刃物みたいなドラマでしたね(ドラマ『17才の帝国』感想)
ずっと見たかった17才の帝国を完走しました。
妙に現実感があって、だけど限りなくフィクションでしかない。その絶妙な世界観が面白い。
亡くなったおばあちゃんのデータを元にAI化した連れ合いと画面越しに会話するおじいちゃんのシーンにはぞわっとしたな。これが続けば現実を否定して空想の世界にしか生きられなくなるんじゃないかってぞわっとした。そういう肌触りのあるシーンもたくさんあって、見ごたえがあるの一言に尽きる。
この先に、こうやって日本が衰退して、AIで若者が政治する、そんな未来が来るかもしれない。今じゃないのに今と地続きにあるような物語。だから色々思うところがあったのかもしれない。
とりあえず現政治家どもこれを見ろ。どれだけ若い人が今の政治に絶望してるか分かるから。このままの政治で未来が良くなるなんて誰も期待してない。それがずっとこの話の下敷きにあった気がする。
いや、本当に。
現状を維持して逃げ切れる世代(だから自分の利権にしがみついて過去の栄光に縋る老体)と、今より生きやすい未来を作りたい若者世代の対立が根本的にあって。そこをどう互いに歩み寄っていくのか、どこまでなら許し合えるのか。それを手探りで探していきながら話が進んでいくのがとてもよかった。
誰もが1人で生きているようで、互いに関係し、変化をもたらしながら生きている。そうすることで、今より良い未来を目指していく。本当にそんな未来が来ればいいなって、人を信じたくなるドラマでした。
刺さる言葉やシーンがいっぱいあった。
幼い頃、誰も助けてくれなかったから、誰かを救うために政治をしていきたいって真木くんのスピーチだとか。
革靴を買ってもらって、誰かに何かを買ってもらったのが久しぶりだってはにかむ真木くんのシーンだとか。
逃げ切れる世代じゃなくて今を生きる若者のために政治をしてるんだっていう雑賀さんの一貫したスタンスだとか。
無邪気に慕っていた人にたった一つのことで許せなくなってしまったサチの幼さだとか。
若者たちの眩しい屋上のバーベキューだとか。
若い人たちが、理想を掲げて頑張る全部のシーンがあんまりにも眩しくて青くて、危ういくらいに未来しか見えてないものだから、政治なんて正解のない世界だけど、こんな子たちが未来を信じられるような幸せな世界であればいいって祈らずにはいられなかった。
だからこそ、現日本総理の腐敗した政治の世界を見るたびに息苦しくなる。あちらが理想で、こちらが現実。そう綺麗に線引きされてるみたいだった。
たぶん、年齢が年齢だから、平さん軸の、現役世代の視線がすごく刺さった。
若者たちの青さと、忙しない現実を生きる中で忘れてしまった理想を語る無邪気さが眩しくて、だけど理想だけで生きていけない世界であることも痛いくらいに思い知ってて。
かつての自分も抱いていたはずの青臭い理想に感化していくのを止められない。板挟みの苦悩がわかって苦しい。
平さんの、青かった時代の自分には戻れないけど、薄汚れた今の自分で戦って生きていくしかないってニュアンスの台詞が一番刺さった。
確かに。納得するしかない。
どう足掻いても今の自分は今の自分にしかなれないんだから、今の自分でこの生きにくい世の中に抗うしかない。
それを突きつけられたとても痛かった。
この話には分かりやすい救世主と敵なんて存在しない。
あの都市に住む人たちにとって、17才の総理は救世主になり得たかもしれないのに信じなかった。
17才の救世主になり得た理想ばかりの子どもは、大人と対話していくなかで少しずつ大人の苦悩を知ってしまったが故に悩んでしまう、ただの人だった。
あの都市を守ってきた現地の古い価値観ばかりの老人たちにとって外敵だった子どもは、真摯に話を聞こうとする子どもを最後まではねつけるほど腐りきってもなかった。
だからこそ、互いの話を真摯に耳を傾け、理解し合おうする姿勢を丁寧に描いていったんだろうな。だから変化していく人たちに説得力があった。
見て、聞いて、理解して、変化する。
その過程をちゃんと描くからこその説得力。
これはたぶん、見る人によって感じるテーマが違うんだろうなって予感がする。複雑で色々なストーリーラインが組み込まれている。でもそこがいい。何回だって見返したい。明日見たら、また違う感想になりそう。そんな気がする。
分かりやすいエンタメに振り切れた話じゃないけど、とてもいいドラマで、見ごたえがありました。
あとこれは余談。
星野源が演じる平清志があまりにもよすぎた。
いや、星野源が好きだから、このドラマに興味を持ったんだけど。でも、どんどん演技が上手くなるというか、表現の幅が増えてる気がする。
あの世代特有の、中間管理職の板挟みの苦悩だとか。若者に眩しさを感じる視線だとか。目がとても表情豊か。あ、真木くんに興味を持ったな、とか。あんまり表情が変わらないのに、少しずつ優しさが表に出てくるのが伝わるし、だからこそ、とても苦しい立場の平さんに惹かれていって。
4話だったかな。ひとりきりで、暗闇で、UAの総理の椅子に座ってソロンと対話するシーン。貴方の言葉に真実がなかったと言われて嗤うところ。今まで泥を被るように若者たちを手助けしてきたこの人が、なんでこんなところで独りきりなんだろうって胸が苦しくなった。この人を助けてくれる人ってどうしてどこにも居ないんだろう。なのに次のシーンではちゃんと立ち直って、大人の仮面を上手に被って。しんどいなって。そんなことをずっと思ってた。
あのシーンが本当に忘れられない。孤独がとっても上手い。そんなことある?
でも源さんって孤独を演じるのがいつも上手だよね。平匡さんの「いいなぁ、愛される人は」とか。大勢に囲まれてる人がふとひとりになった瞬間に見せる孤独になぜか共感してしまう。それが見たいから、そろそろまた役者の源さんに会いたい。