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第12回 「愛着とデザイン」を語る

ー PROLOGUE ー

 2024年6月マンスリーゲストは放送作家で脚本家の小山薫堂さんと、一澤信三郎帆布 代表の一澤信三郎さん。京都・東山へ、おふたりに逢いにいってきました。

世界有数の観光地 京都・東山。街なかは、歴史情緒にあふれている。

 テレビやラジオなどの脚本や制作を手掛けるN35インターナショナル株式会社や、企画を生み出す会社 株式会社オレンジ・アンド・パートナーズの代表取締役社長を務める一方、ご自身も放送作家であり脚本家でもいらっしゃる小山薫堂さん。
 小山さんの「いま、逢いたい人」に逢うために、120年の歴史を誇る一澤信三郎帆布へ。

2024年6月のマンスリーゲスト 放送作家で脚本家の小山薫堂さん

 人びとに愛され続ける「いい」ものとはどんなものなのか。
 いい「企画」との共通点はあるのか。「いい」が未来にもたらすものとは。

 おふたりの対談を全5回にわたり配信します。

2024年6月のマンスリーゲスト 一澤信三郎帆布株式会社 代表取締役社長 一澤信三郎さん

ー INTERVIEW ー

一澤信三郎帆布の店舗実演、そして工房のなかを見させていただきました。1ミリもずれることの無い縫製、足踏み式ミシンの足捌きなど、見事でした。

一澤さん(以下、一):あのミシンは、戦前のものやな。1940年やったかな。今はコンピューターの時代やけど、コンピューターを追いかけてると、いかに大量に早よ作るか、やん。

小:効率ばかりですよね。

京都の一澤信三郎帆布 本店では不定期で職人の技を間近に見ることができる
潔い直線はなんとも美しい。1ミリもズレが無い
戦前から動き続けている足踏み式ミシン

一:あのミシンたちは、私より丈夫でね(笑)。傷むとしても、針が折れるとかくらいや。元々、構造は柱時計と一緒で、簡単やから、痛む要素があんまり無いわ。今のコンピューターミシンは、コンピューターが壊れたら、本体自体を破棄せなあかんやん。でも、うちらのミシンは、針を替えたり、芯棒をちょっといじると、また再稼働してくれる。

小:私たちは、「進化」を「便利になること」と思いがちですけど、「退化」する面もあるのかなと思うんです。例えば、車なんかでも、車体がどんどん大きくなって、どんどん安全性が高まっている。だけどその反面、人間の手足の延長、人間の道具としての車ではなく、むしろ、車に"乗せられている"、というか。昔の車は、自分が"乗りこなしている"感覚がありました。だけど、今は、誰でも安全に"乗せられている"分、面白さが失われてしまっているような気もします。便利すぎて、つまらなくなっている。それは車に限らずですが、そう感じることがあります。

お店を拝見していて感じたのですが、商品の型数が非常に多いですね。

一:そやな。廃番が無いしね。カタログに載ってるのもごく一部や。現物がうちに無くても、廃番とは思ってない。50年前の鞄を持ってきはっても、素材も作り続けてるし、腕もある。「この日に作ってくれ」言われたら、うちはその日のうちに出来る。
 今のものは大量生産やから、傷んだ時に、修繕しようと思っても、どこで作ったのか、それさえ辿り着けないやろ。海外かもわからん。でも、うちの場合は、修繕もさせてもらってるし、大概は対応できる。その辺が、他とはちょっと違うかもわからんな。

 それとな、できるだけ目に見えんとこほど手間暇かけてんねん。ほんまやったら、めんどくさいことやけどね。そうしたらやっぱり、長年使ううちに違いが出てくる。例えば、ミシンだと、普通は縫いっぱなしにするか戻しミシンかけて、鋏で切るだけやろ。そやけど、うちは大概、その糸を引っ張り出して、それを丸結びにして、解けんようにする。しかもそれを、埋め込むねん。鞄の中に。

見えないところほど手間暇をかける。それが一澤信三郎帆布のものづくりの礎

それはまさに「見えないところ」ですね。小山さん、こういった「見えないところ」へのこだわり、企画にも共通するところはありますか。

小:そうですね。一澤さんのこだわりは、使う人の想いをどこまで満足させられるか、という、使う人の想いに対する見えないこだわりですよね。企画も似ているところはあると思います。企画は、結局のところ、「誰のためにやるか」じゃないですか。「自分がやりたいからやっている」だけではダメで、それが誰かに届かないといけない。一見、そんなに派手じゃないかもしれないけれど、その企画の先にいる人が、「あぁ、これっていいよな」と思っていくれるように、こだわる。それが企画の『鉄則』だと思うんです。

