鋭いドラミング。分厚いベース、ストリングス・・・一体どんだけ音入ってるの?ライブではどんな編成でやるんでしょうね。間奏までも息つく暇を与えないこだわり。そんな豪華な音にも一向に負けてないボーカルも凄すぎる。歌詞の中で「探してt-t-take it from me何気ない」みたいなありえない字余りも披露する遊び心も好印象。どうなったらこんな楽曲が生み出されるか見当つかないですが、それをテクニックの押し売りではなくきっちりと歌に成立させるところがきっと本物なんでしょうね。
FKA twigs / papi bones(feat.shygirl)
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常に新しく、実験的で刺激的なサウンドで魅了するFKA twigs。詳しくはよくわかりませんが、新作はミックステープとしてリリースされており、とにかく既存にとらわれたくない彼女のこだわりなんでしょうか。おそらく今まで2,3枚はアルバムをリリースし、どの作品もジャンルにとらわれず、いつも新しくて先鋭的な音楽をやっているアーティストという印象で、リリーズごとに気になる貴重な存在です。父親がジャマイカというルーツも音に反映されている気がします。
パピーの骨(笑)?曲の意味はよくわかりません。featのshygirlも最近よく聞くこれまた音楽通には評価の高いアーティスト。今回選んだ楽曲はアルバム中でもレゲエ色が濃いもの。あーい!とかお笑いコンビ「キツネ」がネタで鳴らしそうなお決まりの効果音が入る、どちらかと言うと個人的には好きではないダンスホールレゲエですが、この人の手に染まるとこんなにカッコよく仕上がってしまうことに脱帽。クラブよりのレゲエにしてはBPM早めのビートに、最新鋭のR&Bサウンドも織り交ぜたようなトラック。色んな曲を聴きすぎると、この曲って誰だっけということが多々ありますが、一聴してFKA twigsだと瞬時にわかるところに太鼓判を押したい。
Louis Cole / Bitches (feat. Sam Gendel)
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アメリカのマルチインストゥルメンタリスト兼シンガーソングライター「ルイス・コール」。プロデューサーとしてサンダーキャットのヒット作にも携わり、自身もドラマー/マルチプレイヤーとしてリリースしヒットを飛ばす、まさに音の魔術師と言わんばかりの才能。この方独自のダンスミュージック的な解釈で、ポップスにも寄せるし、オリジナリティを見事に再現できるアーティスト。最新アルバムのネット記事を見てると、超人と称されていますね。
アルバム自体も最高の出来ですが、中でもサウンド的にブッ刺さった曲がランクイン。ボーカルなしのインストでここまで持ってかれるのも珍しい。2分半の短いトラックではありますが、タイトでダイナミックな超絶ドラミングとえぐいぐらいのブーストしたベース(ギター?)。痺れるようなロッキンビートに、見事にからむサックス。脳内のアドレナリンが覚醒していくようなとんでもないエネルギーに満ちた展開です。これはライブで体験したい。featのSam Gendelさんは途中のサックスでしょうか、メインのベースでしょうか。どっちでもいいですが、とにかくすごい大饗宴。
Maren Morris / Background Music
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アメリカのシンガーソングライターで、カントリーとポップスを融合した音楽性が特徴のマレン・モリス。全くもって情報なしで今年出会ったアーティスト。2016年にグラミー賞で最優秀新人賞を含む4部門にノミネートしたこともあり、結構人気のようですが日本では全然知名度はないですね。どうもここ日本ではカントリーというジャンルが不人気で、アメリカのような広大な国土のある場所でしか流行らないんでしょうか。なぜかアメリカでは根強い人気がある。今年になってようやく、少しよさがわかってきた次第です。以前ならカントリーにまで幅を広げなかったですが、きっとサブスクのおかげでしょう。
この曲を聴いて、生意気にも久々に心に響く洋楽バラードが出たなと感じました。もちろん英語はわかりません。翻訳して歌詞を見ると結構シリアスな内容で、「バックのBGMのようにそっと心に残る人間でありたい。でも私たちはただの人間で、誰もが何かを成し得るものではない」(たぶん勝手な解釈です)みたいなテーマ。ラブソングではないことは確かですね。カントリーというよりは純粋なポップスに近い印象。サビのスライドしていくギターと共に流れていくようなボーカルが心地よく、すごく染みます。ライブの終盤とかに演奏されたら、たまらんことが想像できます。
