2022年12月・2023年1月映画感想
今回はシリアス作品、そして傑作が多かったように思います。『あのこと』『ノースマン』『SHE SAID』『母の聖戦』など、圧倒的無力感が半端ない、ちょっと回復するのに時間を要する作品と同時に『THE FIRST SLAM DUNK』『モリコーネ』『ケイコ 目を澄ませて』といった優れた作品が混在する、印象的な年末年始の映画体験でした。
『あのこと』
映画は堕胎が違法であった60年代のフランスで予期せぬ妊娠してしまった女性アンヌの物語。原作者アニー・エルノーの実体験をもとにした小説「事件」は2022年ノーベル文学賞を受賞し話題になりました。
映画を観た2022年12月中旬、その年の漢字「戦」が発表されました。まさに映画も孤独で味方のいないアンヌの戦いそのもので、堕胎のシーンが壮絶でした。怒り、後悔、情けなさ。様々な感情が入り混じったアンヌの表情に思わず息を呑みます。忘れられない映画体験。忘れてはならない一本。
『THE FIRST SLAM DUNK』
中学時代はバスケ部だったんですよ。もちろんスラムダンクは読んでいましたが、どんどん音楽の方が好きになってしまって…結局バスケは辞めてしまったんです。当時は漫画と音楽雑誌、同時に読む器用さがなかったのか、スラムダンクは読まなくなりました。
しかしこの映画を観て良かった。
当時がなんだか懐かしくなりました。ゴール下から見た景色、相手がコートへ引き返していく時の景色、いろんなものがふっと脳裏に浮かんで。あの時ベンチを温めていたからこそ今の自分があるのかも知れません。
『ケイコ 目を澄ませて』
ケイコの表情、下町の街並み、川原、老朽化したボクシングジム、そこから生みだされる圧倒的な情景や音。静けさの中から立ち上がる情報の豊かさに驚かされます。あのアコースティックギターの鼻歌も最高。全てが完璧とすら思える。第96回キネマ旬報で2022年の日本映画1位選出は納得。
『そして僕は途方に暮れる』
2023年の初映画です。
みんな曲者。笑いました。
『恋のいばら』
玉城ティナがダンサーの役でした。無表情で踊るその姿がとても印象的で、背後に流れる曲がなんだか頭から離れないんですよね。
『モリコーネ』
素晴らしい映画でした。
近年観た映画のなかでもかなり好きな作品。音楽が素晴らしければ内容が無いような映画でも傑作入りしてしまうわたしにとっては、最高の一本。
別にモリコーネがそこまで好きなわけでも無いのですが。これを観た今となってはエンニオを聴きながら街歩き。いつもと違って見える街並みに酔いしれる。そんな新しい趣味ができました。
そして何より彼が手がけた作品全てを観たくなりました。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を見直しましたが、これエンニオの音楽がなかったら全く違う映画、評価だったろうなぁ。
映画とは?映画音楽とは?真に迫るような作品。傑作。
『非常宣言』
「論破よりも突破」
『犯罪都市』のマ・ドンソク、そして『非常宣言』のソン・ガンホ。彼らの突破力はもはや人間の所業とは思えません。警官、だいたい班長と言われている彼ら警官の勧善懲悪ものってやっぱり面白い!さすがに「そこまでするかっ!」と思いましたが、そこはエンタメ。オッケーです。
そんな彼らの生き様にはなんとも言えない爽快感を感じます。最近アメコミ映画ですらちょっと難解で善悪がグレーですから。「こういう映画を観たかったんだ」と唸るファンも多いはず。ちなみに班長たちのようなアウトロー願望は昔からあるのですが、願望で収まっているわたしはやはり健全なんだといつも思います。
『ノースマン』
「スノーマン」に見えがちですが、天と地の差がありました。
『SHE SAID その名を暴け』
キャリー・マリガンの貫禄。
カッコよかった。皆さんも指摘するところですが『プロミシング・ヤング・ウーマン』の印象が残っていて、それがうまく働いたかも知れません。
グウィネス・パルトローの元カレだったブラピのPLANB製作。狭い世界なんでしょうね。きっと。そしてこんな力作がアカデミー賞レースに全く絡んでないことに愕然としますね。今回のこのことでまだまだ閉鎖的な業界であることがなんとなく分かりました。
『母の聖戦』
怖かった…
娘をカルテルに誘拐された母親の復讐劇。実在の人物をモデルにしたこの映画ですが、観ていてあまりの辛さで逃げ出したくなりました。しかもこんな映画を『ノースマン』と同じ日にハシゴしてしまったわたしはどんだけ恐怖に飢えているのか?しかしながらその日はこの時代、この日本に生まれたことに痛く感謝したのを覚えています。
映画には描かれていませんが、モデルとなった母親はカルテルによってその後殺害されてしまったようで、なんかそれを知ってさらにblueになりました。やるせないです。
大きなランドセルを背負ってひとり通学する小学生を見ます。心配でつい声をかけたくなりますが、声をかけた瞬間、わたしは不審者扱いされるのでしょう。
今回は以上です。
それではまた!