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365日の紙飛行機(2025小倉ジャンプS)~競馬小説カフェ・ド・イーグル~


■ 夏をあきらめて

2025年2月10日(月)午前7時半
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-

早起村に新しい朝が来た。

土日の競馬でたんまり儲けた人にも、ケツの毛まで抜かれてふて寝でやり過ごした人にも、毎日平等に朝は来る-
 
「お! 貫ちゃん。月曜の朝から今週の予習かい?」

いつものカウンター左端に座ったイカ社長が、反対側の指定席にいる貫一郎に声を掛けた。スマホから目をあげて貫一郎が応じる。

「ええ。軽く番組表のチェックをしてたところです。小倉ジャンプステークスって見慣れないレースがあるなあと思って」

「そりゃあ、あれだろ・・サマージャンプが移動してきたんじゃなかったかな。なあミスター?」

イカ社長に出すコーヒーを用意しながらミスターが応じる。

「その通りです。8月施行だった小倉サマージャンプが2月に移動。それに伴い名称も小倉ジャンプステークスとなった」

「今年は名称変更やら時期の移動やらが多くてまいっちゃうわ」

貫一郎の左にいるケチャ子が、頬杖をついた格好でいった。さもいやそうに眉根を寄せている。

「ま、慣れるしかないんだろうけど・・・ところでミスター。2月の障害重賞ってなんだか違和感があるんだけど、初めてなのかしら?」

「確かに記憶にないですね・・ちょっと調べてみましょう」

パソコンを操作したミスターは、すぐに答えをくれた。

「ああ。2月施行の障害重賞は、1998年の東京障害特別以来ですね」

「どれどれ・・・枠の4-2-5か・・・これをまんま使ってくれたら苦労しねえんだけどな」

イカ社長がスマホをみながら自嘲気味にいった。1998年の東京障害特別(春)の出目が、それ以来の2月施行障害重賞となる小倉ジャンプステークスへ飛ばないかという魂胆だ。

1998/2/14 東京障害特別(
1着:4-04 ケイティタイガー
2着:2-02 メジロシンドウ
3着:5-05 チアズロッキー

「え? 最後の東京障害特別ですよね? 枠の7-4-2じゃないですか?」

貫一郎がスマホを見ながら疑問を呈した。ミスターが答える。

「貫ちゃん。それってもしかしたら東京障害特別()をみてませんか? 社長さんがいった枠4-2-5の東京障害特別は“”のほうですよ」

「あ!そうか! 確かに秋のほうをみてました。東京障害特別って春と秋の二回行われてたんですね!」

「へえー! そうなの?」

貫一郎以上に感心したのはケチャ子だった。

「春と秋に行われる重賞って、天皇賞だけだと思ったわ」

「おめえさんたちはわけえなあ・・・昔は春秋二回施行される重賞が結構あったんだぜ」

イカ社長がここが自分の出番とばかり鼻を膨らませた。

「東京、京都、阪神それぞれの障害競走に中山大障害。平地なら天皇賞のほかには目黒記念、中山記念・・・おっと! 今週の京都記念だってそうだぜ」

貫一郎とケチャ子から、ほうという感嘆の声が漏れた。

<春秋二回施行だった重賞>

・障害重賞

中山大障害
(1998年まで春秋二回施行)
春 → 中山グランドジャンプ(1999~)
秋 → 中山大障害として継続

東京障害特別
(1998年まで春秋二回施行)
春 → 東京ハイジャンプへ改称(1999~)
秋 → 東京ジャンプステークスへ改称(1999~)

京都大障害
(1998年まで春秋二回施行)
春 → 京都ハイジャンプへ改称(1999~)
秋 → 京都ジャンプステークスへ改称(1999~)

阪神障害ステークス
(1998年まで春秋二回施行)
春 → 阪神スプリングジャンプへ改称(1999~)
秋 → 阪神ジャンプステークスへ改称(1999~)

