2022年第4四半期マトリックス速報① 鉄板の現預金選好は続く
2023年3月17日に金融マトリックス(資金循環統計)の22年第4四半期(速報値)が公表されました。
定点観測として低金利政策が継続できることの前提である家計の鉄板の現預金選好に変化があるか見ました。
1、 家計のネット金融資産拡大は続く
22年も引き続き一般政府と海外部門のフロー差額(資金過不足)はマイナスが続き、家計を中心に資金余剰(フロー差額がプラス)となっています。
換言すると国債の増発と国際収支の経常黒字の継続により家計を中心にネットの金融資産が増加している状況が続いています。特にパンデミック対策で急拡大した財政により20年度はかつてない規模で家計の資金余剰となりその後も高水準が続いています。
この80年度から2022年までの43年間の部門ごとのフロー差額の累積推移が次のグラフ。
政府部門と海外部門の資金不足(ネットの金融負債の供給)により家計部門は大幅な資金余剰(ネットの金融資産増)が続いています。非金融法人企業部門は97年度までは資金不足(赤字主体)で98年度以降黒字主体に変わっていますがこれについては末尾(※)参照のこと。
2、家計の鉄板の現預金選好は続く
家計部門は増加する金融資産の種類を選択できますが圧倒的に現預金を選択しています。
表は1980年度から2022年12月までの家計のフロー金額累計とそのうち19年度以降の4年間のフローを表示していますが圧倒的に現預金を選好しかつその傾向は強まっています。
特に20年度はパンデミック対策による政府部門の支出により現預金の増加が著しいです。家計がどのような金融資産を選好するかによって金融機関の構造が決まります。
現金を選好すると日銀は現金を供給するために資産(国債)保有を増加させる必要があます。
預金を選好すると一般銀行は預金を供給するために資産を増加させる必要があます(銀行貸出による資産の増加は同時に預金の増加が起きるためここでいう資産の増加の対象にはなりません)。
国債増加による家計の金融資産増加が巨額なため現預金の巨額な増加に対して銀行は国債もしくはその代替資産としての日銀預け金以外の選択肢は現実的ではないことになります。
80年度から2022年12月までのフロー金額累計の状況は次のグラフのとおり。
3、潜在的なリスク 鉄板の現預金選好が揺らぐとき
巨額な政府債務を低金利で維持できるのは家計の現預金選好が低金利でも維持されているためで、現状は現預金選好が変わっていく兆候は見られず少なくとも当面はこの構造が維持されると考えられます。
家計の現預金選好が(少しでも?)変化すると
① 財・サービスに向かうと→インフレに
② (投信を通して)不動産・国内株式に向かうと→資産インフレに
③ (投信を通して)外貨運用に向かうと→円安に
22年末の家計の現預金残高1,110兆円に対し外貨準備は162兆円で、外貨ポジションの維持能力は、月次レポートや配当・納税、クレジット制約があるファンドに比較して家計ははるかに強力だと考えられます。
政府部門の資金不足(債務の増加による費消)が続く限り家計が上記の①②③をどんなに行っても政府部門以外の資金余剰は続き最終的には家計部門の資金余剰になます。
当面は政府部門の資金不足と海外部門の資金不足(経常収支+資本移転等収支が黒字)が続くと予想され、家計の現預金増加は続くと予想されます。
(※)非金融法人企業部門は97年度までは資金不足(赤字主体)で、主に借入金と社債で資金を調達し設備投資等の支出超過を賄っていました。しかし、98年度以降は、資金余剰部門(黒字主体)に変わり、余剰資金は借入金と社債のネットの返済に充てられました。2011年度以降は金融債務の返済よりも対外投資と預金増加に充てており、更に13年度以降は金融債務の増加を伴って経常収支の黒字額を超えて対外直接投資を行っています。国内投資よりも対外投資の方が有利と判断している状況が窺えます。
非金融法人企業が国内で設備投資を行うと、借入によるか現預金によるかに拘わらず、マトリックス上は資金不足と計上されます。一方、海外で設備投資を行う場合には海外現法を通して行うのが一般的であり、その場合、マトリックス上は海外現法への出資となって対外直接投資に資産計上され、その結果金融元本取引となり資金過不足は生じません。更に、海外現法は現地で借入金など負債による調達を行うのが一般的ですが、現地における非居住者からの資金調達は親会社の保証ともどもマトリックスの対象外であることから対外直接投資に計上されている金額よりも海外での設備投資等の規模は大きいと考えられます。
巨額の国債を巨額の現金預金が低金利で維持する構造の脆弱性につきましては、
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