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冬ははじまってるよ【冬プレイリスト紹介】
そりゃあもう2月だもん、と返ってきそうなタイトルですがこれを書き始めたのは12月。師走の忙しさやテストなどを甘言に、ついには春が見えてくる季節になってしまった。そして先日、the pillowsが解散してしまった。勝手になんだかんだ解散なんてしないバンドだと思っていたのでその衝撃が大きく、ここ数日『パトリシア』を一日中流すことでしか感情を消化できなかった。幸せな曲だからこそ感じる切なさもあるのだなって。
そんなこんなで本題。私は季節という概念自体が好きなので当然冬も好き。夏が恋しくなる夜もあれば、コートを靡かせて歩きたい雲一つない澄んだ青空の昼もある。いろんな冬の景色に、いろんな冬の楽曲を捧げます。
冬がはじまるよ/槇原敬之
秋を彩る草木が次第に力尽き、北風を寒く感じる頃になると聴きたくなる日本の冬のアンセム。クリスマスや年末年始など、冬を彩る数多のイベントへの期待感は師走の忙しささえも楽しく感じられるほどの高揚を与えてくれる。そんなキラキラした冬の訪れを素直に予感させてくれるキャッチーで安定感のあるポップスで、冬のプレイリストで一曲目を飾るのに全く異論はないだろう。
悲しみは雪のように/浜田省吾
悲しみを雪に喩えるセンスが唯一無二な浜田省吾の往年の大名曲であり彼の代表作。一音一音を大事に歌っていて、どっしりとしたベテランの風格をしかと感じさせる。特に2番のAメロの歌詞は素晴らしく、国民の父と言っても差し支えないとさえ感じさせる。何度も言っているが、彼がご存命のうちに絶対ライブに行って、まっすぐな熱量を浴びたい。
スノースマイル/BUMP OF CHICKEN
「冬が寒くって本当に良かった」そんなキーフレーズから始まるこの曲は、叙情的な歌詞が『ごんぎつね』のような一面の銀世界の中にいる「二人」を想起させる、冬の寒さとは対照的な温かい歌だ。「二人」がどんな関係なのかは推測の域を出ないが、私は親子だと感じている。大人(あるいは青年)になった「僕」が回想的に幼少期に親と歩いた雪の道を思い出しつつ、これからは一人で歩いていく(=自立する)決心をする曲なのではないだろうか。そしてそんな場面を想像するとこの曲が収録されているアルバム『ユグドラシル』のジャケットもそんな景色に見えてきた。「僕」は北欧神話に出てくるかの有名な大木、ユグドラシルの落ち葉を蹴飛ばしているのかもしれない。
まっ白/小田和正
行き交う人の白い息がその感情とともに交差するありふれた冬の街でも、小田和正の美声は心を貫く。息を含んだ彼の声は繊細で儚く霧のようであるけれども確かな強さを包含し、残酷な冬と人の冷たさに哀しく思いつつも、失望には及ばず芯の強さを感じさせる。そんな冬の景色と人間の性を表したこの曲はオフコース時代の『愛を止めないで』にも似た名曲に違いないし、そうなるべきであろう。
抱きしめたい/Mr.Children
スローテンポで始まるイントロから冬の寒さと冷たさが想起される都会の冬ソング。個人的には憧憬の対象としての「二人」を感じている。もちろん「僕」からしたら「君」に対しての気持ちを歌っているんだろうが、第三者である聴き手からすればそんな二人を纏めて愛おしく思える。曲が進むにつれて桜井さんの美声もあって、「ぬくもり」を感じられる温かい曲で、幼い頃にこの曲を初めて聴いた私はドラマみたいな大人の恋愛を想像して勝手に憧れていた。大人になってもこんな恋愛が実現することは決してなく、一生の憧れとなるとも知らずに。
いつかきっと/渡辺美里
90年代ならではのズンチャズンチャのリズムに委ねながら寒い冬を前向きな気持ちにさせてくれる曲。一曲目に紹介した槇原敬之と通ずるキャッチーさを持ち合わせつつも、底抜けの明るさではなくしっかりと我々に向き合ってくれる。平成前期の冬の雰囲気を現代、そして未来へ引き継いでいくに違いない大名曲だろう。
かけら〜総べての想いたちへ〜/NICO Touches the Walls
壮大なサブタイトルにも負けず劣らず、直球な表現で魂を震わす。向井理さんが出演するMVはまるで短編映画のような出来で、その情景から特に就活生に刺さる一曲。サビ前の盛り上がりは隘路の中に見つけた一筋の光のようで、母音の強いボーカルは修羅の道を進む人にあたたかな追い風を送る。厳しく吹く北風の方角へ進む勇ましい人間に、南風に乗った声を送るようで逞しい。
