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小料理屋に通うように

仕事場の近くにあるセブンイレブンで、ぼくはおでんを頼んでしまった。

夕食と明日のご飯をあらかた揃えてレジに並ぶ。2つあるレジの右側に、Rさんがいた。

うしろの客をやりすごして、Rさん側にいけるように譲りながら待つ。ぼくの順番。

「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます。」

懇切丁寧ではなく、決められたセリフを棒読むでもない。ほんの少し大きな独り言のように、レジを打つ前にRさんは言う。そして、目を合わせることもなく、逸らすこともなく、絶妙な距離感を保ちながらお買い物は進む。

「あの、おでんもいいですか?」

ぼくはなぜか言ってしまった。

「承知しました。では先におでんを選びましょう」

とRさん

「大きな器にしておきますね」

すじ肉、厚揚げ、ごぼ天、大根、あとは玉子

「お出汁多めにしてもいいですか」
 ーお願いします
「これくらいにしておきますね」
 ーありがとう

そして、レジに戻りそのほかの買い物をスキャンする。袋に入れてもらって、ぼくは払うべきお金を機械に流して、機械が返してくるお釣りをとる。

「寒くなってきたので、暖まってくださいね」

目を合わせるでもなく、逸らすでもなくRさん。

ぼくは、少し考えて、はい。と答えて、おでんたちを受け取る。

「ありがとうございます。お気をつけて」

ふいに、ご馳走様と言いそうになった。
なんとか留まって、ありがとうございますと伝えお店を出た。

5分ほどの道のりをぼくは、少しウキウキしながら、おでんたちを抱えて帰った。

Rさんは、おそらくぼくの母親より少し年下くらいなんだと思う。忙しくてもせかせかせず、いつも所作が綺麗で、変に笑顔を振りまいてもいない。表情が柔らかいから、不機嫌には見えない。

小料理屋さんに来たみたいだな。

数ヶ月前にそう思ってから、レジにRさんがいると少し嬉しくなって、コンビニでの買い物だけど、カウンターに並ぶおばんざいを選ぶ時のような気持ちになれる。

そんなこんなで、おでんの気持ちになってしまった。

ぼくは、腹が減ることよりも、美味しいと思えない方がつらい質だ。それは決して高価なものということではなく、空腹を満たすだけなら、満たさなくてもいいと考えてしまう。スーパーの半額惣菜だとしても、愉しみたい。だから、食べるときにいろんな工夫をする。半額になったおかずの気持ちになって物語を作ったり、具体的にアレンジして好みの食べ物にしつらえたり。

ぼくにとって、港のセブンイレブンは小料理屋に通うような気持ちになれる場所なんだ。




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渡部勝之
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