
企業防災のプロ平林滋さんに聞いてみた!企業に求められる防災対策とは?
はじめに
災害大国日本において、企業の防災対策はますます重要性を増しています。しかし、どのように取り組めばよいのか、何から始めるべきなのか、多くの企業が悩んでいるのが現状です。
今回は、長年BCPコンサルタントとして活躍され、防災普及貢献賞も受賞された平林滋さんにお話を伺いました。百五銀行総合研究所での経験を活かし、数多くの企業のBCP策定を支援してきた平林さんに、企業の防災対策の実態と効果的な取り組み方について聞きました。

平林経営支援事務所 事業継続支援コンサルタント
1991年百五銀行入行。支店勤務を経て、1998年百五経済研究所(現 百五総合研究所)へ出向し、長年に渡りコンサルティング業務に尽力。2014年からコンサルティング事業部部長・主席研究員を務め、2023年9月に同行を退職。2024年3月平林経営支援事務所を開設し現在に至る。
2020~2022年 三重県中小企業BCP等策定支援業務 統括責任者 プロジェクトリーダー
2023年 百五総研でBCAOアワード2022「普及貢献賞」を受賞
保有資格:中小企業診断士、防災士など
https://hirabayashi-management-support-office.jimdosite.com/
Q&A
Q1: 平林さん、まず企業の防災対策の現状について教えてください。
A:中小企業のBCP策定率はまだ伸びしろがあります。東日本大震災後のアンケートではBCP策定率は15〜20%程度と出ていましたが、実効性のある取り組みについてはまだ発展途上だと感じています。
また、最近普及が進んでいる「事業継続力強化計画」(簡易版BCP)について見ると、三重県は全国で認定率が一番高いと言われていますが、それでも県内中小企業数に対して約3%程度にとどまっています。多くの企業が防災の重要性は認識しているものの、実際の対策実施にはまだ課題があるようです。
商工会議所などでBCPのセミナーを企画しても、なかなか参加者が集まりにくい傾向があります。近年は、中小企業庁が認定する「事業継続力強化計画」は取り組みやすいよう設計されているため、防災対策の入口として活用されています。
Q2: BCPと防災の違いについて教えてください。
A: 多くの企業が「BCP」を検討する際に実際に必要としているのは「防災」の要素が多いようです。BCPは事業継続計画で、災害発生後にいかに事業を継続・復旧させるかという計画です。どの業務を優先的に復旧させるか、どのくらいの時間で復旧させるかといった目標設定を含みます。
一方、防災は人命や設備を守るための対策です。多くの企業はまず防災対策から始める必要があります。人がいなければ事業継続もできませんから、まずは従業員の安全確保が基本です。
事業継続力強化計画は、事業を継続させる力を養うことを目的としており、BCPよりも取り組みやすいものになっています。これから取り組むという姿勢を示し、段階的に防災力を高めていく入口として有効です。
Q3: 企業が防災対策を始める際、何から取り組むべきでしょうか?
A: 何よりもまず重要なのは経営者の理解と推進力です。経営者から全従業員に対して「当社はBCPに取り組みます」と宣言していただくところからスタートします。
次に、基礎的な情報提供や啓発セミナーを行い、自社が置かれている環境(地震リスク、津波リスクなど)を社員全員で理解することが大切です。また、既存の防災対策を整理して、何ができていて何が足りないのかを把握します。
実際には多くの場合、防災対策からスタートし、徐々にBCPへと発展させていきます。防災対策をしっかり行ってから、簡易的なBCPを作り上げ、その後演習などを通じてブラッシュアップしていくという流れが一般的です。完璧を求めず、まずは全体像を作ることが大切です。
Q4: 企業の防災備蓄について、どのようなものをどれくらい準備すべきでしょうか?
A: 理想的には従業員分の3日分、できれば1週間分の水や食料を準備することが推奨されますが、企業規模や予算に応じて現実的な範囲で準備することが大切です。
特に重要なのはトイレ用品です。災害時、食べ物は我慢できてもトイレは我慢できません。特に都市部の企業や女性従業員が多い職場では、簡易トイレの備蓄は必須です。これは比較的低コストで始められる対策です。
また、備蓄品の賞味期限管理も課題になります。企業向けには、箱ごと一括交換できるような仕組みがあると管理しやすいでしょう。例えば3年単位で箱を組み、期限が来たら箱ごと交換し、まだ使える物は寄付するなどの方法が考えられます。
Q5: 社員の防災意識を高めるためには、どのような取り組みが効果的ですか?
A: 興味深いことに、会社のBCPや防災について話し合うプロジェクトチームを作ると、参加者は自然と自分の家庭の防災についても考えるようになります。
こうした活動を半年から1年続けると、「家族と防災について話し合いました」「家の防災備蓄を整え始めました」という声が自然と上がってくるようになります。このように自然な流れで社員の防災意識が高まるのが理想的です。
また、防災食を実際に食べる機会を設けることも有効です。社内の他のイベントや研修と組み合わせると良いでしょう。例えば、「防災の日」に合わせた訓練と併せて防災食を食べるなどの工夫が考えられます。
Q6: 帰宅困難者対策についてはどのように考えればよいでしょうか?