ヒグチアイ / 悪魔の子
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TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part 2のエンディグテーマにも抜擢された有名曲。それを知ったのは後からですが、ここまでテーマにマッチした納得のできは驚きです。(書き下ろしみたいですね)まだそこまでメジャーではない女性シンガーソングライターですが、この曲で一気に知名度も上がったんでしょう。私もこの曲がお初です。
タイトルからしても強烈な印象ですが、それに負けない楽曲の強さ、響き渡る力強いボーカル。技術とかそういうものを超越した感情が揺さぶられる魂の鼓動というか、感動を呼び起こす表現力。壮大なサウンドに和のテイストも取り入れた尺八の様な音のアレンジがより胸を打ちます。音が止まり「ただただ生きるのは嫌だ」というフレーズでサビに突入する盛り上がりに鳥肌が立ちます。こういう曲こそ日本の代表曲としてグローバルにもっと羽ばたいてほしい。
Melody's Echo Chamber / Personal Message
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雑誌のレビューとかではよく目撃し、インディー界隈で人気もそこそこありそうなフランスのドリーム・ポップ・バンド。誰も知らんですが、私が好きなサイケロックバンドDungenのメンバーや、クラシック、ジャズの素養を備えたマルチ・プレイヤーが楽曲作りに参加しているそうです。いい意味でインディーらしい自由度の高さと、緻密なアレンジ、プロダクションが好きなアーティスト。
イントロのどこかの民謡のようなストリングスと、深い意識の奥に語りかけるような歌声と楽曲の構成。よく聴くと意外と骨太なドラミンングとベースライン、またサイケなギターと実にロックしている。ミスマッチのようでとても相性良く展開するフランス民謡?とサイケデリックロック。この曲はわかりませんが、一部は森の中でレコーディングされたようで、光がゆらめくような幻想的なムードは見事に反映されている。
Kavinsky / Plasma (feat. Morgan Phalen)
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The Weekndとのコラボで以前から気になっていたフランスのエレクトロ・ハウスDJ。肩書きから思い浮かぶのはダフトパンクですが、彼らが引退してしまったので貴重な存在。アルバムとしては9年ぶりの新作のようで、その間はコラボなどでチラチラと仕事はしてたんでしょうが、えらいスローペースですな。
耽美で壮大なエレクトロサウンドが特徴ですが、もはや80年代のハードロック・バラードをオマージュしたかのようなこの楽曲。その時代の曲は実際あまり通過してないのですが、そう感じる程のダイナミックなストリングス、ボーカル、シンセの一斉放出。様々な音がミックスされて判別ができないですが、高次元で繋がっている未知なる遭遇のようなとにかくゴージャスなトラック。
Vaundy / 恋風邪にのせて
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今年はいつの間にかVaundyの年になりましたね。初めて知ったのは何年か前のSpotifyのCMで流れた楽曲で、気になってネットで調べてたどり着いた記憶があります。まさか紅白にまで呼ばれるビッグアーティストになるとは...去年は藤井風、一昨年は米津玄師と男性ソロアーティストが毎年誰かヒットするのは音楽業界としてはいい傾向ですね。この楽曲はABEMA番組の主題歌のようですが、特にそこから入った訳ではなく何となく気になってDLしてました。90年代のトレンディドラマ主題歌のようなメロディとサビ(そのように意識してるのかな)。でもなぜか変にノスタルジーさはなく、おしゃれに今っぽく聞こえるのはVanudyならではのセンス。ゆったりしたミディアムテンポとわかりやすい構成。音楽的な素養のある彼だからこそできる遊び心というか、余裕でこんな売れ線も作れてしまう恐ろしさがこの人の魅力なんですね。