・平地重賞

目黒記念(1983年まで春秋二回施行)
京都記念(1983年まで春秋二回施行)
中山記念(1951年まで春秋二回施行)

~~~

「じゃあなんで小倉スプリングジャンプにしなかったんでしょうね?」

貫一郎が新たな疑問点を挙げた。

「1998年まで、2月に施行されていた東京障害特別は春という名称がついてたんですよね? それなら同じ2月に移動してきた小倉サマージャンプも、季節を夏から春に変えて小倉スプリングジャンプとしたらよかったのに・・」

「ん~~、3月に阪神スプリングジャンプがあるからじゃねえか? 皐月賞トライアルのスプリングステークスも3月だしな」

イカ社長の説明に、貫一郎はそうかと顎を引いた。

同じ障害重賞の阪神ジャンプステークスはJ・GⅡ。皐月賞トライアルのスプリングステークスもグレードはGⅡである。いずれも3月中旬、同一週の施行だ。対して小倉ジャンプステークスは、J・GⅢであり格で見劣る。

春を告げる重賞グループにおいて、GⅢの小倉ジャンプステークスが、GⅡの2重賞よりも1カ月早く春を告げるのはおかしいという理屈は通る。

■ はるが来た

「小倉ジャンプステークスは“春”をもらえなかったけど・・」

テーブル客の対応が一段落した聖子ママが、手を拭きながらいった。

「フェブラリーステークスには“ハル”が来るわよ」

「春が来る?」

貫一郎はそういって、ケチャ子と顔を見合わせた。ケチャ子はあたしもわからないと首を振る。

「そう。女優の波瑠よ。フェブラリーステークスのプレゼンターなの」


JRA-FUN 第1回 東京競馬場イベント

「なるほど、スプリングハズカムだな」

イカ社長がそういってカウンターの伝票を取った。それを潮に、ケチャ子と貫一郎もコーヒーを飲み干したりカウンターの上を片付け始めたりした。

1998年の東京障害特別()以来の2月施行障害重賞。そして、2月の東京競馬場に“春”が来る。

このときカフェドイのメンバーは、今週解読することになる、ある壮大なシナリオの存在にまだ気づいていなかった-

■ 葛西紀明

2025年2月11日(火)午後7時
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-

一夜明けてバータイムのカフェ・ド・イ―グル。いつもの常連客が揃っている。

昨日話題となった小倉ジャンプステークスの注目馬を挙げたのは、生ビールのおかわりをした貫一郎だった。スキージャンプ界のレジェンド葛西紀明の活躍から、10歳馬アサクサゲンキが来るのではないかという。

「元の名前が小倉サマージャンプである小倉ジャンプステークス。回数は第27回とリセットされていませんが、隠れ第1回といっていいと思います・・・スキージャンプ界のレジェンド葛西は、第1回の大倉山サマージャンプを勝っています!」

1998
中山大障害、東京障害特別、京都大障害、阪神障害ステークス
春秋二回施行 最後の年

1998/2/14 第85回 東京障害特別
※最後の「2月施行・障害重賞」

1999
第1回)小()(サマージャンプ
優勝馬:ロングイカロス

2000
第1回)大()山(サマージャンプ
優勝:葛西紀明

大倉山サマージャンプ大会 Wikipedia

「なるほどなあ・・」

イカ社長が腕を組みながらいった。

「ジャンプ重賞は春秋二回の施行だった最後の年が1998年・・・つまり障害重賞から春と秋が消えた・・・翌1999年、サマーの名をつけた重賞、小倉サマージャンプが創設・・・さらにその翌年、名前が似ている大倉山で、第1回大倉山サマージャンプ創設。それを勝ったのが最近好調のレジェンド葛西っつうわけだ」

みんながなるほどと何度も頷いた。ミスターが援護射撃をする。

「52歳の葛西紀明に対し、小倉ジャンプステークスで最高齢の登録馬である10歳馬のアサクサゲンキ・・・くろたんの掲示板メンバーのネタですが、フェブラリーステークスのプレゼンター波瑠は、朝ドラ『あさが来た』の主演でしたね」

みんながおおという声を挙げた。

ミスターによると、くろたんの立ち上げた掲示板(現在はメンバー募集なし)参加者のひとりであるラッキールーラさんが、朝ドラ『あさが来た』の先使いでアサクサゲンキが怪しいと言及したとのことだった。

小倉ジャンプS
(外)アサクサゲンキ(せん10
※登録馬で最高齢

■ アサカディフィート

「アサクサゲンキが来るなら、サイードも連れてこないかなと思ってます」

ミスターの考察には続きがあった。

「先週、東京新聞杯で8歳馬メイショウチタンが穴をあけましたよね?」

「そうだったそうだった。またかと思ったぜ! あの馬は新聞が読めるんじゃねえか?」

イカ社長が苦虫を嚙み潰したような顔でいった。ミスターが頷く。

「メイショウチタンは最低人気の16番人気でしたが、これで同馬は二桁人気での馬券圏内が都合4度目でした」

<メイショウチタン 二桁人気 馬券圏内>

2022 オーロC
11人気 2着(津村明秀)

2023 パラダイスS
13人気 2着(吉田豊)

2024 谷川岳S(L)
11人気 1着(角田大河

2025 東京新聞杯
16人気 3着(吉田豊)

※ 2024谷川岳S(L)から2025東京新聞杯の間に5戦
  柴田善臣→柴田善臣→柴田善臣→柴田善臣→横山典弘 
  いずれも「50代騎手」

