雑記15 最近観たホラー映画14――「ローズマリーの赤ちゃん」「サスペリア」「サスペリアPART2」――

 マタニティー・ブルーとホラーを組み合わせた「ローズマリーの赤ちゃん」はオチが拍子抜けなことを除けばよくできている。8点。作品の肝は最後の最後まで狂気と怪異の区別がつかない曖昧さにあり、恐怖現象を押し並べてスーパーナチュラルのせいにしていた怪談作品とは一線を画す、近代性を持っている。モダンホラーの根幹の一つにこの不明瞭さがあり、合理・非合理双方の解釈を並列させることで後味の悪さと読みの多様さを与えている。本作は妊娠期の精神不安定を利用した、神経症と怪奇現象のどちらともとれる展開となっており、見せ方が巧みである。だが、その揺らぎは徹底されておらず、最後の最後ですべては悪魔のせいだと明かされてしまう。ここでもう一工夫あればよかった。化物の子供を孕むと言えば、以前紹介した産怪の話があるし、悪魔と人間のハーフなら前にも言ったマーリンがいる。そういえば聖書に出てくるネフィリムもそうかもしれない。彼らの父グリゴリは堕天使だから。人とそれ以外の子となると更に例は多い。パシパエはミノタウロスを孕むし、昔話「鬼の子小綱」では娘が鬼の子を妊娠、映画「ザ・ブルード/怒りのメタファー」の母親は怪物のような子供を次々産み、中国の霊犬・槃瓠は人間の女に自身の子を出産させる。変わり種だと『西遊記』の猪八戒がいて、彼は生まれ変わる際に間違えて牝豚の子宮に入ってしまい、結果、豚の妖怪となったのだった。子供の出自や妊娠自体に恐怖を感じるのは古今東西ありふれたことで、人間の出産成功率が他の動物と比べてやたらと低いことが一つの要因だろう。
 「サスペリア」はバレエ学校を舞台にしたダリオ・アルジェントのホラー作品だが、ホラーというよりはクライムやミステリーの方が近い気もする。まあ、いつも通りの顔面破壊がでてきてグロかったし、推理もくそもないからホラーではあるんだろうが。あまり筋がいいとは思わなくて、主人公が何もしなくてもスルスルと犯人までたどり着いた印象である。勝手に情報がもたらされて、最後の最後だけ気を張った感じか。とはいえ、主人公は学生なわけだし、コナンでもない限り捜査なんてするはずないから、別段おかしな所はないのだが。全体的に不穏な空気を上手く醸す筋ではあった。映像は流石というか、多分彼の作品で一番美しい。赤と青を用いた恐怖を煽る色彩設計と言い、音楽と組み合わせた殺害シーンと言い、よくできていると思う。7点。ボスの魔女を殺せば全滅するという、共同体として致命的な欠点をヴィランは持っているわけだが、そのことを説明する際に多頭の蛇が引き合いに出されている。これは恐らくヒュドラを念頭に置いていたと考えられ、この大蛇は数多ある頭の内、一つを除いてすべてが不死で、切るとすぐさま再生するだけでなく、傷口から双頭が生えてくる厄介な怪物である。
 「サスペリアPART2」は2と銘打ってあるから続編かと思いきや、全く関係ないらしい。日本の配給会社が「サスペリア」のヒットに乗っかろうと思って付けたようだが、後年の視聴者からするとややこしいことこの上ない。原題を直訳すると「紅い深淵」となる。この作品はホラーと言えばホラーなのだが(長尺の殺害シーンとそれを恐怖する画が大部分を占めるため)、「サスペリア」同様ミステリーというか、クライム要素が強い。ミスリードが上手く、犯人は意外で、最後のトリックには驚きがある。映画流叙述トリックとしては逸品だろう。ただ、そのトリック一本で攻めた感じが否めず、物語は微妙だ。巧みな画面構成で飽きずに見させるが、展開が強引と思う場面も少なくない。特に幽霊屋敷を調査しに行く箇所は謎だらけで、観ていた時は子供の歌を気にする理由がさっぱり分からなかった。もちろん、今も分かっていない。言ってしまえばマークの勘なのだが、それにしたってもっと理由が欲しい。殺された霊能者がマークに死の淵でテレパシーを送るとか、枕に立つとかじゃダメだったのだろうか。しかし、錯乱して殺した死体を壁に埋めるだの、唐突に変な奴が犯人と分かるだの、どこかポー的だ。

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