大人になってから変化できる人って素敵だなぁ(機捜235/今野敏)
この本を手に取ったのは、MIU404というドラマで主人公たちが「機捜」という部署で働いていたからです。
本当に好きなドラマなので、彼らの解像度が上がればいいな、なんて下心だけで読み始めました。
機捜であることを受け入れつつ、社会の歯車として過ごしていた高丸(主人公)が、機捜初心者の相棒の縞長と関わることで、警察の職務の本質を思い出していく。
あらすじとしてはそんな話でしたが、結論として、普通に読み始めた理由なんて忘れるくらい、お仕事小説として面白かったです。
さすが警察小説でたくさんのシリーズを書かれている今野敏さん。信頼しかない。
今野敏さんの描かれる警察組織のリアリティがすごく好きなんですよ。
そこで働いている人たちが生きてるみたいに見える小説なんです。
嫌な奴にくっそーって思ったり、些細なことで頑張ろうって思ったり。
巨悪に立ち向かうドラマみたいな盛り上がりがあるわけじゃない。
でも、そういうところがこの小説のいいところ。
淡々とした日常で、警察として誇りを持って日々の職務に向き合う。
今野敏さんのそういうリアルさがある小説を書けるところが好きですし、尊敬しています。
今作は珍しく一人称なんですよね。だから余計にリアル。高丸くんの目の前にあることとか感情がそのまま伝わってくる。
元々、今野敏さんは「STシリーズ」でもお世話になってました。あのシリーズも好きです。特に赤城左門が大好きです。
原作のミステリアスで孤高の一匹狼な赤城左門も好きですし、ドラマ版のすっっっっげーーーめんどくせー男(藤原竜也)も好きです。
昔、その中でも好きな本の感想を書いていたので置いておきますね。
初期の頃に記事なので、拙さには目を瞑ってください……
今作で舞台になっている機捜とは、覆面パトカーに乗って決められたエリア内を巡回する仕事です。
その部署で高丸くんの相棒が不慮の事件に巻き込まれて怪我をした結果、かなり年上の、無能に見える刑事と臨時のパートナーになる。そこから1話が始まります。
どこかで見たな、この玉突き人事。
年齢とキャリアが上で、なのに部署の新人と組むって仕事やりにくそう。
とか色々と思いながら読んでいくと、本当に淡々と。淡々と仕事が始まって、毎日を重ねながら大人らしく踏み込みすぎず、だけど距離は縮めていく。
それを丁寧に積み重ねて、少しずつ変化していく。
盛り上がりには欠けるかもしれないけど、たぶん警察の仕事ってこうなんだろうなって覗き見してる気持ちになりました。
何気なく言われた言葉が、刑事の本質んだと思った。
これを縞長から言われた高丸が、少しずつ変わっていった自分に気付いていく。そこから物語がぐっと面白くなりました。
例えば、かつての相棒との温度感に戸惑ったり。
機捜隊員に必要なスキルをより活かそうと積極的に動くようになったり。
捜査に直接関わらない、縁の下の力持ちであることへの誇りを自覚したり。
そうしていくうちに、違和感を覚えたことに対して、「もっと知りたい」と思って行動できるようになる。
そういう、劇的なわけじゃないけど、前向きに少しずつ変化していくことが、なんだか我が事みたいに嬉しかった。
素直に感じて言葉にできるところが高丸くんのいいところだなって好きなシーンです。
でも、そこに至るまで変化しつつも大きな衝突もなく仕事のできた高丸くんも大人だと思う。
そういう大人と大人が関わり合って、変化していく。それってとても素敵な関係だなぁとちょっと羨ましくなりました。そういう人に出会いたい。
今野敏さんの話を読むたびに、こういうリアルさ、生々しさ、淡々とした生活とそこに生きる人たちのちょっとした変化、そういうのが綺麗に表現できる小説を書けるようになりたいなぁとしみじみ思います。
ということで、今日もまた原稿に戻りたいと思います。