~~~

「二桁人気で4度も穴を開けるなんて、そうそういないんじゃない?」

ケチャ子がミスターに訊いた。

「ところがどっこい、上には上がいるんですよ。アサクサゲンキと同じせん馬のアサカディフィートという馬なんですが、二桁人気で5度も馬券になっています」

<アサカディフィート 二桁人気 馬券圏内>

2002 遠州灘特別
10人気 1着(秋山真一郎)

2005 中京記念
10人気 3着(中舘英二)

2005 カシオペアS
12人気 1着(秋山真一郎)

2007 中山金杯
10人気 2着(小牧太

2007 小倉大賞典
10人気 1着(小牧太

※2008 小倉大賞典(せん10・連覇
(6人気・中舘英二)
※トウカイトリックとともに平地重賞勝利最高齢記録

~~~

小倉ジャンプS
アサ)クサゲンキ
小牧加也太・父は小牧太
サイ(ード
→ (アサ)カディフィ(ート

「そう来たか!」

イカ社長がパシっと膝を叩いていった。

「アサクサゲンキとサイードでアサカディフィートってか。アサカディフィートに乗ってた騎手のひとりがやはり50代のベテラン小牧太。アサクサゲンキにはその息子小牧加也太・・・サイードの想定騎手は小坂忠士だったけな?」

ミスターが頷く。

「そのようですね。小坂忠士といえば、第4レースで施行された初めての小倉サマージャンプを勝っています。2023年、テーオーソクラテスでした」

2023 小倉4R
小倉サマージャンプ
テーオーソクラテス(小坂忠士
※暑熱対策として第4競走で施行
※小坂忠士騎手は1位入線後熱中症の影響で落馬

「小倉サマージャンプが2月に来たのは暑熱対策だっけ? そのひとつでもあるかもしれないわね」

ケチャ子がいった。聖子ママが頷く。

「その可能性はあるわね。2月移動後の第1回・・・移動の原因を作ったかもしれない小坂忠士にも役割があるかも」

みんながなるほどと頷いた。

■ 伝説の写真判定

2025年2月12日(水)午後7時半
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-

明けて水曜日。バータイムのカフェ・ド・イーグルで話題になったのは、フェブラリーステークスのCMだった。

「波瑠の朝ドラ『あさが来た』を教えてくれたラッキールーラさんですが、フェブラリーステークスのCMで一瞬映るレースを教えてくれました。2008年の秋天です」


Hello, Special Times.『始まり』篇 フェブラリーステークス

2008 天皇賞(秋)
1着:7-14 ウオッカ     (武豊)
2着:4-07 ダイワスカーレット(安藤勝己)
3着:1-02 ディープスカイ  (四位洋文)

13分間にも及ぶ長い写真判定を制したのは、牝馬ながらダービーを制した名牝ウオッカだった。伝説のハナ差2センチのレースである。

「フェブラリーステークスのCMなのになんで秋天なの? わけわかんない」

ケチャ子が頬を膨らませていった。

「そこにサインがあるからさ」

イカ社長が胸を張っていった。ケチャ子が驚いて尋ねる。

「おっと! 何かつかんでるのね?」

「・・・・いや、見当もつかねえ」

みんながズッコケた。

秋天登場の理由を、ああでもないこうでもないと、ケチャ子とイカ社長が中心に騒いでいる中、貫一郎はスマホを熱心に操作していた。

「レジェンド葛西から強引につなげるなら、ロシアと韓国のことかもしれません」

突拍子もない見解に、みんなが驚いて貫一郎を見た。

「そう解釈すると、そのレースを見ているのが竹内涼真というのもしっくりきます」

■ 竹内涼真

「ウオッカといえばロシアのお酒ですよね? 2着ダイワスカーレットは馬主が韓国の方・・・ロシアと韓国・・・この2回の冬季オリンピックに竹内選手が出てるんです!」

2008 天皇賞(秋)
1着:ウオッカ     (ロシア
2着:ダイワスカーレット(韓国
※ダイワの大城敬三:韓国国籍

<冬季オリンピック>

2014 ソチ(ロシア
ラージヒル団体 銅メダル
(清水礼留飛、【竹内】択、【伊東大】貴、【葛西紀明】)

2018 平昌(韓国
ラージヒル団体 6位
(【竹内】択、【伊東大】貴、【葛西紀明】、小林陵侑)

