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Bounty Dog【清稜風月】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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2023年4月の記事一覧

Bounty Dog 【清稜風月】53-54

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 今日の日雨は変だった。味覚が可笑しくなっていた事もあったが、痩せているのに飯を多量に食べ、間食も多めに食べ、座ったまま頻繁にうたた寝もしていた。
 今日は睦月の指示で”麗音蜻蛉・狩猟情報漏洩犯”兼”『黒い本』を国の指導者等に送付した謎の人間”探しは中止した。変になっている虫の亜人の護衛を、彼女の幼馴染の人間と一緒にする事になる。ヒュウラは指示された時に何の感情も抱かなかった。日雨の護衛は

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Bounty Dog 【清稜風月】51-52

 “笑う”という顔の表現は、心中がどんな状態でも意味を変えて使う事が出来る万能表現である。

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 ヒュウラの櫻國滞在は、初日に半強制で行った亜人・麗音蜻蛉の保護任務の一件以来、麗音蜻蛉の日雨を護衛している人間の猟師・睦月と毎日のように山の麓から離れた場所にある町や入出国審査場、他の島にある土地を巡って”狩り情報漏洩犯”の情報収集をしていた。
 毎日毎日山から色んな場所に連れて行かれては、その

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Bounty Dog 【清稜風月】48-50

48

 ヒュウラは深夜遅くまで、山の頂上付近にある日雨の家の縁側で胡座を掻いて座ったまま月を眺めていた。顔は相変わらず仏頂面で、だが心の中で半生という己だけの記憶の世界を巡っていた。
 此の国の今の季節も、砂漠地帯よりは穏やかだが気温差が激しかった。日雨に引き寄せられて周囲で鳴いている春の虫達の大合唱が喧しく聞こえても、冷たい風を体全体に受け続けても、彼は頭の中で記憶の世界を旅する事を辞めなかっ

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Bounty Dog 【清稜風月】47

47

 ヒュウラは睦月から言われた言葉を未だ覚えていた。但し覚えていたのは”星の代弁者”である鼠の亜人達にかつて人間がした取り返しが付かない大罪の事でも、その後に人間が贖罪として行っている星と己達を含む生き物を滅びから救う活動の事でも無い。そんなモノはやはり興味が無いので案の定直ぐに忘れたが、唯一ハッキリと覚えていたのは”物は使い方を変えて再利用出来る”という気付きだった。
 これまで人間の道具

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Bounty Dog 【清稜風月】46

46

 今日も夕食(ゆうげ)後に、日雨がヒュウラに外の世界の話をしろとせがんできた。半年と2週間で己に起こった出来事は昨日話したと短い言葉で伝えても、相変わらず図々しい虫は狼に外の世界の話をしろとせがんでくる。
 強引に縁側へ連れていかれた狼の亜人のヒュウラは、虫の亜人の日雨に、己が産まれた時から半年と2週間前までの話をした。同種である身内の名前を他の生き物に伝えたのは、約10年ぶりだった。
 

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Bounty Dog 【清稜風月】44-45

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「あの真ん中にある大きな建物の奥側は”本丸”。手前にある部分は、見張り用の区域で”天守”。本丸と天守の横にある建物は”二ノ丸”って言って、堀を挟んで建物全体を覆っている外壁、”曲輪”の直ぐ側にも建物が別で1軒ある。アレだよ、”三ノ丸”」
 睦月は袋を右手に掴んでいる状態で、左手で掴んでいるリードの先にいる隣に立たせた狼の亜人に、目の前で広がるように建っている巨大な建物について説明していた。

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Bounty Dog 【清稜風月】42-43

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「ヒュウラ、やっぱりとんでも無い事になった。国が大きく動くかも知れない」
 睦月・スミヨシは町の一角にある川辺近くの桜並木の道を歩きながら、横で一緒に歩いている狼の亜人に向かって話し掛けてきた。ヒュウラは仏頂面のまま舞い散る大量の桜の花弁を全身に浴びながら、口だけ動かして睦月に言う。
「この島が」
「言うと思ったけど、島自体は動かないよ」
 睦月は眉をハの字に寄せながら即答した。ヒュウラが

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Bounty Dog 【清稜風月】40-41

40

 甘夏・カンバヤシと槭樹・イヌナキを先頭に、睦月・スミヨシと槭樹の部下達が後方に並んで山から下りていく。ヒュウラも木々の枝々を跳ね飛んで影から人間達を追跡した。コノハ・スーヴェリア・E・サクラダ保護官も密かに影のように追う。
 鳥居と地蔵が並んでいる山の麓近くまで皆が着いた時、山の頂上から大きな音色が響いてきた。ヒュウラとコノハを含めて全員が音が聞こえて方向を見つめる。甘夏と槭樹が聞き取れ

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Bounty Dog 【清稜風月】38-39

38

「ウマノ(人間)として存在を消されているんだったら、都合の良い事しかしない祖国なんて見捨てて、ファンタスマ(幽霊)としてやりたい放題してやる。当たり前だろ」
 小麦色の肌をしている黒髪の人間の少年は、澄んだ緑色の目で東の島国の国花達を眺めていた。吹雪のように風に乗って大量に吹き流れていく桜の花弁を全身に受けながら、何の感情も抱いていない亡霊がするような真顔で、花見を楽しんでいる周囲の人間達

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