A: 災害時の帰宅困難者対策は非常に重要です。会社にいるときに災害が起きた場合と、休日や就業時間外に起きた場合で対応が変わってきます。
社員が帰りたいと言った場合の対応には配慮が必要です。現在の危険情報をきちんと提供し、1人ではなくグループで帰るよう促すなどの対応が大切です。
また、社員が会社に残る必要がある場合、その人数を予測して必要な備蓄を用意することも大切です。女性、遠距離通勤者、車通勤者など、さまざまな社員の状況を考慮する必要があります。
Q7: 企業の防災対策は社員のご家族や地域にまで広げるべきでしょうか?
A: 企業の余力に応じて、近隣の施設(特に保育園や幼稚園など)との連携を考えるのは良い取り組みです。例えば、近隣施設の利用者が避難してくる可能性を考慮して備蓄品の数を多めに準備するなどの対応が考えられます。
また、簡易トイレなどは少し多めに備蓄して、必要に応じて地域に提供するという考え方もあります。特に都市部では、水が止まったときのトイレ問題は深刻です。企業が「災害時はトイレを使っていいですよ」と地域に開放するだけでも、大きな安心につながります。
企業の資金や余力を考えて無理のない範囲で行うことが大切です。BCPの観点からは、まずは自社の事業継続のための対策を優先しつつ、可能な範囲で地域貢献も検討するとよいでしょう。
Q8: 平林さんからのメッセージをお願いします。
A: 防災やBCPについて完璧を求めすぎないことが大切です。「どこまでやったらいいのか」と聞かれることが多いのですが、答えは「完璧を求めないこと」です。また「いつ終わりがあるのか」という質問には「終わりはない」とお答えしています。
まずは小さなことからでも始めて、少しずつ改善していくことが重要です。特に防災については、社員の意識向上から始めることで、自然と会社全体のBCPへの取り組みにつながっていきます。
防災は特別なことではなく、日常の中に組み込んでいくことが大切です。防災食や防災グッズはあくまでも手段であり、本当に大切なのは「知識」と「意識」です。これらを高めていくことで、災害に強い企業、そして社会を作っていきましょう。
おわりに
平林さんのお話から、企業の防災対策は「BCP」という大きな枠組みから考えるよりも、まずは基本的な防災対策から始め、段階的に発展させていくことが重要だとわかりました。特に、社員の防災意識を高めることが、結果的に企業全体の災害対応力向上につながるという視点は、多くの企業にとって参考になるでしょう。
災害はいつ起こるかわかりません。今日からでも、できることから少しずつ防災対策を進めていきましょう。
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用語解説
BCP (事業継続計画):Business Continuity Planの略。災害や事故などの緊急事態が発生した際に、事業の中断を最小限に抑え、できるだけ早期に復旧するための計画。単なる防災対策ではなく、重要業務の選定や復旧目標時間の設定なども含む包括的な計画。
事業継続力強化計画:中小企業庁が認定する簡易版BCPのこと。BCPよりもハードルを下げ、防災・減災対策に取り組む意欲を示す「やる気認証」的な位置づけ。認定を受けると税制優遇などの支援措置を受けられる。
防災対策:災害による人的・物的被害を防ぐ、または軽減するための対策。避難計画の策定、防災訓練の実施、防災備蓄品の準備などが含まれる。BCPの前段階として位置づけられることが多い。
帰宅困難者対策:災害時に公共交通機関の停止などにより、従業員が帰宅できなくなった場合の対策。一定期間社内に留まるための備蓄や、安全に帰宅するための情報提供などが含まれる。
ローリングストック:日常的に食べる食品を少し多めに買っておき、消費した分を買い足していくことで、常に一定量の食料を備蓄する方法。賞味期限切れを防ぎ、災害時にも普段食べ慣れた食品を利用できる利点がある。
防災食:長期保存が可能で、災害時に調理なしまたは簡単な調理で食べられる食品。アルファ米、缶詰、レトルト食品などが一般的。近年は味や種類が改良され、日常的にも食べやすい商品が増えている。
簡易トイレ:災害時に水が使えない状況でも使用できるトイレ。凝固剤を使用して排泄物を固めるタイプや、組み立て式の便座などがある。防災備蓄品の中でも特に重要視されている。
防災士:NPO法人日本防災士機構が認証する民間資格。防災に関する知識と技能を持ち、地域や職場の防災リーダーとして活動する人材を育成する制度。
南海トラフ地震:静岡県から九州にかけての南海トラフと呼ばれる海溝で発生すると予測されている大規模地震。今後30年以内に70〜80%の確率で発生するとされ、広域での甚大な被害が懸念されている。
この記事は実際のインタビューをもとに、一部の文章の作成に生成AIを使用しています。