~~~

小倉ジャンプS
アサクサゲンキ
せん10=最高齢 → レジェンド葛西紀明

クイーンC
コートアリシアン
(【坂井】瑠星・【伊藤大】士)
坂井(さかい)→(葛西)紀明
伊藤大士   →(伊東大)貴

「やるじゃない、貫ちゃん!」

聖子ママがポンと手を叩いていった。

「今週のテーマ春と秋。そして夏。オリンピックも夏と冬があるものね」

みんながなるほどと頷いた。だが、慎重派でもあるイカ社長は眉に唾を付けている。

「確かにおもしれえがどうだろうなあ・・・もうちっと後押しが欲しいところだぜ」

■ ジャスティンミラノ

10分間の休憩後、その後押しを見つけたのは聖子ママだった。重賞インフォメーションが、今週のテーマが冬季オリンピックであることを教えてくれているという。

JRAホームページ

重賞インフォメーション トップ画像
2024 共同通信杯 
ジャスティン(ミラノ

2026 冬季オリンピック
ミラノ)・コルティナダンペッツォ(イタリア)

みんながおおという声を挙げた。

重賞インフォメーションのトップ画像とは、動画再生ボタンを押してしばらくしてから、動画再生可能となったときに現れる静止画像のことである。昨年の共同通信杯勝利馬ジャスティンミラノ。2026年冬季オリンピックの開催地である、イタリアのミラノ・コルティナダンペッツォを示唆している。

「こりゃあ、いさぎよくシャッポを脱がねえとな」

イカ社長がいった。

「さっきのロシア、韓国の冬季オリンピック。スキージャンプ団体のメンバーで変更があったのが、清水から小林だったよな?」

<冬季オリンピック>

2014 ソチ(ロシア)
ラージヒル団体 銅メダル
(清水礼留飛、【竹内】択、【伊東大】貴、【葛西紀明】)

2018 平昌(韓国)
ラージヒル団体 6位
(【竹内】択、【伊東大】貴、【葛西紀明】、小林陵侑)

2014清水 → 2018小林
(他の3名は変わらず)

みんなが頷きながらイカ社長に注目した。

「メイショウチタンが穴を開けたレースに角田大河の名前が出てたよな? 小林といえば騎手免許更新ならずのニュースがあった・・・若手騎手の不祥事つながりさ」

中日スポーツ

<メイショウチタン 二桁人気 馬券圏内>

2022 オーロC
11人気 2着(津村明秀)

2023 パラダイスS
13人気 2着(吉田豊)

2024 谷川岳S(L)
11人気 1着(角田大河

2025 東京新聞杯
16人気 3着(吉田豊)

「これからは本人の努力次第だろうが、小林勝太の騎手免許が更新されなかったのは、実質引退勧告といっていいだろうぜ・・・昨年姿を消した若手騎手の中に、冬季オリンピック開催地の騎手がいたよなあ・・」

ひとり、またひとりとあっと声を挙げた。永野猛蔵騎手のことだ。字が違うので気が付きにくいが、1998年に我が国で施行された長野オリンピックにつながる。

2024/11/13 引退
永野)猛蔵

1998
長野)オリンピック

2018 平昌(韓国)
ラージヒル団体 6位
(【竹内】択、【伊東大】貴、【葛西紀明】、【小林】陵侑)

