Bounty Dog 【清稜風月】47

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 ヒュウラは睦月から言われた言葉を未だ覚えていた。但し覚えていたのは”星の代弁者”である鼠の亜人達にかつて人間がした取り返しが付かない大罪の事でも、その後に人間が贖罪として行っている星と己達を含む生き物を滅びから救う活動の事でも無い。そんなモノはやはり興味が無いので案の定直ぐに忘れたが、唯一ハッキリと覚えていたのは”物は使い方を変えて再利用出来る”という気付きだった。
 これまで人間の道具やその他の物を、今は無い『リカルドの巨斧』と今も持っている100エード硬貨以外は1度限りしか使っていなかった。2つに関しては使い勝手が良過ぎたので自然に再利用していたが、他の道具も全体的に使い方の幅を広げてみようと考え始める。
 今、ヒュウラは縁側に胡座で座りながら、睦月に貰った手甲鉤を膝の上に置いて見下ろしている。日雨は家の中に戻って寝室で早めに就寝していた。代わりに現在己の隣に座っていたのは、己に手甲鉤をくれた人間だった。
 ヒュウラは無表情のまま、隣で素足を前に投げ出すようにして座っている猟師の青年の顔を覗き込む。睦月は狼の亜人の視線に気付くと、柔らかく微笑んできた。仏頂面で己を凝視してくるヒュウラの顔から目を外して今日1日共に行動した相棒の膝の上に乗っている鉄製の狩り道具を一瞥すると、ヒュウラの顔に再び視線を向けてから呟いた。
「盗み聞くつもりは無かったんだけど。日雨がさっき君に喋っていた話を、隣の部屋越しに僕も聞いていた。麗音蜻蛉って実は物凄く薄情な亜人。人間全てを『穢(けが)れ』だと思っていて、例え人間の密猟者に仲間が捕まえられても『人と触れた。アレは穢れている』って判断して、捕まっている仲間を当然のように見捨ててしまうそうだ」
 ヒュウラは睦月を見つめたまま、返事も反応もしない。睦月は小さな溜息を吐いてから、言葉を続けた。
「日雨と僕達が出会ったのは13年前。彼女は9歳、僕とあいつは10歳の時だ。あいつの修行サボりに付き合って遊戯(ゆうぎ)場にしていたこの山で、密猟者達に生け捕りにされていた日雨を助けたのがキッカケなんだよ」

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