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アクションの夜明けスティーブ・リーブス『ヘラクレス』『ヘラクレスの逆襲』

 この3人の俳優をまずご覧ください。

ドウェイン・ジョンソン、1972年生


シルヴェスター・スタローン、1946年生


アーノルド・シュワルツェネッガー、1947年生

 この3人は共通して、幼き頃あるいは若き日に一人の俳優の影響を受けて肉体美を目指しました。その今や伝説的俳優の名前がスティーブ・リーブスです。

スティーブ・リーブス『ヘラクレス』より

 正しくはSteve Reevesなので、スティーヴ・リーヴスと表記するべきなのですが、昔のポスターで「スティーブ・リーブス」と印刷されているのがわたしは好きなので、今回はスティーブ・リーブスと記します。
 リーブスの略歴ですが、1950年のボディビル界の頂点、ミスター・ユニバースで優勝、同じ頃に俳優デビューしました。この頃の出演作品はハワード・ホークス監督、マリリン・モンローとジェーン・ラッセル主演のミュージカルコメディ『紳士は金髪がお好き』(1953)の序盤でジェーン・ラッセルが歌うバックで、オリンピック選手の一人としてセリフもなくクレジットなしの出演しています。これがスクリーンデビューでしょう。翌年には悪名高いエド・ウッド監督の『牢獄の罠』という未公開作に出演、これはちゃんとクレジットされました。しかし、この2本はあまりにパッとしないし、役者として気がつかない。このまま消えていくかと思いきや、57年にイタリアへ渡って出演した『ヘラクレス』、さらに翌年の続編『ヘラクレスの逆襲』が世界的大ヒットとなって一躍有名になりました。この世界は何が起こるかわかりませんね。
 50年代の終わりに公開されたこの2本はイタリア史劇ブームと言いますか、ソード&サンダル映画ブームを巻き起こしました。これが60年代半ばまで続いて、その後はマカロニウエスタンブームに移ります。
 『ヘラクレス』の権利元はイタリアを代表する映画スタジオ、クリスタルディ。このクリスタルディ社からは他にもクラウディア・カルディナーレの初期の作品やHDリマスターされたてホヤホヤだったシルヴァーナ・マンガーノの『にがい米』、長く幻となっていたスーザン・ストラスバーグの名作『ゼロ地帯』も購入しました。特に『にがい米』の画質の素晴らしさは申し分ありませんでした。今まで観てきたのは何だった??

 クリスタルディ社はさすがに一世を風靡しただけあってアーカイブは充実していましたが、こちらのピックアップリストにあった、同じスティーブ・リーブス主演でわたしの好きなミレーヌ・ドモンジョがヒロインの『マラソンの戦い』はSDマスターしかなく、HD化するまで待つしかありませんでした。5年以上たつ今でも発売されていないところを見ると、HD化の旗振り役がいないのでしょうね。

『マラソンの戦い』イタリア盤DVD

 ただ、ちょっと調べるとイタリア盤(日本と方式が違うので日本のDVDプレイヤーでは観ることができません)が出ているようで、おそらく画質的には見劣りするバージョンだと思います。
 話を『ヘラクレス』に戻しますと、この作品は準備を進めているうちに各方面で熱狂的なファンの方々がおられるということが分かってきました。
 そもそもソード&サンダル映画は今なお人気が高く、このジャンルは今でも制作されるくらい、映画界においては1つの潮流だと思います。映画評論家の二階堂卓也先生がご自身の名著かつ貴重な映画資料である『剣とサンダルの挽歌』の「はじめに」でこのように書かれています。(以下引用)

 現在、忘れられたジャンルの一つにイタリアのスペクタクル史劇がある。神話や聖書を素材に、あるいは古代ギリシャやローマ時代を背景にして戦いや冒険を描いたこの種の映画はイタリアでペプルム(peplum)、アメリカで剣とサンダル映画(sword and sandal film)と呼ばれ、60年代初頭に重要な娯楽映画として花開いた。その発端となったのは1957年に作られた『ヘラクレス』である。

  そう、このジャンルの一大ブームを起こすきっかけとなったのがこの作品『ヘラクレス』なのです。となれば国内盤制作も気合が入るわけで、できる限りの素材をクリスタルディに提供してもらいました。場面写真はそれなりにあり、また当時使用された映画館用のロビーカードの素材を見つけました。これは特典に使えるなと思いました。さらにスティーブ・リーブスの大き目の写真データ、これはA3くらいのポスターにして封入しようか迷いましたがコストが合わず、というかそれを入れるとケースが大きくなって単価が高くなってしまうので諦めました。問題はキーアートでした。イタリア版のジャケットがどうもいまひとつ。

