伯父さんが舞う一人剣。
僕もいつかは舞えるか、想像も尽かない一人剣。
「辰一お兄ちゃん、お母さんがジュースあげるって」
炭酸水を勇一がポンと僕の手に置くと、早速出店に出かけて行った。
せっかくの神楽だから僕は出店に出歩くこともなく、ずっと夜神楽を観賞していた。
神楽のお囃子が途切れることなく、境内に鳴り響き、地区のおじさんたちが焼酎を酌み交わしながら、酔い心地に神楽歌を歌っている。
つい神楽に見入っていると辰一君、と優しく肩を叩かれた。
振り返ってみたら、そこにいたのは君だった。
「初めてで短時間のうちに、ここまで技を習得できたのはすごいことだって、地区のおじさんたちも褒めていたよ。辰一君の舞は空気が違ったって。何というか、さすが、辰弥さんの甥だねって、まるで辰弥さんの子供みたいに雰囲気が違ったみたいよ」
伯父さんの神楽舞は得も言わぬ、感性があって人を引きこむ力がある。
決して、追いつけられない、伯父さんのように褒められて本当に嬉しかった。
「辰一君ってお礼を言う回数が多いよね。いいな、人に素直に感謝できる人って」
いいや、君だからお礼を言う、回数が多いだけかもしれない。
神楽歌を歌うおじさんたちの声援が、一端中断すると、次の演目になり、銀鏡神社の歴代の宮司が舞う、式十三番の西宮大明神(にしのみやだいみょうじん)が舞われた。
真夜中の祝子らは神話を紡ぐため、受け継ぐため、懸命に祈りを捧げている。
いよいよ、式十八番の一人剣だ。
そろそろ伯父さんの舞が始まるだろうな、と眠気を押さえ込むと、お囃子の音が変わり、僕は自然と襟を正した。
星神楽㊹白銀(しろがね)の剣 |詩歩子 複雑性PTSD・解離性障害・発達障害 トラウマ治療のEMDRを受けています (note.com)
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