星神楽㉛ 彼岸花、月夜に影を呼ぶ
至る所の畦道で、彼岸花が咲き乱れ、黒い揚羽蝶に身を委ねていた。
愛で折るように僕はもう一度、白い満月に浮かぶ、彼岸花を見つめた。
彼岸花に罪はない。
月明かりは山の端にも光を与えようとしたが、ついに闇とは混じらなかった。
黒い鉛筆のような、糸杉は縹色でよく目立っていたのに。
僕は架空の夜の下で神楽を舞う。
腰を屈め、すり足でゆっくりと、右手に神楽鈴で振り下ろしながら。
肘を垂直に曲げ、円を描くように。
神楽鈴が陰々と暗夜に鳴り響く。
薄雲から月光が差し込み、清らかな鈴の音が色鳴き風に与する。
確かな記憶は僕の不安。
あの人は秋めく窓辺で、鴇色のオルゴールをか細い指で鳴らし、お腹にいる僕をさすってくれた。
もう、会えない。
なぜなら、僕が息の根を切ったから、とぼんやりとした一抹の不安を押し殺しながら、亡骸を凝視したつもりで、薄と戯れる彼岸花を見つめた。
誰もが妬む、彼岸花。
死霊を擲つ、狐花。
怨霊も戒める、天蓋花。
月明りを浴び、僕を象る影絵と遊びながら舞い続けた。
彼岸花、いや、死人花にこの衝動性を託したかっただけだった。
これも少年らしい、現を抜かした怪談話なんだろう。
あの人をどんなに殺めたくても、僕にはその判断を下す勇気なんて、一欠けらもないのに。
星神楽㉜ 蝸牛|詩歩子 複雑性PTSD・解離性障害・発達障害 トラウマ治療のEMDRを受けています (note.com)