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イタリアの艶笑譚詰め合わせ『もしお許し願えれば女について話しましょう』と『バンボーレ!』

 『もしお許し願えれば女について話しましょう』が9話、『バンボーレ!』が4話、合わせて13話のイタリア艶笑譚を紹介します。
 まあ、この2本は復刻の「息抜き」みたいなもので、父のリクエストもあり、川本三郎先生と知り合うきっかけにもなった『激しい季節』でエレオノラ・ロッシ=ドラゴをもっと見たいと思い、フィルモグラフィの中から見つけ出したのが『もしお許し』です。監督は全編エットレ・スコーラ。わたしが大学時代はエットーレ・スコラと表記されていました。スコーラといえば若いころ観て印象深いのが2本あって、1つは『パッション・ダモーレ』。

 今でも強烈に印象に残っていて、一言で言えば「醜女の深情け」(ラウラ・アントネッリではありません、しかも脇役)の話です。もう1つは『スプレンドール』。

 こちらは大人版『ニューシネマ・パラダイス』ですが、映画館の案内係に入れ込んで、そこで働くようになった若者が、その女性そっちのけで映画にのめり込むのが面白い作品でした。
 『もしお許し願えれば女について話しましょう』のショートコント9話はざっとこんな筋書きです。全話主人公の男を芸達者なヴィットリオ・ガスマンが一人で演じ分けます。
 (第1話)『案ずれば損をする』。猟銃を肩にした男(V・ガスマン)が夫を訪ねて現れる。男のただならぬ雰囲気から妻は復讐のために現れたと察する。その猟銃で夫を殺されると勘違いしたその妻は夫の命を守るため、とんでもない行動に出る。そんなバカなという話。イタリア人のこの非ロジカルシンキングは今の日本では絶対に受け入れられないでしょう。
 (第2話)『おもて笑顔でうちしかめ面』。今の言葉で言うと「ウザい」イタリアの男。にぎやかでおしゃべり、楽天的で社交的、誰彼構わず話かけまくる男が自宅へ帰ると・・・。このエピソードは「女について」は語っていなくて、イタリア人男性のある側面(たぶん当時のイタリア人観客は「あるある」で面白がったのではないかと)を描いています。
 とにかくこのガスマンがうざい。うざいガス充満。これと自宅のガスマンが別人になるのが面白い。
 (第3話)『よその女房を寝取るよろこび』。ローマの夜、男が町で拾った女の家へ行くが、その女の夫が帰ってきてしまう。そこで女の芝居でこの窮地を乗り越えようとする。プロットはよく見かけるものですがわたしはなぜか『ブルーベルベット』を思い出しました。
 (第4話)妹を騙してモノにした色男に、兄が文句を言いに行くが・・・。このプロットもわたしはなぜが『ゴッドファーザー』でソニーがコニーの夫、カルロのもとへ行く場面を・・・。本作と事の顛末は全く違いますけどね。
(第5話)男のベッドで目を覚ました女が慌てて身支度をして出て行った。その行く先は意外な場所だった。日本で作られるなら「女のベッドで目を覚ました男が・・・」。主人公を男にするか、女にするかで物語の面白さが変わってくる、そのお手本のようなシナリオでした。
(第6話)自家用車族の紳士専門の高級娼婦の車に乗り込んだ男の本当の目的とは? 当時まだ自家用車を持つ=上級社会の高所得者の特権、シンボルだったわけです。高級娼婦の車に乗り込むことが意味する「進行コード」をどのように逸脱していくかが面白いところです。
(第7話)女房の懇願で二日間の仮出獄を許された男。しかしこれが女房の罠とは知らず・・・。そんなにうまくいくとは思えませんが、これは映画の中のおはなし。『仕立て屋の恋』みたいになると湿っぽくなりますが、この手の話はコメディタッチが一番です。
(第8話)街を流す屑屋が上がりこんだのは妖艶な有閑マダムの部屋だった。いよいよ『激しい季節』のエレオノラ・ロッシ=ドラゴの登場。


1925年イタリア生まれ イタリア女優ここにあり、といった感

  「妖艶な有閑マダム」ってそのまんまのイメージで存在感抜群です。ドラゴで思い出しましたが、ドラゴが出演する『埋もれた青春』『人間魚雷』そして『全艦船を撃沈せよ』は権利元を探しましたが復刻できませんでした。『全艦船』はパラマウントでしたがHDマスターがありませんでした。(第9話)美しい金髪娘は、その気の彼氏をじらしにじらすのだった。その皮肉な結末は・・・。「大トリ」はシルヴァ・コシナ。

1933年生まれ、クロアチア出身 ハリウッド女優とはまた違う気品が漂います


 わたしは『ヘラクレス』の時のコシナがご贔屓で、当時彼女は28歳。本作はもう31歳になっているのですが、変わらぬ美貌で、大いに喜ばせてくれました。が、ストーリーがストーリーでして、「男をじらしにじらす」という実にもどかしい話、自分がじらされる方の感覚で観てしまうので参りました。