【小林】陵侑 → 【小林】勝太

「情報量が多くなってきたので、ちょっとここら辺でまとめておきましょう」

ミスターがみんなを見回していった。

「小倉サマージャンプの移動から示唆される春と秋春夏秋冬。フェブラリーステークスのCMからは冬季オリンピック、からのベテラン勢の活躍と若手騎手の不祥事、引退・・・」

イカ社長が大きく顎を引いて後を続ける。

ベテランと若手明と暗・・・今週のテーマがみえてきたな」

みんなが頷いた。

このテーマをさらに深く解明していくには、あともうひとつピースが必要だった。そのピースは、翌日ネットニュースに流れることとなる-

■ 藤岡康太

2025年2月13日(木)午後7時
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-

「やっぱり若手騎手の不祥事や引退がテーマだと思うわ」

ケチャ子がおかわりした生ビールを聖子ママから受け取っていった。

「みんなも見たでしょう? 藤岡康太騎手の石碑お披露目のニュース」


東スポ競馬

昨年の落馬事故を受けて、3月からリニューアル開催となる阪神競馬場に、藤岡康太騎手の石碑が立てられたという。13日には、同騎手の追悼植樹式も執り行われた。

聖子ママがいった。

「フェブラリーステークスのCMには昨年の中山グランドジャンプも使われてたわね」

Hello, Special Times.『始まり』篇 フェブラリーステークス

「追悼植樹式に出席したひとりである黒岩悠騎手。イロゴトシ連覇のインタビューはまだ記憶に新しいわ」

みんなが黙って頷いた。

藤岡康太騎手の訃報が流れた週。中山グランドジャンプ、イロゴトシで連覇を達成した黒岩悠騎手は、インタビューの中で声を絞り出して藤岡康太騎手の死にふれた。

聖子ママが続ける。

「昨年のフェブラリーステークスは兄藤岡佑介のペプチドナイル。重賞インフォメーションにはジャスティンミラノが登場・・・中山グランドジャンプの翌日、皐月賞を制したのがジャスティンミラノだったわね」

ジャスティンミラノ・・・藤岡康太騎手が一週前追い切りに乗ってたんですよね」

生ビールのジョッキを片手に貫一郎がいった。みんなが頷く。

「あ、そっか!」

ケチャ子がポンと手を叩いた。

「フェブラリーステークスのプレゼンター波瑠。名前に『』が入ってるじゃない! ナミュールのよ!」

みんながおおという声を挙げた。

フェブラリーステークスのプレゼンター波瑠。季節の春だけでなく、藤岡康太騎手最後のGⅠ勝利、マイルチャンピオンシップのナミュールも兼ねているのだろう。

■ ポルタフォリオ

10分間の休憩後、みんなが揃ったのを確認し、イカ社長がいった。

「藤岡康太がテーマなら、落馬競走中止を無視するわけにはいかねえぜ・・」

みんながイカ社長に視線をやった。

「イロゴトシ連覇の中山グランドジャンプ・・・2頭が落馬競走中止している。レース結果の表記上、一番下にあるのがアサクサゲンキに騎乗予定の小牧加也太だ。調教師は角田大河の父、角田晃一・・・ミスターがいっていた、アサカディフィート馬券があるかもしれねえぜ?」

2024 中山グランドジャンプ
1着:6-08 イロゴトシ(黒岩悠・連覇)

中止:5-06 タマモワカムシャ
中止:6-07 ポルタフォリオ(小牧加也太・角田晃一)

小倉ジャンプS
(アサ)クサゲンキ(せん10・小牧加也太)
サイ(ード)  (角田晃一)

