晩秋の終わり

 山がよそおいを始めた。そのうち黄落、にしきの波となり、晩秋において有終の美を飾るだろう。地に落ちた葉は虫たちのための布団となる。私はそれを思うだけで心がほっとする。
 あと数日もすれば立冬になる。その手前となる今は、秋の終わりの一時ひとときである。楓やかずらは黄ばみ始め、橙から紅へと変わっていき、山々を鮮やかに彩って、何処かへ行かむとする者の足をさえも止める。近くに川があるならば、錦秋きんしゅうはその川をも色に染め、流れる紅葉もみじは着物の柄にも相応しく、それでいて反物たんものにその美しさを表すことは至難の業であろう。
 秋の終わりは心に響く。生の循環のうち、空気が寒さをまとい、自然の活気が薄れていくこの時期は物寂しさを感じる。自然がしばらく眠りに着くための準備をする。そして秋が終わり、眠り始めると、キラキラと光り、透明、それでいて真白い布団が空から、落ち葉の布団に重なるように降ってくる。そうして冬が訪れる。
 木の葉が落ち、殺風景、もとい、スッキリとした山々を見て、断捨離や禅を思い浮かべる。葉が綺麗さっぱり落ちた木々を見て、髪を切る時と同じように自分の人生もさっぱりしたいのだ。そして初めに身辺整理の計画を立てて、あれやこれやと考えるうちに次は自身の死生観を考え、またあれやこれやと考えると、最後には希望を失い気を病んでしまうのであるが、これはあまりにもよろしくない傾向だ。
 少し話が逸れた。元に戻そう。
 最近になってコオロギやマツムシ、スズムシたちの音色の数が減ったのに気づいたが、虫たちは寒さで体が凍えぬように、もう既に落ち葉の布団をガサリと被って温まっているのだろうか。私は虫たちの生活をよく知らない。何となく、そうであってほしいと思っているだけである。
 葉も落ちた。虫たちは冬眠に入った。嗚呼、さようなら、三つの季節よ。春に咲き、夏に活き、秋に実り、そして冬が来る。また会いましょう。来年の立春に。また会いましょう。季節を彩る草花と木々よ、虫たちよ。生命の輪よ、回れよ廻れ。

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