 さてもう一つのイタリア艶笑譚『バンボーレ!』。『もしお許し』が9話の詰め合わせに対してこちらは4話と、まるで高級焼き菓子の大きな立派な缶と、実家のおみやげ用に買う千円くらいの箱くらい差がありますが、この2本は続けてご覧になるのがお薦めです。
 第1話『電話の呼び出し』、監督はディーノ・リージ。
 家に帰ってきた夫(N・マンフレディ)は、セクシーな妻(V・リージ)とのひとときを楽しもうと考えていたところに邪魔が入った。妻の母親からの電話だった。その電話のあまりの長さに耐えかねて彼は・・・・。
 登場するヒロインはヴィルナ・リージ。

1936年イタリア出身 2014年に78歳で亡くなった

 日本でやるなら、男は船越英二、女優は若尾文子。ヴィルナ・リージはハリウッドとも関係が深く、何本も出演していますし、ジェームズ・コバーンとアカデミー賞授賞式のプレゼンターを務めたこともあります。お話しはいつもの「じらし系」。
 第2話『優生学理論』、監督は『ブーベの恋人』のルイジ・コメンチーニ。
 ウラ(E・ソマー)は、ローマで運転手を雇って理想の男を探していた。彼女は優生学の学者で、恋愛には興味が無く、優れた男と結婚して美しい子を生むのが狙いだった。しかし理想の夫はなかなか見つからなかった。

1940年生まれ、ドイツ出身 

 エルケ・ソマーは生物学の学者という役どころで、これに似た話が1962年のキム・ノヴァクとジェームズ・ガーナーが共演した『プレイボーイ』。

 こちらはキム・ノヴァクが社会学の学生で、「郊外成人男性の思春期的性の幻想」という博士論文を書き上げるためにガーナーたち男性4人を相手に疑似恋愛的な実地調査をするという楽しいコメディ。本当にシナリオが良くできていて、ガーナー以外の男性は妻子持ちなのだが、ノヴァクの元で浮気を楽しむのかと思いきや、家ではできない自分のやりたいこと・趣味に没頭する、という話。どちらも女性が男性の行動を観察し、手玉に取るのが楽しい。
 復興シネマライブラリーではエルケ・ソマーとシルヴァ・コシナが水着で共演していっぺんに美女二人を鑑賞できる『キッスは殺しのサイン』も早々にリリースしていたのを思い出しました。

 第3話『スープ』、監督はフランコ・ロッシ。
 ジョヴァンナ(M・ヴィッティ)の年の離れた夫は、大きな音をたててスープをすする癖があった。ジョヴァンナは夫に我慢ならなかった。彼女は、廃品集めの男に金を払い、トラックで夫を轢き殺してくれるように頼む。
 今の若い人の言葉で「蛙化現象」というのがあります。
 好意を抱いている相手が自分に好意を持っていることが分かると、その相手に対して嫌悪感を持つようになる現象を指す言葉のようですが、それが転じて好きだったのに「生理的に無理」となってしまう感情を、広く全般的に使われているようです。なぜ蛙なのかというとグリム童話の『かえるの王さま』からきています。このエピソードはまさにそれ。
 それにしてもモニカ・ヴィッティのぜいたくな使い方。

1931年イタリア出身

 モニカ・ヴィッティといえばミケランジェロ・アントニオーニのミューズでした。そういえばアントニオーニはヴィッティにプロポーズもしたそうです。公私ともにパートナーだったのにヴィッティは結婚しませんでした。これ、珍しいパターンだと思います。だって、女優と監督、みんな結婚してるじゃないですか。
 第4話『キューピット神父』、監督は名匠マウロ・ボロニーニ。
 ローマを訪れたアークディ神父は、長年彼に仕えてきたハンサムな甥のヴィンチェンゾ(J・ソレル)を同行させていた。彼に一目惚れしたホテルの女主人ベアトリーチェ(G・ロロブリジーダ)は、ヴィンチェンゾを誘惑し始める。

1927年イタリア出身 去年2023年95才で亡くなった

 このボロニーニによる艶笑譚は現代風なアイロニカルに溢れていて、まあ、ちょっと遠いですけど映画で言えば『悪魔のはらわた』的な、現代風に言えば多様化と言いますか。それがこの時代に表現されていたというのが驚きでもあり、映画人の自由さ、表現の広さを感じました。
 ロロは復刻シネマでは『空中ぶらんこ』をリリースできたのがうれしかったです。
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  今回紹介したオムニバス映画などは今の若い映画ファンの方々でも、味わえると思います。
 わたしがよく独りで楽しむように、いまの映画界でリメイクしたら誰をキャスティングするだろうか、みたいな妄想は楽しいですね。


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