White Love / SPEED
夏にラーメン屋のスピーカーから聞こえてきたとき、最初はその不釣り合いさに狼狽したものの、逆に曲の良さを肯定できた気がした。SPEEDは近時NewJeansの楽曲でもその影響が見られるなど、K-POPの影響力が強い20年代現在の音楽シーンにおいて伝説的役割を担っているような気がしている。気がしてばっかりだがとにかく、スキーブームだとか織田裕二だとか、「あの頃」の冬の輝かしさを仮初ながら感じさせてくれる楽曲であることは間違いないだろう。(厳密に言えばリリース時にスキーブームは終わっているし『東京ラブストーリー』もこれより少し前だし、ましてこの2つでさえ時代が被っていない。あくまで後世の人間のイメージにすぎない。)
雪風/スピッツ
「雪風」ってなんだろう。吹雪でもなく、ただの冬の北風でもない。私は暗い夜道で、街灯の明かりがあって初めて見えるほど細かい雪の粒が力無い北風に吹かれているさまを想像した。「あの日の温もり」とか「巻き戻しの海」とか、過去の思い出を回想している曲で、草野さんの永遠のテーマである死生観やそれに密接に関連する別れを歌った曲のようにも聞こえる。非日常の「白い世界」を歌う、スピッツには珍しい(気がする)美しい冬の歌。
PLANET/スーパーカー
私的夏に聴きたいアルバムNo.1を誇るスーパーカー『スリーアウトチェンジ』だが、実は最近冬の雰囲気を感じることがある。そのジャケットは夏よりは冬の澄んだ晴天を想起させるし、『(Am I)confusing you?』の「クリスマス」というワードや此度選出した『PLANET』からどことなく冬の匂いを感じる。彼らを生んだ青い森の雪はまだ青い私たちを温かく見守ってくれるほどの熱を持っていないのだろうか。僕が王子ならどうだろう。
Cry On Your Smile/久保田利伸
否、この男は言葉で温めてくれる。骨の髄まで沁み渡る彼の甘い声は寒い冬の夜に一途に人を想い、優しさを纏った言葉を無限に投げ込む。特に冬の歌を彷彿とさせるフレーズはないが(コートくらい?)、繊細なピアノのサウンドが冬の夜を想起させる。語彙力がなくて書き表せないけど、そんな感じ。優しくも強い、最高の楽曲だ。
東京の夜/Laura day romance
和歌の時代から「同じ月を見てる」なんて愛情表現はあるけど、正直二人のいる場所が違えば季節の匂いも夜の寂しさも変わってしまう。でも、彼方に確かな優しさと温かさがあるのは事実で、想いに耽ってしまいがちな冬の夜ならではの孤独との向き合い方を切なく、けれども強く歌った美しい曲。都心から少し離れた閑静な住宅街で、目的もなく散歩しながら聴きたい。
グレイッシュ/mol-74
ポストロックやシューゲイザーのような繊細なサウンドを鳴らすこの楽曲は、冬の情景を完璧に表現しているといっても過言ではない。冬の寒さに起因する白とも黒ともいえない中途半端な感情に陥りがちな心と、霧がかってぼやけた街の色を『グレイッシュ』というタイトルに凝縮させている。名著の読了感にも似た味わい。もはや言葉にする必要もないだろう。
マフラー/羊文学
霞んだ冬空を想起させるダイナミックなサウンドが、初日の出のような希望に満ちた美しさを想起させる。塩塚さんの繊細ながらも力強いボーカルが冬の澄んだ空気を蓄え、遠くの山の輪郭がきれいに見えたいつかの日を思い出させるようなエモーショナルな曲。
ポトス/雪国
テレビ台の横に置いてあるポトスのように、さりげなく寄り添ってくれるグッドミュージック。曲が始まった瞬間から川端康成の『雪国』さながらに冬の映像が浮かんでくる。そして突然切れるように曲が終わるさまはあっけなささえ感じさせる。まるで景色のワンシーンだけを切り取ったかのような美しい楽曲で、このプレイリストの最後の楽曲としてこれ以上ないだろう。
クリスマス前に書き始めたこのnoteも、終に令月を迎え暦上は春。けれども私の住む地域ではこの冬一番の寒さの一週間が始まる。そして個人的には春休みに入った。大学に入って四度目の長期休みだが、ちょっとの楽しい用事とちょっとのバイト、そして周りの優秀な人たちを見て感じるちょっとの焦燥感で何の変哲もない日々を過ごしている。ずっと何かを探しているような気はしているけど、簡単にそれが見つかってしまったら人生の目的がなくなってしまうなとも思っている。完璧にはいかない人生の理想との隙間を埋めるように音楽を聴いて出かける。今日もいい日になりそうだ。