→ (アサ)カディフィ(ート)
※せん馬 10歳で平地重賞勝利


JRAホームページ

みんながなるほどと声を挙げた。小牧加也太のアサクサゲンキと、角田晃一のサイードで決まれば、ポルタフォリオからの1点サインということになる。

ポルタフォリオとはイタリア語で「札入れの財布」を意味する。果たしてこの考察は、財布を厚くするのか薄くするのか-

■ 365日の紙飛行機

2025年2月14日(金)午後7時半
-岩手県某市早起村 カフェ・ド・イーグル-

カフェ・ド・イーグルには今日も常連客が揃っていた。バレンタインデーということもあり、聖子ママからのチョコを期待した準常連客も多くいる。

「ママさん、ありがとな。3倍返しとはいかねえかもしれねえが、一カ月後を楽しみに待っててくれ」

イカ社長はそういうと、右手の人差し指と中指を揃えて、右のこめかみあたりから聖子ママのほうに向けるポーズをした。

「渡したチョコはほんの義理チョコ。本命チョコはこれからよ」

なんのことかわからず、みんながとりあえず聖子ママのほうをみた。

「アサクサゲンキとサイードの一本勝負。アサカディフィートでもあり、昨年の中山グランドジャンプ、落馬競走中止したポルタフォリオでもある・・」

みんなが頷いた。

「今週のテーマは春夏秋冬だったわよね? 波瑠が主演した朝ドラ『あさが来た』・・主題歌はAKB48の『365日の紙飛行機』・・・365日・・・角田大河の重賞勝利を覚えているかしら?」

「・・・・シーズンリッチ!!」

貫一郎がパシっと膝を叩いた。

「そうか! 365日・・・毎日・・毎日杯だ!」

みんながおおという声を挙げた。聖子ママが満足そうに頷く。

2023 第70回 毎日杯
3-03(シーズン)リッチ(角田大河
※角田大河 唯一の重賞勝利

「そう。波瑠登場にはそういう隠れたメッセージがあると思うの・・・シーズンリッチ・・・今週のテーマである『季節』が入ってるわ・・・角田大河騎手の石碑は立てられなかったけれど、道半ばにして亡くなった騎手のひとりには違いないわ」

店内に重い沈黙が降りた。

彼の早すぎる逝去に対しては、自業自得との声も少なからずあった。だが、息子や弟を失った家族としての悲しみという点においては、藤岡康太ファミリーとなんら変わるものではない。

■ 波瑠から“なつ”へ

聖子ママが再び口を開いた。

「波瑠登場には、実はもうひとつ意味があると踏んでるわ。ちょっとこれを見てみて」


JRAホームページ

「昨年の京都記念だな・・・これがどうしたっつうんだい?」

イカ社長がいった。聖子ママが答える。

優勝レイが見える画像を選んで使ったと思うの。第117回。下二桁はどうでもいいわ。京都競馬場100周年記念の今年で、京都記念がある今週なら、重要なのは『100』という数字よ」

2025
京都)競馬場開設100周年記念

JRAホームページ画像
第117回 (京都)(記念

波瑠の朝ドラ『あさが来た』は第93回・・・第100回は広瀬すずの『なつぞら』よ!」

2015/9/28~2016/4/2
第93回 朝ドラ『あさが来た』
主演:波瑠

2019/4/1~2019/9/28
第100回 朝ドラ『なつぞら
主演:広瀬すず

みんながおおという声を挙げた。

季節の春を兼ねる“波瑠”登場は、京都競馬場開設100周年である今年にふさわしい、『』を含むタイトル、かつ区切りの第100回の朝ドラ『なつぞら』をも示唆するというカラクリだ。

「すごいです、ママさん!」

貫一郎が興奮していった。

「広瀬すずって確か、お父さんがサイレンススズカのファンでつけた名前でしたよね?」

聖子ママが頷く。

「サイレンススズカのラストゼッケンは秋天の1番・・・同じ芝2000の金鯱賞、ゼッケンは5番だったわ」

1998 第34回 金鯱賞
5-(05)サイレンススズカ(武豊)

