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待草雪
2021年7月23日 14:28
12 向けられている斧の刃に付く錆が同族の血だと認識しても、ヒュウラの顔に感情が現れない。微動だにせずに武器を掲げる大男を眺めている亜人に代わるように、憤怒を曝け出したミトが銃を構える。ドラムの中の弾丸が擦れ合って鈍い金属音を響かせると、取り囲む敵勢にも聞こえるように声を張り上げた。「一般の人間が許可無く絶滅危惧種に触れる事!ましてや殺傷は重罪よ!!リカルド、国際法違反によりお前を」「法律
2021年7月15日 19:40
8 深夜の山中は、正しく闇だ。生き物の気配は何も感じられず、木々のそよめきが恐怖を誘発させる。ヒュウラの手に掴まれているランタンの光を頼りに、ミトは空間の把握をしながら歩を進めていく。 次第に水のせせらぐ音が耳に聞こえてくると、狭い獣道から広い道に出る。左手に小川が流れる人が整備したらしき障害物の無い小綺麗な土道を暫く歩くと、 突然照明を切ったヒュウラは腕の手錠の鎖を引っ張って、ミトを強
2021年7月9日 22:19
5「こちら、ラグナル保護官。リーダー、ターゲットを捕獲しました」『こちら、コルクラート。了解した、ターゲットは無事か?』「全くの無傷ですが、悍ましい捕獲方法でした。これから彼を連れて山を降ります。麓で待機を願います」 上司が承諾を短く声で伝えてくると、通信を切って無線機をポケットに入れたミトは、右手から伸びる鎖の先を見る。繋がれた先にいるヒュウラという名の青年は、腕を組みながら自分の横に
2021年7月6日 00:22
3 ライダースーツのような黒い服の腰部に厚手の赤い布を巻いた茶髪の青年は、ミトに背を向けて遠くの景色を眺めている。 草木が芽吹く季節の白昼の山は、天から太陽の淡い光が降り注ぎ、強過ぎず弱過ぎない最適な風がマラソンで火照っている身体を心地良く冷やしてくれる。 数フィート先に対岸の崖がある自然の穴の下は、途中で木々に覆われていて底が見えない。尻尾のように一方が垂れた腰布を風に靡かせている青年