いかにも「ありもの」で適当に作った印象

 こういう場合、わたしのポリシーとして守りたい事がありました。わたし自身、手元に置いておきたい映画というのは、公開当時の記憶や、観た頃の思い出をまとっているものであり、DVDはその時代を感じさせるパッケージングであるべきだという点です。『砦の29人』の鬨もそうでしたが、やはり当時のデザインにこだわりたい。そこで国内で当時のものを調達しはじめましたが、なかなか見つかりません。封入ブックレットの解説を、第一人者である二階堂卓也先生に依頼済でしたので、きっと先生なら何かしらお持ちであったと思うのですが、「ポスターが残っていれば貸してください」というのもなんとなく憚られ、さてどうしようかと考えていました。
 ところが、この商売を始めてから、実際にDVDを購入してくださるお客様と直接お電話でお話ししたり、お手紙のやり取りをすることが多くなって、西部劇には西部劇の、サスペンスにはサスペンスの、その道に詳しい先輩映画ファンと繋がりを持つことができるようになっていました。そして当然のごとく、スティーブ・リーブス作品にも特別の思いをお持ちで、数多くの資料を提供していただいたTさんという方がいらっしゃいました。現在のジャケットのキーアートはその時Tさんにお借りしたポスターをスキャニングしたものです。

 これでメインが固まりました。さらにほどご紹介した購入特典『ヘラクレス』『ヘラクレスの逆襲』の2枚とロビーカード8枚をセットにした「コレクターズBOX」も発売しました。

 もう売ってないかなと思ったのですが、まだ在庫があったんですね!
 こういうDVDの特典を企画したり考えたりする仕仕事はとても楽しく、素材も充実していたのでスムーズに制作できました。そしてTさんに本当にいろいろと助けて頂いたり、情報を共有していただいて本当に助かりました。この場をお借りして感謝申し上げます。
 Tさんとはわたしがこの仕事を後任に譲り、別事業へ異動してからも続けさせていただいて、わたしにはとてもありがたい先輩映画ファンの存在です。そして今度はわたしもまだまだ多くのスティーブ・リーブス作品の復刻を待ち望む一人となりました。
 『ヘラクレスの逆襲』に続いて出演した、これが一番観たい『鉄腕ゴライアス・蛮族の恐怖』、クリスチーネ・カウフマンと共演した『ポンペイ最後の日』、セルジオ・コルブッチ監督の『逆襲!大平原』、それからマカロニ・ウエスタンの『地獄の一匹狼』なども観たい。他の復刻シネマライブラリーでは唯一、ワーナーアーカイヴにあった『闘将スパルタカス』を復刻できました。

 リーブスはあのスパルタカスの息子だったという役どころでした。キューブリックの『スパルタカス』の続編のつもりで制作したんですね。
 もう1本、この時代に量産されたソード&サンダル映画で、『ヘラクレス・サムソン・ユリシーズ』も復刻できました。

 二匹目のどじょうを狙うのは映画界の常で、スティーブ・リーブスに続けとばかりボディビルダー界から何人も俳優に転向した、第二のリーブスとなった人もいました。この作品でヘラクレスを演じたカーク・モリスや、マーク・フォレストなどなど。でもやっぱり先駆者の存在感は追従を許さなかったように思います。

 以下、無用の事ながら。

 リーブスらのような、鍛え上げられた男性の肉体美が映画の醍醐味ではありますが、ソード&サンダル映画には美しき女優の共演というのも見どころの一つでした。『ヘラクレス』シリーズでは、わたしの好きなシルヴァ・コシナ。

当時24才、クロアチア出身

 『マラソンの戦い』のミレーヌ・ドモンジョ。

当時24才、フランス、ニース出身

 『ポンペイ最期の日』のクリスチーネ・カウフマン。

当時なんと15才、オーストリア出身

 筋肉と美女の取り合わせが当時のマーケティングによるものなのか、ヒット作のフォーマットに従っているだけなのか、いずれにしても観客の観たいものを徹底的に追及した、この時代のイタリア・スペクタクル映画という映画遺産はもっと注目されて発掘されることを願うばかりです。

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