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「あったかグッズ」(小道具掌編集)

 寝室から廊下に出て一直線にキッチン兼リビングへ向かうのが本来の動線だが、冬の間に限って彩香は戸を開け閉めする手間をかけても和室を経由してリビングに出る。廊下のフローリングに比べ、和室の畳の方が足の裏に伝わる冷感が少ないからだ。彩香はそれほど寒がりである。
 比べて、誠司はどちらかといえば冬の寒さより夏の暑さの方に辟易とする。気温の低い日も室内ではコットンシャツ一枚で過ごしては、薄着、と彩香に睨まれている。
 確かに、誠司には寒がりの気持ちはわからない。あたためてあげようかとおどけて腕を広げても、彩香は素直に飛びこんでくる手合いではとてもない。冷ややかに眺められておしまいだ。でもいたわる気持ちはあるんだよと、誠司は休みの日にあるものを買ってきた。
 はい、と帰ってきた誠司が袋から取り出し差し出したものを、彩香はきょとんと見つめた。
「……ルームシューズ」
 チャコールの、もっこもこの素材を二足。
「誠司も履くの」
「どっちもあーやのだよ。洗い替え」
「……高かったんじゃない」
 手触りがいい、とやや気が咎めたようにルームシューズを撫でさする彩香に笑って、使って、と誠司は言った。

 裏ボアのレッグウォーマー。フリースのネックウォーマー。肩掛けのポンチョ。毎週のように室内用あったかグッズの攻勢だ。この週末も誠司は何か抱えて帰ってきて、彩香は怪訝に迎える。
「今度は何」
「電気膝掛け」
 フリース素材だよ、と事も無げに笑顔で言う。誠司、となだめるように彩香が声をかけた。
「ありがたいけど、そんなに色々買ってこなくていい」
 誠司はにっこり笑って、優しく黙殺する。はい、と有無を言わさず手に持たせて、使ってね、と念を押す。

 誠司はなんなら、彩香を全身もこもこにしてしまいたい。
 柔らかな感触でやさしくくるめて、あたたかく包み込みたかった。
 いつまでも幸せに慣れないような顔をする彩香を、いっそとろかすまで。

 そうして、離れられなくすることができたら。


 ある休日に何気なく和室から出てきた誠司は。そこから見えたリビングのソファの脇から投げ出される、フリースに包まれた脚を見つけて咄嗟に口を噤んだ。彩香が眠っている。そっと歩み寄って見えるベランダの物干し竿では、洗い替えのルームシューズが揺れている。
 ソファの全容が見える位置まで来ると、思わず誠司は立ち止まった。下半身に誠司の贈った電気膝掛けを巻きつけ、上半身はあたたかそうなオーバーサイズの前あきニットパーカーにくるまって身を横たえている。今朝、早朝の冷気におびやかされ誠司が束の間羽織って、日が高くなるころにもういいやと脱いでソファの背にかけておいたもの。
 そうかあ、それを使ったか。――眼福、と誠司は一人握り拳を作って、ポケットからスマートフォンを取り出してしばしどっちつかずに弄り回す。撮っていいかな。起きるかな。怒るかな。その逡巡のくすぐったさも心地いい、冬の昼下がり。

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