1998【第118回】天皇賞(秋)
1-(01)サイレンススズカ(武豊)中止

~~~

小倉ジャンプS(旧季節タイトルレース)
1-(01)アサクサゲンキ
4-(05)サイード

※同一週重賞【第118回】京都記念

「なるほどなあ・・」

イカ社長が何度もうなずきながらいった。

「サイレンススズカの戦歴から、アサクサゲンキとサイードにつながるレースだけを抜き取るのはちょっと強引だが、波瑠から広瀬すずを介してサイレンススズカが出てくるとは思わなかったぜ」

みんなが頷いた。

■ ソクラテスの弁明

10分間の休憩後、ミスターが今までの考察をまとめてくれた。

「若手騎手の不祥事や早すぎる引退が続いていますが、JRAからの隠れメッセージがあるとすれば、腐らず毎日コツコツやれということでしょうか」

みんながうんうんと頷いた。

AKB48の『365日の紙飛行機』はまさにそのことを歌っている。飛んだ距離は問題ではない。どこをどう飛んだのか。そこが大事なのだと。

365日の紙飛行機 - AKB48

「一昨年の小倉サマージャンプを勝ったテーオーソクラテス・・・哲学者ソクラテスには『ソクラテスの弁明』というものがあります」

みんながミスターに注目した。

「彼は、『国家の信じない神々を導入し、青少年を堕落させた』として裁判にかけられた。その際に語った言葉が『ソクラテスの弁明』・・・結果、有罪となり処刑されるのですが、彼の残した言葉に『無知の知』というものがあります」

鞭の血?」

別の意味に解釈しているケチャ子は、両腕をさするような真似をした。ミスターが笑いながら首を振る。

「そのではなく知らないという無知・・・つまり、自分が無知であるということを知っているということです」

「ひらたくいえば・・」

イカ社長がいった。

「いつまでも謙虚でいろっつうこった」

ミスターが大きく顎を引く。

「別の言い方をすれば、自分は大物なんかではなく、まだまだちっぽけな存在だと認識することでしょうね。昨今の若手騎手の不祥事には、騎手免許を持ったために、少なからず天狗になっているという背景はいなめないでしょう」

みんながなるほど頷いた。

「アサクサゲンキには牧加也太、サイードには坂忠士・・・いずれも『』ではなく『』というわけです」

小倉ジャンプS
1-01 アサクサゲンキ(牧加也太)
4-05 サイード   (坂忠士)

■ ドクニンジン

仕上げは聖子ママがみんなに配った飲み物だった。小さいグラスに入った、オレンジ色の液体だ。

「この話の流れからすりゃあ怪しいぜ・・」

手をつけないイカ社長を無視し、ケチャ子と貫一郎は一息に飲んだ。

「おいしい! にんじんジュースですね!」

「うん、にんじんの甘みが出ててグビグビいけちゃうわ!」

「無知つうのは怖いねえ」

イカ社長が笑いながらいった。

「ソクラテスはドクニンジンで処刑されたんだ・・・もっとも、処刑っつっても自分から杯を持ったらしいがな」

聖子ママが頷いていった。

クイーンC(14頭
4-05)ロートホルン(キャロット
6-10 ロンドボス  (キャロット・逆5

小倉ジャンプS(14頭
4-05)サイード

ドクニンジンが示唆する、同じ4枠5番のサイードってわけね?」

ケチャ子の言葉に聖子ママが頷き、満場一致でカフェ・ド・イーグルの勝負馬券が決まった。

小倉ジャンプS
◎1番 アサクサゲンキ
〇5番 サイード
▲4番 テイエムタツマキ

単勝:1番 アサクサゲンキ
馬連:1-5
ワイド:1-(4.5)
3連複:1-4-5
3連単:1→(4.5)→(4.5)

■ 編集後記

▲4番テイエムタツマキの解説。

・2000年レープロ配布・重賞インフォメーション過去優勝馬

京都競馬場イベント メモリアルレープロ配布より、同じ「テイエム」冠名馬のテイエムタツマキ。

重賞インフォメーションの過去優勝馬も、2000年のテイエムオペラオー(京都記念)でした。


JRA-FUN 第1回 京都競馬場イベント


JRAホームページ

・角田大河シーズンリッチ

2023 毎日杯
3-03 シーズンリッチ(角田大河)

小倉ジャンプS
3-03)アランデル
3-04 テイエムタツマキ(正4
4-05(角田晃一

7-11 エンデュミオン(逆4
End)ymion

英語表記が「Endymion」のエンデュミオン。

移動、改称の“第1回”小倉ジャンプSなら、
END」の対角が使われるのではないか?

・クイーンC 予想

◎は本編で触れた12番コートアリシアン

クイーンC
コートアリシアン
(【坂井】瑠星・【伊藤大】士)
坂井(さかい)→(葛西)紀明
伊藤大士   →(伊東大)貴

クイーンC
◎12番 コートアリシアン
単複:12番

トップ画像引用:東スポ競馬


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