一:今、外国のお客さんも増えてきて、時折、京都に来たからって修繕してほしい鞄を持ってきはる。「あんた、いつまで居るんや」って聞いて、出来るだけ帰るまでに直してあげんねん。そうしないと、修繕費より送料の方が高くつくからな。

小:へぇー!!海外の方でも鞄を持ってくる方がいるんですか!!僕ね、『愛着』って言葉が好きなんです。「愛」を「着せる」って書くんですよね。自分の持ち物に、『愛を着せる』って、いいじゃないですか。

愛用する一澤信三郎帆布の鞄を手にする小山さん

今回、小山さんに「愛着を感じるもの」をご用意いただいていますが、これは、まさに、一澤信三郎帆布の鞄ですね。

小:これはまだ、比較的最近買ったものなので、まだ固くて、新品感があるんですけど。うちのスタッフが同じものを何年も前に買っていて、すごいボロボロになっているのを見て、『負けた!』って(笑)普通は、ほら、買った時が一番ピカピカで、一番格好いいじゃないですか。でもこれは、ピカピカだと恥ずかしいってくらいの気持ちで使えるのでいいな、と。「いつも使いたくなるもの」っていうのが、いいですよね。

一:経年変化というか、使うてると、「その人らしさ」が出てくるやんな。

育ててるんですね。

小:そうそう、育ててるんですよ。

まだ「ピカピカ」な小山さんの鞄。ここから愛を着せて、育てていく

格好いいです。使い心地、機能性、この辺りはいかがでしょう。

小:最高ですね。それでいて野暮ったくない。これ、デザインはどうやって保たれてるんですか。今の時代にも合うし、決してレトロなデザインでもないですよね。

一:うちは、デザイナーって、いいひん(いない)ねん。

小:それが面白いですよね!!

え!どういうことですか。デザイナーがいない。では一体、誰がデザインするんですか。

一:お客さん。

えー!!!!!????

一:うちはお客さんと対面で話するから、お客さんから身近な情報をもらうねん。例えば、子どもが生まれたら「哺乳瓶を取り出しやすいポケットが付いてるものが欲しい」とか、「幼児向けのものを色々と入れられるような袋(かばん)ができひんか」とか、自転車通勤の時に「自転車にかけられるような鞄が欲しい」とかな。そういうものを、何度も試作して、使ってみては不備がないかを見て、ゆっくりゆっくり新作ができていくねん。

一澤信三郎帆布のものづくりの風景。職人たちに一切の妥協はない


それは驚きです!小山さんも絶えず新しい企画を生み出している印象なのですが、「産みの苦しみ」みたいのものはあるんですか。

小:産みの苦しみは、あります。ありますけど、全部が全部、必要に迫られて企画を作るわけではなくて、ふとした時に降りてくることがあるんです。「どうやって企画を作っているんですか」と聞かれることが多いのですが、最近、ようやく気づいたことがあって…


「第13回 『いい』が未来にもたらすもの」に続く)


・・・

小山薫堂 Kundo Koyama

放送作家。脚本家。京都芸術大学副学長。料亭「下鴨茶寮」主人。
1964年熊本県天草市生まれ。日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。
「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画。
脚本を担当した映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。
執筆活動の他、地域・企業のプロジェクトアドバイザー、2025年大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーなどを務める。
熊本県のPRキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。

一澤信三郎 Shinzaburo Ichizawa
昭和24年生まれ。小さい頃から住まいが仕事場だったため、常にミシンの音を聞き、帆布のにおいを感じる暮らしだった。大学卒業後、新聞社に10年勤め、昭和55年に家業に戻る。一澤帆布の創業から110周年、一澤信三郎帆布になってから9周年。いつもの自然体で新しい企画を考え中。

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ー Podcast ー

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ー CONCEPT ー

〜これからの社会に本当に必要な「いい会社」に投資する〜
鎌倉投信が提供するラジオ番組『Finding the GOOD』
全国を飛び回りゲストとクロストーク。
ものごとの「よさ」とはどこにあるのか。
さぁ。「いい」を探す旅に出よう。

ー PLAY LIST ー

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写真家モロイユウダイ撮り下ろしインタビューショット
イラストレーターほりはる描き下ろし線画など
見つけた「いい」を集めています。

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