2024年アニメ映画評44・「映画 ギヴン 海へ」
2月に上映した「ギヴン」の後編で、いよいよ完結。前編よりは面白かったかな、って感じで6点。歌は全然、印象に残ってないけれど。
立夏がsyhのサポートに入ったことで、真冬は寂しさを募らせる。立夏はsyhのライブ後に真冬と会うが、そこで彼が音楽から距離を置こうとしていることに気が付き、溝ができる。その後、二人は話し合う機会を持てないまま時間が過ぎる。立夏は、真冬に音楽への情熱を取り戻してもらうと同時に、彼との仲を修復するため柊から託された由紀の曲を完成させようとする。ついに作曲を終えた立夏は真冬に新曲披露ライブのチケットを渡すが、真冬は由紀との別れを思い出し、気後れする。ライブ会場への道すがら真冬は雨月と出会い、彼に手を引かれてライブへ行き、由紀が残した曲を聴く。それで真冬は由紀との過去を清算し、音楽と向き合うことを決める。
映像については、まあ前回と同じで、絶品ってわけではないけれど、悪くないものである。ラストの海のシーンなんかは結構、印象的だった。
粗筋を書き出して思ったが、真冬はなんで由紀との過去を振り切れたんだろう? 作品の描写からすると真冬は、立夏の演奏した曲が由紀の作りかけを完成させたものだと気づいたということになるが、それはなぜなのか、よく分からない。嘗ての真冬は、由紀が鼻歌をしていた曲から「冬のはなし」を作ったが、それと似たものが「海へ」にあったと分かったんだろうか? それが何なのかは、一先ず置いておいて、そのように推測すると、立夏の演奏から、彼が真冬の過去に寄り添い、向き合おうとしたことを真冬が直感したと解釈できる。まあ、真冬は耳がいいらしいから、メロディーか何かから曲の癖を聞き取ったんだろう。一応、2024年10月5日のツイートで、「冬のはなし」と「海へ」の作曲者が両作に同じメロディが採用されていると言っていたから、制作側はそういう意図で作ったと思われる。
それはともかく、真冬・立夏ペアは相当のコミュ障で、毎回毎回、大切なことを言わないためにすれ違っている。最早、お家芸と言っていいほどで成長がない。真冬はキャラ的にそういうことしそに感じるけれど、立夏はそれでいいのか……。作中では一年以上の時間が流れているわけだが、思春期の子らがさほど人間として成長しないのはどやねん。成人すると、一年じゃ、あんま変わらんことが増えるけれども、子供はそうじゃないからねえ。
とはいえ、全く変化がなかったというのも嘘で、実際、この作品は真冬がいかに音楽を受け入れるのか=過去を清算するのかという話であり、由紀の時とは違い、バンド活動が原因で生まれた立夏との溝をキチンと埋めており、それだけでも由紀と付き合っていた時の、自己閉鎖的精神状況からは進歩している。
まあ、ただそれは立夏が真冬に対して適性があっただけとも取れるから、果たして真冬自身の成長なのか? というと少し疑問。色々とケアをしている立夏は成長していることは明瞭に言えそうではあるが。大体、毎度、恋愛絡みで右往左往するのが立夏で、なんやかんや関係維持のコストが彼に偏っているため、フラットな恋愛関係とは正直言い難い。惚れた弱みという奴か。そこら辺も由紀・真冬カップルとは少し違っていて、こちらの方はどちらからともなく好きになったような感じである。二つカップルの結末を見るに、奉仕し、奉仕されの関係の方が恋愛は上手くいくということなのかね。
本作の特徴の一つは音楽がケアに使われている点であり、「のだめカンターピレ」「BECK」「BLUEE GIANT」「ガールズバンドクライ」と大概の作品において、音楽とは自己実現のために希求され、それ自体に価値があるものとされているのに対し、本作の音楽はあくまでも関係性の修復やトラウマのケアという、道具的役割を持っている。特に、由紀との過去と向き合うために真冬が「冬のはなし」を、立夏が「海へ」を作る辺りは、それが明瞭である。「冬のはなし」を作り、「海へ」を聞くことで真冬は由紀との過去を、受容可能な形へと再編成するのである。この在り方に似ている作品と言えば「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」だろう。こちらも人間関係の修復が音楽を介して行われる。ちなみに実用的云々で言えば「ぼっち・ざ・ろっく」も音楽がビジネス的に使われているが、こちらの方はバンドらしさを追い求める姿勢があるから、本作とはやや異なるか。また、「けいおん」や「美男高校地球防衛部」のように音楽が添え物という作品もある。
くだくだしくなったのでまとめると、音楽自体を追求する作品、音楽を人間関係の一要素とする作品、音楽がオマケである作品の三種に分けられるといったところだろう。
にしても、前作以上に春樹と秋彦が空気だったな。真冬をライブ会場に連れて行った雨月の方が目立っていた始末。本当にメインキャラなのか?
あと、話の流れ上、仕方ないけど、もう一曲くらいギヴンに新曲を歌ってほしかった。syhの曲で幕ってのは、締まらんだろうに。